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魔王復活編
352.樹人は良かったです
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「樹人は良かったです。食事も土とお日様で充分でしたし」
お腹をさすった雪乃は決意を込めた顔を上げると、ポシェットから旅の途中で購入しておいた、いざというときのための秘密道具を取り出した。
一片がギザギザになっている薄い金属板。そう、ノコギリである。それからさらに、
「出でよ、マンドラゴラ!」
いつものように、小さな友達マンドラゴラを呼び出した。
「るー」
「るー」
「るー?」
「がう?」
呼び出そうとしたのだが、一匹も現れない。
「くっ! 樹人でなければ、彼らは召喚できないのですね」
召喚ではないのだが、細かいことは良いだろう。とりあえず、出鼻はくじかれたようだ。
雪乃はぴー助を見上げる。
「がう?」
じいっと見つめていた雪乃だが、諦めたように視線を逸らした。
大きなぴー助では、ノコギリは使えそうにない。小さくても、ぴー助には無理そうだが。立派な牙で噛み千切ることは可能だろうが、噛み砕かれそうでちょっと怖い。
想像した雪乃は、ふるふると震えた。
次に、精霊たちに目を向ける。
「えーっと、ノコギリは使えますか?」
「るー?」
「るー?」
「るー!」
精霊たちはノコギリを受け取ろうと、群がる。しかし、
「るー」
「るー」
「るー……」
彼らは実体が無いのか、ノコギリを通り抜けてしまい、持つことすらできなかった。
落ち込む精霊たち。
「お気になさらないでください。聞いてみただけですから」
「るー」
「るー」
「るー!」
慰めることに成功したようだ。
「しかし困りましたね。ノコギリが使えなくては、作戦を遂行できません」
ふむうっと、首を捻る雪乃の真似をするように、精霊たちも斜めに傾く。その後ろで地面に置いたはずのノコギリが浮遊していることに、雪乃は気付かない。
「これは誰か人を連れてこないと駄目でしょうか? 獣人さんたちは、まだいらっしゃるのでしょうか?」
「るー」
「るー」
「るー」
獣人の里に行っても、もう知っている獣人はいないのではないかと思うと、雪乃は気が重くなり、はふうっと息を吐いた。
それから何気なく首を回した雪乃は、空中に浮かぶノコギリを見つけ、固まる。ひくりと、頬が痙攣した。
「あなたたち、物には触れないのでは?」
「るー」
「るー」
「るー?」
精霊たちはノコギリの刃を通り抜けたり、ぶつかって弾かれたりと、遊んでいる。すり抜けることもできるが、持ち上げようと思えば持ち上げられるようだ。
先ほどの悩みはなんだったのかと、雪乃は額を押さえたる。
「まあいいです。問題は解決したようなので、良しとしましょう」
細かいことは放り捨てる雪乃であった。
「ではこれから私は、本体に戻ります。枝の一つに宿りますので、その枝を切り落としてください」
「るー?」
「るー」
「るー」
ノコギリをふわふわと浮かしながら、精霊たちは了解とばかりに歌うように声を張る。
「ぴー助はその枝を泉か川に運んで、切り口を水に二時間ほど浸けてください。精霊さんたち、枝を植えることはできますか?」
「がうう」
「るー?」
「るー」
「るー!」
頷いたぴー助の鼻先を撫でると、大きくなっても以前と変わらぬ表情で、気持ち良さそうに目を閉じた。
雪乃はローブを脱いでポシェットにしまうと、ぴー助に預けた。そして自分の体であったはずの大樹へと、足を踏み出した。
するりと、少女の体は幹の中に消えていく。
ノコギリを持った精霊たちは、何かを追うように舞い上がっていった。一本の枝に到達すると、精霊たちはノコギリを構える。
「るるるる、るーるるるー」
「るっるっるー」
「るっるっるー」
様々な色に輝く光の玉は、ゆったりとした美しい音色を奏でながら、バイオリンを弾くようにノゴギリを前後に動かしていく。
ギーコギーコと木が切られる音が森に響き、木屑が舞い散る。
幻想的なのか、シュールなのか分からない光景が繰り広げられているが、ツッコミを入れる者は残念ながらここにはいなかった。
もしもこの場にムダイがいたならば、盛大に顔をしかめたことだろう。彼がその歌を知っていたならばだが。
