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ラジン国編
165.裸んぼに
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「ふぇ?」
「それは総帥である、ノムル様だけに許されたローブなのよ? 脱ぎなさい」
十歳くらいの女の子だろうか。
ピンク色のフリルだらけのドレスの上には、なぜか少女に不釣合いな、草色のローブを羽織っている。
腰まで伸びる緩いウェーブの掛かった金色の髪、色白の肌にエメラルドの瞳を持つ、人形のように愛らしい少女だ。
雪乃は思わず見惚れてしまった。
それはさておき、
「む、無理です」
と、雪乃は少女の要求をお断りする。
「どうしてよ?」
「ノムルさんに服を持っていかれてしまったので、これを脱ぐと裸んぼになってしまいます」
「……」
女の子は固まった。
流石に女の子だ。雪乃を裸にする事はできないようだ。
常識の通じる子で良かったと、雪乃は安堵した。
「何をじろじろと見ているのかしら?」
金色の髪をふわりと手で払いなびかせると、雪乃をじろりと睨む。
「すみません。あまりに可愛いので、つい」
「まあ! 分かっているじゃない」
満更でもないようで、女の子の頬が緩む。
胸を張る少女に、後ろに控えていた魔法使いが、何事か囁いた。痩せぎすで目の下に隈のある、不健康そうな男である。
女の子の後ろには、もう一人控えているが、こちらは魔法を使わなくても充分戦えそうな、体躯の良い男だった。
二人とも、黒いローブを身にまとっている。
「分かっているわよ」
と、頬を膨らませた女の子は、改めて雪乃に向き合った。
「あなたがユキノ?」
「ええ、雪乃です。よろしくお願いします」
誰だか知らないが、とりあえず自己紹介をと、ぺこりと幹を曲げた。
「私はヴィヴィ。ヴォーリオの娘よ」
「ヴィヴィさんですね。えっと、ヴォーリオさん、ですか?」
雪乃はぽてんと幹を傾げる。
この自己紹介の仕方から、ヴォーリオが有名な人物だろうとは推測できるが、雪乃は知らない。
どこかで聞いたことがあるような気もするが。
「あなた、魔法使いの癖に知らないの?! 魔法ギルドの副総帥よ」
「ほう。凄いお人なのですね」
「そうよ、お父様は凄いのよ!」
えっへんと胸を張るヴィヴィを、雪乃はほんわかと眺める。美少女の愛らしい姿は、トラブル続きの日々に癒しを与えるようだ。
後ろにいた痩せぎすの魔法使いが、再びヴィヴィの耳元で何か囁いた。
「分かっているわよ!」
頬を赤く染めながら男を睨むと、ヴィヴィはコホンとわざとらしい咳払いをして、雪乃に向き直る。
「あなた、ノムル様にいったいどうやって取り入ったの?」
左手を腰に当て背を反らすと、指を突きつけて雪乃に問い質す。
何の話か分からず答えられない雪乃に、ヴィヴィの機嫌が悪くなる。
「とぼけないで! ノムル様に取り入って、養子になろうとしているのでしょう? いったい何を企んでいるの?!」
一気に言い切ったヴィヴィは、満足そうに口元に笑みを作る。後ろの二人も、うんうんと頷いていた。
「あのう、何か誤解をしていませんか? 私は何も企んでは」
「隠さないでちょうだい!」
ユキノの話に被さるように、ヴィヴィは声を被せてきた。
騒ぎに気付いた魔法使い達が、廊下の両側に集まってきている。
「とりあえず、場所を変えませんか?」
そう言いながら、雪乃はどこに行けば良いのか考えた。
すぐ後ろにあるノムルの部屋が一番近くて都合が良いが、ノムルの部屋である。おそらく気にしないとは思うが、勝手に人を連れ込むことは、気分の良いものではないだろう。
冒険者ギルドにある個室のような部屋か、ラウンジのような場所がないかと考えるも、まったくこの建物の構造が分からない。
なので、
「どこか個室か、ラウンジのような場所はないのでしょうか?」
ヴィヴィに聞いてみた。
あごに人差し指をあて小首を傾げる美少女は可愛らしいと、雪乃はほんわか表情を緩める。
「いいわ。付いてらっしゃい」
歩きだしたヴィヴィを追いかけようとして、雪乃は足を止める。
「あの、ヴィヴィさんは、文字は書けますか?」
「はあ? 当たり前でしょう」
