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コダイ国編

187.別行動とさせていただきます

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「そうですか。それは、ノムルさんもそういうお考えだと、捉えてよろしいでしょうか?」
「ん? まあ……」

 答えかけたノムルは、硬直した。
 雪乃がぴー助に乗り、リアも後ろに乗せようとしている。雪乃とノムルの二人だと無理だが、小柄で痩せた体のリアは、なんとか乗れた。

「ちょっとユキノちゃん? どこに行くの?」
「知りません。見損ないました。ここからは別行動とさせていただきます。今までありがとうございました。ぴー助、行ってください!」
「ぴー」
「ええっ?!」

 ぴー助は翼を上下に動かし、空へと浮かび上がる。人々の頭上を超え、ぴー助はどんどん上昇していく。
 いつもは雪乃に合わせて低空飛行しかしないぴー助だが、飛ぼうと思えば飛べるようだ。

「ぴー助、疲れたら下りて休んでくださいね。目指すはアトランテ草原です」
「ぴー!」

 びしりと雪乃が指差した方角に向かって、ぴー助は飛んでいく。
 後ろに乗っているリアは、高い場所に怯えるように雪乃にしがみ付いている。雪乃からは見えないが、少し嬉しそうな表情をしていた。

「ユキノちゃん、話を聞いてよー」
「必要ありません」
「昔の話だよー? ユキノちゃんが嫌がるなら、もうきのこを採取しに行ったりしないって」
「私が嫌がるからなんて理由ではなく、もっとちゃんと……」
「じゃー、今まで採ってきた分の対価も払うからさー」
「……」

 雪乃は幹を右に向けたまま、固まった。視線を下げれば、地面は遠い。人間だって小さく見える。
 瞬き三つの後、再び視線を上げる。

「だったらさー、蟻人の巣に行ったら、今後は人間が侵入できないように、結界を張ってあげるよー。だからさー」

 雪乃はふるふると震えた。

「何で空を歩いてるんですか?!」

 そう、ノムルは空を、普通に歩いていた。
 飛んでいるわけでも、跳ねているわけでもない。普通に二足歩行で歩いている。しかも速い。
 これは飛んでいるということであろうか? ならば足を動かしている意味はなんだろう?
 混乱する雪乃に気付いたノムルは、自分の足元を見る。

「ああ、これ? 風魔法で足場を作ってね、その上を歩いているんだよ? ちなみに足を止めても、前に進むよー」

 てへっと普通に説明してくれた。
 雪乃は肩を落とす。
 この魔法使いに、常識など通用するはずがないことは、分かっていた。それなのに驚いてしまった自分を悔やんだ。

「まだまだ精進が足りないようです」

 ぴー助に乗って空を飛んだところで隣を歩かれるのならば、このまま飛んでいく意味もない。
 雪乃はぴー助に、地上に下りるように頼んだ。

「くっ! 負けません!」

 地面に下りた雪乃は、悔しそうに葉噛みする。

「むきになるユキノちゃんも可愛いなー」

 親ばか魔法使いへのダメージは、ゼロどころか回復させてしまったようである。
 雪乃が悔しさに身悶えている間に、しっかり抱きついて頬擦りしていた。
 無意識に枝を突っ張りノムルの頬を拒否する雪乃は、もはや条件反射になっているのかもしれない。

 ひとしきり悔しがって冷静になった雪乃は、根でノムルを蹴り、地面へと着地する。
 変態魔法使いが残念そうに手をわきわきしているが、知ったことではない。むっと頬葉を膨らませて、町へと歩きだす。
 すぐにリアが隣に来て、手をつないだ。
 にっこりほほ笑む美少女に、雪乃の心も癒される。思わず表情が緩んだのだが、

「「え?」」

 雪乃もノムルも、リアを見つめて固まった。
 あまりに自然な流れだったため手をつないでしまったのだが、雪乃は樹人である。手を握られてしまえば、隠し切れない。
 というか、ぴー助に乗ったときに、がっつり腰に手を回されていたのだが。

「ユキノちゃんも、虫人」
「「え?」」

 にっこりと慈愛あふれる微笑を向けるリアに、雪乃とノムルは返答に困る。
 リアから視線を外すと、二人とも思考を回らせた。
 硬い体、細い腰。
 人間とはまったく違うが、トンボなどなら誤魔化せるかもしれない。蟻も関節は細い。
 いったい何の虫と勘違いされているのだろうと、雪乃は気になりつつも、聞くことは出来なかった。

 蟻人のリアを仲間に加えた雪乃たちは、あらためて国境の町へと戻った。
 飛んでいくのならばそのまま進んでも問題ないのだが、馬車を探すとなると、どの町でも良いとはならない。
 主要な町でなければ、乗合馬車も通らない。
 一度国境の町に戻った一行は、アトランテ草原方面へ行く馬車に乗り込んだ。

 かたかたと揺れる乗合馬車の中から、外を眺める。
 コダイ国は岩や砂が多く、町から離れても森は見えない。乾いた大地に、ぽつんと寂しそうに佇む木がある程度だ。
 風が吹くたび砂埃が舞うため、旅人達は口や鼻を布で覆っていた。
 リアには雪乃の予備のローブを着せている。
 雪乃よりも大きなリアだが、雪乃が着るとだぼだぼのローブは、少し小さいくらいで問題なく着ることができた。

「くっ! ユキノちゃんとペアルックとは。蟻の分際で!」

 いい年したおっさんが、ハンカチらしき布を噛み千切ろうとしているが、雪乃は華麗にスルーを決め込んだ。
 慣れていないリアは驚いた目で見ていたが、本能的に見てはいけないと理解したのか、そうっと視線を外した。

「あれは気にしないでください。時々起きる発作なので」
「うん、わかった」
「ぴー」

 雪乃の説明に、リアは素直に頷く。
 足元に座るぴー助も、相槌を打つ。
 今はなんとか馬車に乗せてもらえる大きさのぴー助だが、もう少し大きくなったら乗せてもらえなくなるだろうなと、雪乃はぼんやり考える。

 馬車が進むにつれて、緑は減っていった。
 ぽつり、ぽつりと、申し訳なさそうに生えていた木も、見なくなった。乾いた土が、馬車の後ろに煙幕を張っていく。
 日も高くなってきた頃、前方に山が見えてきた。
 はしばみ色の山に木は生えておらず、山肌が剥き出しになっている。
 山の中央は大きな刀でも振り下ろしたかのように、二つに裂けて真っ直ぐに一本の道が通っていた。
 馬車はその裂け目の道に入っていった。

 裂け目の幅は、馬車が数台並んで走れるだけの広さがある。
 両側は反り立っているが、道がついていて、人が上り下りしている。その途中途中に穴や扉があり、人が出入りしていた。
 洗濯物を干している光景も見えることから、どうやら山に開けた穴が家になっているようだと分かる。
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