歩夢さん

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手紙

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朔は目を覚ましてから順調に回復に向かい始めた。

無断外出について、蛍は父たちから酷く叱られたようだが、処分は無しとなった。

「姉様からお手紙です。」

目覚めてから一ヶ月半。最近は手紙をくれるようになった。
リハビリも兼ねているようで、以前の美しい文字にはまだ遠い。内容はリハビリが順調に進んでいることを含めた近況、天月を気遣う言葉、など。この手紙を読むことが楽しみとなっていた。

「では、私はこれで…。」

「大霊祭の準備か。」

最近蛍が忙しく動いていた。

「はい…。」

「大巫女にとっては年始の次に大きな仕事となるのか。」

先日受け取った手紙には蛍に大霊祭の引き継ぎを始めた旨が書かれていた。

「今日も姉様のところで稽古を付けていただくのです。」

「無理しすぎないように。」

「ありがとうございます。」

浮かない表情をしている。恐らくうまく行っていないのだろう。

特に朔の後というのは大変だろう。
朔の大巫女としての仕事は過去の大巫女にも例を見ないほどの様であると言われている。

大霊祭ではこの神社に携わるすべての人が境内に集まり、その中で肉声で号令と祝詞を行う。朔の声はよく響き、よく通る。祝詞は言霊をよく操り、大御神である僕はもとより、神職者から一般の人たちまで鳥肌を覚えるという。

これらは蛍には重圧としてのしかかるだろう。焦るのも無理はない。

蛍が出ていくのを見届け、手紙を開いた。



ーーーーーーーーーー


リハビリを始めて一ヶ月が経ちました。右半身には顕著に障害が残るとのことでした。この見苦しい文字の通り、右手は震えが収まりません。右脚は思うように動いてくれません。右目は見えません。右耳は聞こえません。しかし生活能力を取り戻すリハビリはかなり順調です。杖があれば歩けるようになるし、視覚聴覚は半分残ってます。後ひと月ほど病院で様子を見ることになりそうです。……

……蛍は大巫女として頑張っているでしょうか?最近はよく大霊祭の練習のために来ています。祝詞を覚えるのに四苦八苦しております。しかし蛍は私より努力家ですから、大霊祭には合わせてくるでしょう。…こんなことがなければ、妹という存在が何か認識しなかったのだと思うと複雑です。初めての姉妹の時間にお互い戸惑ってもいます。……

……先日、有夜様がお見舞いに来てくださいました。西のことを聞きました。私の愚かな行動が原因で長い歴史が途絶えることとなり責任を感じております。

最近夜は冷えてまいりました。寝巻きに羽織を足して暖を取るようにしてくださいね。湯浴みもゆっくり、暖まってください。健康第一でお務めください。


ーーーーーーーーーー


予想より軽度ではあるが、やはり障害が残ってしまうことが悔やまれる。会った時見た様子では外傷も残っているかもしれない。あのきれいな肌に傷を残すこと、繊細で美しい所作をもう見れなくなること…。

果たして、退院したとして僕のもとに戻ってくるだろうか。


僕の身勝手が生み出したモノはあまりにも多く、大きい。


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