不機嫌な顔が、振り返った。
ほっと胸をなで下ろした雪乃は、ぽてぽてとヴィヴィに追いつくと、書置きをしたいことを伝え、ノムルへの手紙を書いてほしいとお願いした。
ヴィヴィはじいっと雪乃を見つめると、ふっと鼻で笑う。
「あなた、文字も書けないの? それでよくノムル様の養子になろうなんて、ずうずうしくも思えるわね」
見下すように悪態を重ねているが、後ろの男が差し出した一筆箋に、さらさらと書いてくれた。
「二階のラウンジに、私と出かけたと書いておきましたわ」
「ありがとうございます。置いてきますので、少し待っていてくださいね」
雪乃はぽてぽてと部屋の前まで引き返す。勝手に閉まっていた扉を開けようと、
「ていっ」
「「「……」」」
「ふぬっ」
「「「……」」」
開けようとしたのだが、手をかざすべき魔法石に、跳んでも届かなかった。
廊下のギスギスしていた空気が、霧散していく。
「……。ぴー助、お手伝いをお願いします」
「ぴー」
ぴー助の背中に乗って、何とか扉を開ける。
開いた扉から中に駆け込むと、テーブルの上にヴィヴィが書いてくれた一筆箋を置いて、部屋から出た。
「お待たせしました」
「ぴー」
「え、ええ……」
美少女は、複雑そうな表情だ。後ろの護衛や野次馬達も、なんだか可哀そうなものを見る目で、雪乃を見下ろしていた。
「ま、まあ、いいわ。行くわよ」
「はい」
ぽてぽてと付いていきながら、雪乃はふと気付く。
財布をノムルに渡したままだということに。
(女の子におごらせるわけには……。どうしましょう?)
ふむうっと悩んでいるが、自分が飲食できないということは、忘れているようだ。
やってきたラウンジで、窓際にある六人掛けの席に座る。手前の中央にヴィヴィが座り、両脇に護衛らしき魔法使いが陣取る。
ユキノのとぴー助の背後は窓で、逃げ場はない。気付いていないようだが。
渡されたメニューを開いてみるが、雪乃には読めなかった。日本のように、写真やサンプルが飾られているわけでもなく、さっぱり分からない。
うーんっと唸っていた雪乃だが、自分が食べれないことに、ようやく気付いた。
ぱたりと、雪乃はメニューを閉じる。
誤魔化すように澄まして座る雪乃は、ここにノムルがいなくて良かったと、心底から安堵していた。
「それは総帥である、ノムル様だけに許されたローブなのよ? 脱ぎなさい」
十歳くらいの女の子だろうか。
ピンク色のフリルだらけのドレスの上には、なぜか少女に不釣合いな、草色のローブを羽織っている。
腰まで伸びる緩いウェーブの掛かった金色の髪、色白の肌にエメラルドの瞳を持つ、人形のように愛らしい少女だ。
雪乃は思わず見惚れてしまった。
それはさておき、
「む、無理です」
と、雪乃は少女の要求をお断りする。
「どうしてよ?」
「ノムルさんに服を持っていかれてしまったので、これを脱ぐと裸んぼになってしまいます」
「……」
女の子は固まった。
流石に女の子だ。雪乃を裸にする事はできないようだ。
常識の通じる子で良かったと、雪乃は安堵した。
「何をじろじろと見ているのかしら?」
金色の髪をふわりと手で払いなびかせると、雪乃をじろりと睨む。
「すみません。あまりに可愛いので、つい」
「まあ! 分かっているじゃない」
満更でもないようで、女の子の頬が緩む。
胸を張る少女に、後ろに控えていた魔法使いが、何事か囁いた。痩せぎすで目の下に隈のある、不健康そうな男である。
女の子の後ろには、もう一人控えているが、こちらは魔法を使わなくても充分戦えそうな、体躯の良い男だった。
二人とも、黒いローブを身にまとっている。
「分かっているわよ」
と、頬を膨らませた女の子は、改めて雪乃に向き合った。
「あなたがユキノ?」
「ええ、雪乃です。よろしくお願いします」
誰だか知らないが、とりあえず自己紹介をと、ぺこりと幹を曲げた。
「私はヴィヴィ。ヴォーリオの娘よ」
「ヴィヴィさんですね。えっと、ヴォーリオさん、ですか?」
雪乃はぽてんと幹を傾げる。
この自己紹介の仕方から、ヴォーリオが有名な人物だろうとは推測できるが、雪乃は知らない。
どこかで聞いたことがあるような気もするが。
「あなた、魔法使いの癖に知らないの?! 魔法ギルドの副総帥よ」
「ほう。凄いお人なのですね」
