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ラジン国編

174.フィフィル様をお救いしに

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 俺は気にせず過ごしてたけど、突然、二本の角が生えたような髪型の男が駆けて来た。若き日のヴォーリオだねえ。
 まだあごひげは伸びてなかったなあ?

「君、軍に所属していた魔法使いだね?」

 その言葉に、俺は身を強張らせた。
 また何か命じられるのか、それとも、罰せられるのか。
 俺の様子に気付いたヴォーリオは、膝を突いて目線を下げると、安心させるように笑顔を浮かべた。むしろ怖くて引いたけどね。
 だってあの厳つい顔が、作り笑いを浮かべるんだよ? 違う意味で怖いって。

「協力してほしいんだ。フィフィル様をお救いしに行く」

 俺は眉をひそめた。
 一部の魔法使いが、生き残りの王族である、フィフィル様を襲撃しようと企てていたのは知っていた。
 だけど俺には、救う理由が分からなかった。

 もう、俺たちは王族の犬じゃない。
 やっと解放されたかもしれないのに、わざわざ助けに行って、また奴隷に落とされるなんて冗談じゃない。
 俺の気持ちが分かったんだろう。ヴォーリオは困ったように眉を下げると、事情を説明してくれた。

「フィフィル様は、魔法使いを隷属させようなんて考えておられない。むしろ魔法使いを解放するように、国王に何度も進言していたんだ。そのために疎まれて、幽閉されてしまった」

 驚いたね。まじまじとヴォーリオを見つめたよ。
 だって王族っていうのは、俺たち魔法使いを、道具としか見ていないと思っていたからね。けどヴォーリオの話だと、フィフィル様だけは違うらしい。
 そう教えられても、俺はすぐに動こうとは思わなかった。
 助けようとしてくれたことは分かったし、塔に幽閉されて気の毒だとは思ったけど、フィフィル様だって王族なんだ。俺たちを苦しめたね。
 そんな人間を、大勢の魔法使いを敵に回してまで助けたいとは思えなかった。

 でも結局、俺はヴォーリオたちと一緒に、フィフィル様の救出に向かったんだ。
 ヴォーリオの、

「魔法使い達に刻まれた魔術式を解除できるのは、王族だけだ。つまり、フィフィル様だけなんだよ」

 って言葉を聞いてね。
 早く言えよ! って話だよねー。
 もしフィフィル様が殺されちゃったらさー、俺は一生、奴隷の魔術式に縛られないといけないんだよ?
 どこかに生き残っているかもしれない王族に、怯えて生きないといけないんだ。
 まあ気になったことといえば、フィフィル様が王族なら、俺たちが助けに行かなくても、一言命じれば良いだけじゃないの? ってことなんだけど、フィフィル様は、

「魔術式を発動させて、魔法使いたちを苦しめたくない」

 って、拒んでいたらしいんだ。
 自分の命が危険に晒されてるのにねー。
 まあ、そんなわけで、俺はヴォーリオたちと一緒に、王城の西にある塔に向かったんだ。

 塔に着いたときには、よくもってたなーって、本気で感心したよ。
 大勢の魔法使い達が集まって、塔に入ろうと空を飛んだり、攻撃魔法を繰り出したりしながら、

「王族を出せー!」
「フィフィルを処刑しろー!」

 って、盛り上がってたねー。
 それを必死に食い止めているのは、フィフィル様付きの魔法使いや、魔法省の魔法使い、それに生き残っていたわずかな兵士や騎士達。その中に、ドインの姿もあった。
 ヴォーリオたちが必死にフィフィル様の必要性を拡声魔法を使って説いてたけど、耳を傾ける者はいなかった。
 みんな限界だったんだよ。
 ひどい仕打ちを受け続けて、目先の憂さ晴らししか頭に無かったんだ。

 俺たちはそんな魔法使いたちを退けながら、塔へと向かった。けど後一歩のところで、塔を保護していた結界が破れた。
 攻撃魔法がフィフィル様に向かって飛んでいく。庇うように飛び出したのは、ドインだった。

「やめろおおーーっ!!」

 俺は夢中で叫んだ。
 いつも他の兵士の目を盗んで、俺に菓子をくれたり、色んな話をしてくれたドインを、殺されたくなかったんだ。
 叫んで、そして気が付いたら、止まってた。
 攻撃も、声も、動きも。

「え?」

 何が起こったのか分からなくて、俺は呆然としながら突っ立っていた。
 瞬いて、ドインは無事だろうかと塔の上を確認したら、ドインが動いているのが見えた。
 綺麗なドレスを着た女の子に声をかけて、急いで移動させている。彼らは固まっていないようだ。

 右に首を振れば、ヴォーリオも固まっていた。でも俺の視線に気付いて、こっちに首を回した。
 どうやらヴォーリオは俺と同じで、状況についていけずに、呆然と立ち尽くしていただけらしい。
 他に動ける人はと思って辺りを見回したら、ヴォーリオの仲間のおっさんが、なんとも笑える顔で俺を見ていたっけ。

「あー……、ああ、うん。話は後だ。とりあえず、フィフィル様を救出するぞ」

 って首を傾げながら、塔に向かって走り出した。
 動かない人間を脇に寄せながら、俺たちは塔へと急いだ。下りてきたフィフィル様たちと合流すると、すぐに魔法省へと取って返す。
 フィフィル様は魔法省の一室に、侍女たちと一緒に案内されていった。
 そして俺はヴォーリオたちと一緒に、別の部屋に入った。

 殺風景な部屋には、机が一つと、椅子が複数あったっけ。
 俺はヴォーリオたちと向かい合うように座らされた。
 しばらくして、特大の魔水晶が運ばれてきた。
 これで魔力の量を確認して、魔法を使うのに充分な量があると国に登録される。
 魔力の量は、成長過程で増加することはあるけど、それは微々たるもので、生涯変化はないに等しい。一度計測したら、もう一度計測することは滅多にないんだ。
 今更なぜ? って俺は魔水晶を見つめた後、ヴォーリオも見つめた。

「とりあえず、量らせてくれ」

 断わる理由もなかったから、俺は魔水晶に手をかざした。
 今まで見たこともない、巨大な魔水晶だ。ほんのわずかに光れば良いかなって、軽い気持ちだったんだ。
 それが、

 ――パリーンッ

 見事に割れて弾け飛んだ。
 全員がとっさに防御結界を張ったから、怪我人はいなかったけどね。まあ、なんていうか、本当、ぽかーんっていうの? 固まったね。うん。

「……。ありえん」

 ヴォーリオの呟きに、みんな揃って頷いたっけ。それくらい、ありえないことだったんだよ。
 小さな魔水晶だって、弾け飛ぶなんて、まずないからねえ。具体的な例を出すなら、竜種の咆哮を浴びせるくらいしないと、無理なんだよねえ。

 そんな代物なのに、十歳ほどの子供が特大サイズを弾けさせちゃったんだからさ。俺も皆も、何が起こったのか理解するまでに、数分掛かったかな。
 けど問題は、その先だった。
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