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消失
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大御神として生まれた。人ならざる力を確かにもち、そのため先代と同じように奉られ崇められた。
たくさんの人が求め縋る絶大な力を有しながら、一番守りたいものを一番傷つけている。
大切にしているつもりでいながら、一番最初に犠牲になるのはいつも彼女だ。
自分の未来は視えない。彼女の未来も心情も視えない。
この力を私欲に使えない状況に憤りを感じながらも安心している。もしこの力が完全に自由に扱えたら、僕はどんな行動を起こしていたかわからない。
ずっとそう思っていた。
彼女、朔媛がここを離れて2ヶ月が経過した。
朔は自分の親族、僕の親族に妊娠を打ち明けた。本来なら僕がすることだ。僕が人の前に立つことも直接声を交わすこともできないために朔がやることになってしまった。
その報告後は一度も顔を合わせることなく朔はここを発った。
そのことを告げられたのは朔に代わって大巫女を務めることになった朔の妹、蛍が本殿に始めてきた時だった。
蛍も朔からの報告に同席していた。話のあらずじは蛍から伝えられたが、やはりその場にいて自分の口から言えたらよかったと、やるせない気持ちになった。
朔と出会ってこれほど長い時間顔を合わせずにいるということはなかった。逆に言えばほとんどの時間を彼女と過ごしてきた。そのため血縁でない朔の心は全く視えなかったのだが、ここに来て心情まではいかないがその存在を遠くながらに感じ取れるようになった。日中の祈祷、移動の時間、開帳の時間、ほんのわずかな時間でも空きができれば朔を追った。
詳細はわからない。
元気なのか、そうでないのか。せめて健康で穏やかな時間が過ごせていればいいと思うばかりだ。
今日も午前中に予定されていた祈祷が終わった。
本殿に設えられた御神座はやはり一番力が扱いやすい。
蛍が幣殿から本殿に戻る前に朔の様子を伺った。
「…?」
感じ取れていた気配が全くない。
移動したのか?いや、移動程度で追えなくなるものでもない。
いつも以上に、滅多に使わない力加減で朔を視た。
…ほんの一瞬、視えたその情景に僕は思わず立ち上がった。
「大御神様?」
蛍が本殿へ戻ったことを認識し、僕は思わず声を荒げた。
「朔が危ない!急ぎ西へ連絡を取れ!」
「えっ?はっ、はい!!」
蛍は慌てて本殿から駆け下りていった。
間も無く拝殿へ自分の父と祖父が現れた。
後には蛍がついてきていた。
「大巫女、上へ行き大御神から詳細を聞いてきてくれ。」
「は、はい!」
父は蛍にそういうと、蛍は本殿への階段を急ぎ気味で登ってきた。
詳細を話す前に、蛍に尋ねる。
「朔の安否は?」
「いえ、まだ確認しておりません。まずはお話をとのことで…。」
「一刻を争うぞ!」
「しかし…。」
蛍は板挟みの状態。これ以上彼女に言ったところで下に控える二人が納得しなければいけないのは確かだ。
「…朔の気配が消えた。西に移動してからずっと追えていた気配が今日なくなったのだ。そして見えたのは、本殿の裏にある海岸からの景色だ。おそらく朔が直前まで見ていたもの。ここまでくれば最悪の事態が想定できるだろう!」
「そ、そんな、姉様は…。」
その場にへたり込む蛍。
「だから早く、朔の安否を確認させろ!」
蛍は何も言わずに立ち上がり、拝殿まで駆け下りて行った。
蛍は下の二人に僕の言葉を伝えた。二人は血相を変えて拝殿から出て行った。ようやく西に連絡を取る気になったようだ。
誰もいなくなった社の中でもう一度朔の気配を探る。
やはり消えたまま何も視えない。
僕はひどい虚脱感に襲われながら、本殿の奥へ戻った。
たくさんの人が求め縋る絶大な力を有しながら、一番守りたいものを一番傷つけている。
大切にしているつもりでいながら、一番最初に犠牲になるのはいつも彼女だ。
自分の未来は視えない。彼女の未来も心情も視えない。
この力を私欲に使えない状況に憤りを感じながらも安心している。もしこの力が完全に自由に扱えたら、僕はどんな行動を起こしていたかわからない。
ずっとそう思っていた。
彼女、朔媛がここを離れて2ヶ月が経過した。
朔は自分の親族、僕の親族に妊娠を打ち明けた。本来なら僕がすることだ。僕が人の前に立つことも直接声を交わすこともできないために朔がやることになってしまった。
その報告後は一度も顔を合わせることなく朔はここを発った。
そのことを告げられたのは朔に代わって大巫女を務めることになった朔の妹、蛍が本殿に始めてきた時だった。
蛍も朔からの報告に同席していた。話のあらずじは蛍から伝えられたが、やはりその場にいて自分の口から言えたらよかったと、やるせない気持ちになった。
朔と出会ってこれほど長い時間顔を合わせずにいるということはなかった。逆に言えばほとんどの時間を彼女と過ごしてきた。そのため血縁でない朔の心は全く視えなかったのだが、ここに来て心情まではいかないがその存在を遠くながらに感じ取れるようになった。日中の祈祷、移動の時間、開帳の時間、ほんのわずかな時間でも空きができれば朔を追った。
詳細はわからない。
元気なのか、そうでないのか。せめて健康で穏やかな時間が過ごせていればいいと思うばかりだ。
今日も午前中に予定されていた祈祷が終わった。
本殿に設えられた御神座はやはり一番力が扱いやすい。
蛍が幣殿から本殿に戻る前に朔の様子を伺った。
「…?」
感じ取れていた気配が全くない。
移動したのか?いや、移動程度で追えなくなるものでもない。
いつも以上に、滅多に使わない力加減で朔を視た。
…ほんの一瞬、視えたその情景に僕は思わず立ち上がった。
「大御神様?」
蛍が本殿へ戻ったことを認識し、僕は思わず声を荒げた。
「朔が危ない!急ぎ西へ連絡を取れ!」
「えっ?はっ、はい!!」
蛍は慌てて本殿から駆け下りていった。
間も無く拝殿へ自分の父と祖父が現れた。
後には蛍がついてきていた。
「大巫女、上へ行き大御神から詳細を聞いてきてくれ。」
「は、はい!」
父は蛍にそういうと、蛍は本殿への階段を急ぎ気味で登ってきた。
詳細を話す前に、蛍に尋ねる。
「朔の安否は?」
「いえ、まだ確認しておりません。まずはお話をとのことで…。」
「一刻を争うぞ!」
「しかし…。」
蛍は板挟みの状態。これ以上彼女に言ったところで下に控える二人が納得しなければいけないのは確かだ。
「…朔の気配が消えた。西に移動してからずっと追えていた気配が今日なくなったのだ。そして見えたのは、本殿の裏にある海岸からの景色だ。おそらく朔が直前まで見ていたもの。ここまでくれば最悪の事態が想定できるだろう!」
「そ、そんな、姉様は…。」
その場にへたり込む蛍。
「だから早く、朔の安否を確認させろ!」
蛍は何も言わずに立ち上がり、拝殿まで駆け下りて行った。
蛍は下の二人に僕の言葉を伝えた。二人は血相を変えて拝殿から出て行った。ようやく西に連絡を取る気になったようだ。
誰もいなくなった社の中でもう一度朔の気配を探る。
やはり消えたまま何も視えない。
僕はひどい虚脱感に襲われながら、本殿の奥へ戻った。
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