「そうよ、お父様は凄いのよ!」
えっへんと胸を張るヴィヴィを、雪乃はほんわかと眺める。美少女の愛らしい姿は、トラブル続きの日々に癒しを与えるようだ。
後ろにいた痩せぎすの魔法使いが、再びヴィヴィの耳元で何か囁いた。
「分かっているわよ!」
頬を赤く染めながら男を睨むと、ヴィヴィはコホンとわざとらしい咳払いをして、雪乃に向き直る。
「あなた、ノムル様にいったいどうやって取り入ったの?」
左手を腰に当て背を反らすと、指を突きつけて雪乃に問い質す。
何の話か分からず答えられない雪乃に、ヴィヴィの機嫌が悪くなる。
「とぼけないで! ノムル様に取り入って、養子になろうとしているのでしょう? いったい何を企んでいるの?!」
一気に言い切ったヴィヴィは、満足そうに口元に笑みを作る。後ろの二人も、うんうんと頷いていた。
「あのう、何か誤解をしていませんか? 私は何も企んでは」
「隠さないでちょうだい!」
ユキノの話に被さるように、ヴィヴィは声を被せてきた。
騒ぎに気付いた魔法使い達が、廊下の両側に集まってきている。
「とりあえず、場所を変えませんか?」
そう言いながら、雪乃はどこに行けば良いのか考えた。
すぐ後ろにあるノムルの部屋が一番近くて都合が良いが、ノムルの部屋である。おそらく気にしないとは思うが、勝手に人を連れ込むことは、気分の良いものではないだろう。
冒険者ギルドにある個室のような部屋か、ラウンジのような場所がないかと考えるも、まったくこの建物の構造が分からない。
なので、
「どこか個室か、ラウンジのような場所はないのでしょうか?」
ヴィヴィに聞いてみた。
あごに人差し指をあて小首を傾げる美少女は可愛らしいと、雪乃はほんわか表情を緩める。
「いいわ。付いてらっしゃい」
歩きだしたヴィヴィを追いかけようとして、雪乃は足を止める。
「あの、ヴィヴィさんは、文字は書けますか?」
「はあ? 当たり前でしょう」
不機嫌な顔が、振り返った。
ほっと胸をなで下ろした雪乃は、ぽてぽてとヴィヴィに追いつくと、書置きをしたいことを伝え、ノムルへの手紙を書いてほしいとお願いした。
ヴィヴィはじいっと雪乃を見つめると、ふっと鼻で笑う。
「あなた、文字も書けないの? それでよくノムル様の養子になろうなんて、ずうずうしくも思えるわね」
見下すように悪態を重ねているが、後ろの男が差し出した一筆箋に、さらさらと書いてくれた。
「二階のラウンジに、私と出かけたと書いておきましたわ」
「ありがとうございます。置いてきますので、少し待っていてくださいね」
雪乃はぽてぽてと部屋の前まで引き返す。勝手に閉まっていた扉を開けようと、
「ていっ」
「「「……」」」
「ふぬっ」
「「「……」」」
開けようとしたのだが、手をかざすべき魔法石に、跳んでも届かなかった。
廊下のギスギスしていた空気が、霧散していく。
「……。ぴー助、お手伝いをお願いします」
「ぴー」
ぴー助の背中に乗って、何とか扉を開ける。
開いた扉から中に駆け込むと、テーブルの上にヴィヴィが書いてくれた一筆箋を置いて、部屋から出た。
「お待たせしました」
「ぴー」
「え、ええ……」
美少女は、複雑そうな表情だ。後ろの護衛や野次馬達も、なんだか可哀そうなものを見る目で、雪乃を見下ろしていた。
「ま、まあ、いいわ。行くわよ」
「はい」
ぽてぽてと付いていきながら、雪乃はふと気付く。
財布をノムルに渡したままだということに。
(女の子におごらせるわけには……。どうしましょう?)
ふむうっと悩んでいるが、自分が飲食できないということは、忘れているようだ。
やってきたラウンジで、窓際にある六人掛けの席に座る。手前の中央にヴィヴィが座り、両脇に護衛らしき魔法使いが陣取る。
ユキノのとぴー助の背後は窓で、逃げ場はない。気付いていないようだが。
渡されたメニューを開いてみるが、雪乃には読めなかった。日本のように、写真やサンプルが飾られているわけでもなく、さっぱり分からない。
うーんっと唸っていた雪乃だが、自分が食べれないことに、ようやく気付いた。
ぱたりと、雪乃はメニューを閉じる。
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