「るるるる、るーるるるー」
「るっるっるー」
「るっるっるー」
森を包む美しい歌声に、鳥も獣も動きを止めて耳を澄ませていた。
そうして切り落とされた一本の枝を咥えたぴー助は、水場を求めて飛び立ったのだった。むろん、精霊たちもぴー助の背中にちゃっかり乗っている。
森の中に湖を見つけたぴー助は、高度を下げて着地する。雪乃の指示通り、枝の根元を湖に浸けた。
待つこと二時間。水から引き上げると、湖畔の土に植える。
「るー」
「るー」
「るー!」
茶色い精霊たちが輝きを増して歌うのにあわせて、地面に穴が開く。雪乃が宿る枝を差し込むと、もこもこと小さな山になって切り口を覆った。
そして半月後、
「ふんにゅー」
小さな樹人は復活したようだ。まだぎこちない根を動かして、引っこ抜こうとしたのだが、中々脱出できない。枝を地面に突っ張っても、まだ抜けない。
どうやら幹までしっかりと埋まってしまっているようだ。
見かねた茶色の精霊たちが、土に潜り下から押し上げてくれた。他の精霊たちも、雪乃を引っ張り上げる。
「おお! ありがとうございます」
「るー」
「るー!」
「るー!」
お礼を述べると、精霊たちは光を大きくする。まるで胸を張っているようだ。
精霊たちのお蔭でなんとか土から脱出した雪乃は、手伝ってくれた精霊たち一柱ずつにお礼を伝えた。
「がうう」
自分が無視されていると感じたのか、嫉妬するように顔を近付けてきたぴー助も、雪乃は撫でてやる。
「ふふ。大きくなっても甘えん坊さんですね」
大きくなったぴー助の鼻先を両枝で撫でながら、雪乃は微笑んだ。その油断しきった雪乃に、
「るー!」
「るー!」
「るー!」
精霊たちが突撃してきた。
「ふみゃあーっ?! 何事ですか?!」
色とりどりの光の玉に飲み込まれ、クリスマスツリーも白旗を上げそうな、ぴかぴか樹人の出来上がりだ。
混乱しているうちに、精霊たちの光は雪乃の体の中へと消えていく。
光の玉が乱舞していた湖畔は、静まり返って穏やかな湖畔へと戻った。夏の日差しが、キラキラと湖面に反射する。
「なんだったのでしょうか?」
ぺたぺたと自分の体を触ってみる雪乃だが、特に変化は見られない。
ふむうっと唸った後、ぴこんと閃いた。
お腹をさすった雪乃は決意を込めた顔を上げると、ポシェットから旅の途中で購入しておいた、いざというときのための秘密道具を取り出した。
一片がギザギザになっている薄い金属板。そう、ノコギリである。それからさらに、
「出でよ、マンドラゴラ!」
いつものように、小さな友達マンドラゴラを呼び出した。
「るー」
「るー」
「るー?」
「がう?」
呼び出そうとしたのだが、一匹も現れない。
「くっ! 樹人でなければ、彼らは召喚できないのですね」
召喚ではないのだが、細かいことは良いだろう。とりあえず、出鼻はくじかれたようだ。
雪乃はぴー助を見上げる。
「がう?」
じいっと見つめていた雪乃だが、諦めたように視線を逸らした。
大きなぴー助では、ノコギリは使えそうにない。小さくても、ぴー助には無理そうだが。立派な牙で噛み千切ることは可能だろうが、噛み砕かれそうでちょっと怖い。
想像した雪乃は、ふるふると震えた。
次に、精霊たちに目を向ける。
「えーっと、ノコギリは使えますか?」
「るー?」
「るー?」
「るー!」
精霊たちはノコギリを受け取ろうと、群がる。しかし、
「るー」
「るー」
「るー……」
彼らは実体が無いのか、ノコギリを通り抜けてしまい、持つことすらできなかった。
落ち込む精霊たち。
「お気になさらないでください。聞いてみただけですから」
「るー」
「るー」
「るー!」
慰めることに成功したようだ。
「しかし困りましたね。ノコギリが使えなくては、作戦を遂行できません」
ふむうっと、首を捻る雪乃の真似をするように、精霊たちも斜めに傾く。その後ろで地面に置いたはずのノコギリが浮遊していることに、雪乃は気付かない。
「これは誰か人を連れてこないと駄目でしょうか? 獣人さんたちは、まだいらっしゃるのでしょうか?」
「るー」
「るー」
「るー」
獣人の里に行っても、もう知っている獣人はいないのではないかと思うと、雪乃は気が重くなり、はふうっと息を吐いた。
