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魔王復活編

384.邸に戻ったユキノとカイは

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 昇る朝日を受けて、雪乃は目覚める。

「起きたか、雪乃」
「はい。おはようございます、カイさん」

 雪乃は迎えに来てくれたカイから受け取ったローブを着て木立を出ると、ぴー助の様子を見てからカイと共に邸に入る。ぴー助はまだぐっすりと眠っているので、本当に見るだけだった。
 カイは昨夜、雪乃を邸の裏にある木立に根付かせてから邸に戻り、ナルツたちと共に夕食を取った後、使用人達を下がらせた別室で情報を共有していたそうだ。情報交換は深夜まで及んだため、全員がナルツの邸に泊まることとなった。

「おはよう、ユキノちゃん」
「おはようございます、ローズマリナさん、ナルツさん、……ダルクさん」

 邸に戻ったユキノとカイは、応接室に通される。使用人たちはお茶を用意すると、すぐに出ていった。
 すでに起きていたローズマリナとナルツ、それに朝からローズマリナにべったりなダルクと挨拶を交わすと、ローズマリナたちの向かいのソファに腰を下ろす。

「ムダイさんたちはまだ眠っているよ」

 ナルツは疲れをにじませた顔で、困ったように笑む。
 連日多忙な上、昨夜は深夜まで及ぶ話し合いとなってしまい、鍛えられている騎士といえど、疲労の色は隠せない。ローズマリナも少し心配そうだ。
 
「ナルツさん、よろしければこちらをどうぞ」

 雪乃は樹人印のアエロ草を生やし、引っこ抜く。今回は怪我をしているわけではないので、造血作用などの効能がある薬草は加えず、代わりに疲労回復作用のあるモイチドタビを加えておいた。
 葉っぱに覆われた頭からにょっきりと角のように伸びた尖った肉厚のアエロ草に、ナルツとローズマリナは思わず目を点にした。
 それが何であるか気付いたナルツの表情は、喜びに目を輝かせながら綻んでいったが、ローズマリナは不思議そうに雪乃の顔とアエロ草を交互に見比べる。
 アエロ草自体も気になるところだが、樹人とはいえ顔から引っこ抜かれたことも気になるようだ。

「ありがとう。助かるよ」

 ナルツは笑顔で受け取ると、しっかりと皮を剥いてから、おそるおそる口に入れた。薄っすらとも緑の皮は残さず、きちんと透明な葉肉だけを食べた。効果はもちろん、皮の苦さも憶えていたようだ。
 ごくりと飲み込んで一息吐くと、微かに浮かんでいた隈も消え、生気がみなぎっている。

「後でマグレーンにもお願いできるかな? 皇太子殿下にもお届けしたいけど」

 と、そこで言葉を濁らせた。
 アルフレッドが連日の過労で限界が近そうなことは、雪乃も理解している。しかし雪乃の薬草が知られてしまうと、雪乃の身が危険に晒されかねない。
 すでに多くのことを小さな樹人の肩に背負わせているのに、これ以上は背負わせられないと、ナルツは不用意に口に上らせてしまった言葉を打ち消すように、柔らかな笑みを浮かべた。

 一方の雪乃は、窺うようにカイを見上げる。アルフレッドの様子を見てから、雪乃もずっと気になっていたのだ。
 雪乃が薬草を渡そうとしていると察したカイは、首を横に振った。

「やめた方がいい」

 雪乃の身を危険に晒さなくとも魔植物という手段もあるのだが、こちらも世界のバランスを崩しかねないので安易に使うことは難しい。
 うーんっと首を捻っていた雪乃は、

「原型を止めないように切り刻むかすり潰してから、他の材料と混ぜてポーションにしてはどうでしょう?」

 と、提案してみた。
 ジュースなどは主体となる材料は分かっても、細かい材料までは気付かないものだ。

「それなら何の薬草を使っているか分かりにくいだろうね。これだけの効き目なら、少し混ぜただけでも充分な効果があるだろうし」

 ナルツも賛同する。
 城勤めの彼は、連日の多忙で疲弊しているアルフレッドを初めとした官僚たちを、いやでも目にしている。少しでも楽にしてあげたいという思いは消しきれない。
 難しい顔をしていたカイだが、ふうっと息を吐き出すと、

「分かった。だが何を使っているか気付かれにくいように、味や匂いの濃いものも加えるんだ」

 と、渋々といった様子で受け入れた。

「だったら午前中にでも一緒に作りましょう。午後からお城に持っていけば、殿下たちもお喜びになるわ」
「はい」

 雪乃の帰還を知ったアルフレッドから、さっそく今日の午後に登城するようにと言伝が届いていたのだ。
 それから昨夜、雪乃が寝にいってからの話を、カイとナルツがざっくりと話した。基本的には情報の共有であり、改めて雪乃が知る内容はなかったのだが。
 ローズマリナの腕には、昨日に引き続きダルクがぴったりくっ付いている。
 夜も一緒だったのだろうかとわずかに心配した雪乃だったが、例え親子でも、大人になった男女が一緒に眠ってはいけないとナルツに諭され、渋々別室に向かったそうだ。

 そんな話をしているうちに、ララクールが起きてきて、フレックやマグレーンも目が覚めたようなので、朝食を取るため食堂へと向かう。
 まだ眠っているムダイにも一応、声をかけておいた。
 雪乃の前には水だけが置かれているが、カイたちの前にはコンメの入った器とお吸い物、肉と根菜類の煮物や青菜の和え物が並んでいた。
 それを見たララクールが眉をひそめる。

「ユキノ殿の食事がないようですが?」

 困惑気味にナルツとローズマリナへと視線を向けた。
 二人の性格を知っているからこそ、なぜ小さな子供にだけ食事を出さないのか訝しんだのだろうが、席に座っていた一同も、驚いてララクールに注目した。
 事態が分からず、ララクールはきょとんと瞬き、皆の顔を見回す。

「あら、まだララには言っていなかったかしら?」

 左手を頬に当てたローズマリナが、小首を傾げる。

「え? 知らなかったの? 昨日、ララクールの前で話を進めたけど、大丈夫だった?」

 ナルツは心配そうに雪乃を見た。

「まあララなら話しても大丈夫だと思うけど?」
「というか、あそこまで話したら、もう隠しておけないでしょう?」

 フレックがフォークに刺した玉子焼きを口に放り込みながら言えば、マグレーンも呆れ気味に大根っぽい煮物を箸で摘まんで口へ運んだ。
 彼らの視線は、雪乃へと向かう。

「問題ないと思います」

 最終決定を求められた雪乃は、動揺しながらも承諾した。
 雪乃は樹人であることに劣等感を持っていない。蔑まれたり討伐されたりしなければ、知られたってまったく構わないのだ。
 というより、むしろローブを着ることなく、大手を振って歩きたかった。にゃんこローブは気に入っているが、いつでもどこでも存分に光合成を楽しみたい。
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