それから何気なく首を回した雪乃は、空中に浮かぶノコギリを見つけ、固まる。ひくりと、頬が痙攣した。
「あなたたち、物には触れないのでは?」
「るー」
「るー」
「るー?」
精霊たちはノコギリの刃を通り抜けたり、ぶつかって弾かれたりと、遊んでいる。すり抜けることもできるが、持ち上げようと思えば持ち上げられるようだ。
先ほどの悩みはなんだったのかと、雪乃は額を押さえたる。
「まあいいです。問題は解決したようなので、良しとしましょう」
細かいことは放り捨てる雪乃であった。
「ではこれから私は、本体に戻ります。枝の一つに宿りますので、その枝を切り落としてください」
「るー?」
「るー」
「るー」
ノコギリをふわふわと浮かしながら、精霊たちは了解とばかりに歌うように声を張る。
「ぴー助はその枝を泉か川に運んで、切り口を水に二時間ほど浸けてください。精霊さんたち、枝を植えることはできますか?」
「がうう」
「るー?」
「るー」
「るー!」
頷いたぴー助の鼻先を撫でると、大きくなっても以前と変わらぬ表情で、気持ち良さそうに目を閉じた。
雪乃はローブを脱いでポシェットにしまうと、ぴー助に預けた。そして自分の体であったはずの大樹へと、足を踏み出した。
するりと、少女の体は幹の中に消えていく。
ノコギリを持った精霊たちは、何かを追うように舞い上がっていった。一本の枝に到達すると、精霊たちはノコギリを構える。
「るるるる、るーるるるー」
「るっるっるー」
「るっるっるー」
様々な色に輝く光の玉は、ゆったりとした美しい音色を奏でながら、バイオリンを弾くようにノゴギリを前後に動かしていく。
ギーコギーコと木が切られる音が森に響き、木屑が舞い散る。
幻想的なのか、シュールなのか分からない光景が繰り広げられているが、ツッコミを入れる者は残念ながらここにはいなかった。
もしもこの場にムダイがいたならば、盛大に顔をしかめたことだろう。彼がその歌を知っていたならばだが。
「るるるる、るーるるるー」
「るっるっるー」
「るっるっるー」
森を包む美しい歌声に、鳥も獣も動きを止めて耳を澄ませていた。
そうして切り落とされた一本の枝を咥えたぴー助は、水場を求めて飛び立ったのだった。むろん、精霊たちもぴー助の背中にちゃっかり乗っている。
森の中に湖を見つけたぴー助は、高度を下げて着地する。雪乃の指示通り、枝の根元を湖に浸けた。
待つこと二時間。水から引き上げると、湖畔の土に植える。
「るー」
「るー」
「るー!」
茶色い精霊たちが輝きを増して歌うのにあわせて、地面に穴が開く。雪乃が宿る枝を差し込むと、もこもこと小さな山になって切り口を覆った。
そして半月後、
「ふんにゅー」
小さな樹人は復活したようだ。まだぎこちない根を動かして、引っこ抜こうとしたのだが、中々脱出できない。枝を地面に突っ張っても、まだ抜けない。
どうやら幹までしっかりと埋まってしまっているようだ。
見かねた茶色の精霊たちが、土に潜り下から押し上げてくれた。他の精霊たちも、雪乃を引っ張り上げる。
「おお! ありがとうございます」
「るー」
「るー!」
「るー!」
お礼を述べると、精霊たちは光を大きくする。まるで胸を張っているようだ。
精霊たちのお蔭でなんとか土から脱出した雪乃は、手伝ってくれた精霊たち一柱ずつにお礼を伝えた。
「がうう」
自分が無視されていると感じたのか、嫉妬するように顔を近付けてきたぴー助も、雪乃は撫でてやる。
「ふふ。大きくなっても甘えん坊さんですね」
大きくなったぴー助の鼻先を両枝で撫でながら、雪乃は微笑んだ。その油断しきった雪乃に、
「るー!」
「るー!」
「るー!」
精霊たちが突撃してきた。
「ふみゃあーっ?! 何事ですか?!」
色とりどりの光の玉に飲み込まれ、クリスマスツリーも白旗を上げそうな、ぴかぴか樹人の出来上がりだ。
混乱しているうちに、精霊たちの光は雪乃の体の中へと消えていく。
光の玉が乱舞していた湖畔は、静まり返って穏やかな湖畔へと戻った。夏の日差しが、キラキラと湖面に反射する。
「なんだったのでしょうか?」
ぺたぺたと自分の体を触ってみる雪乃だが、特に変化は見られない。
ふむうっと唸った後、ぴこんと閃いた。
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