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子孫
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「朔、起きて。」
身体を揺すられ、目を覚ました。目の前には大御神の顔。優しい顔だった。いつもと逆だな、なんて思って一気に冷静になる。
慌てて体を起こすと、そこは一番奥の部屋、自分がいるのはベッドの上だと気づく。隣には大御神が横になっていて、私の方を見ている。
「まだ朝じゃないから慌てなくていいよ。」
大御神はゆっくりそう言って私を布団に引き戻そうとする。
あまりの驚きと混乱で声が出ない私は、眠っているのはおかしい、という本能からそれに抗う。
「冷えるよ。」
自分の体を見ると、何も身につけていない。赤いアザのようなものが身体中についていた。さらに混乱する。
何があったんだ。
「あっ!」
ようやく声が出て、全て思い出した。いや、このベッドにきた記憶もアザだらけになった記憶もない。途中までしか覚えていない。
「女神は…?」
独り言だ。自分を落ち着かせ、状況を飲み込めるようにするための。
「隣の部屋で寝ているよ。」
大御神が答える。
「私はなぜここに?」
思わず、同じように尋ねてしまう。
「僕が運んだ。」
「はこ…え?」
「一緒に寝たかったから。」
無邪気に笑うその顔は幼い頃の天月様の顔そのもの。
「じゃあこれは…。」
身体中のアザ。腕も脚もお腹も胸も、無数の赤い跡がある。
「ごめんね、どうしても我慢できなくて。それ以上は何もしてないし、口に接吻もしてない!」
大御神、いや天月様は起き上がり、私の肩を掴んだ。
「でもごめんね、嫌だったよね。浴衣くらい着せてあげればよかった。」
しゅん、としてしまった天月様を見て、ちょっと笑ってしまった。
あぁ、懐かしい。たくさんのしがらみの中で自分たちの居場所を確保して、笑って過ごしたあの日々が。昔から天月様はそうだ、私の反応に一喜一憂してどんどん話を進めていく。
「驚いていただけです。今もかなり混乱しております。…あのような無礼な行動に出たのに、怒らないのですね。」
天月様は黙って私を見た後、部屋を出て行ってしまった。やっぱ怒ってたんだな、と思ってベッドから降りようとすると、天月様は私の浴衣を手に戻ってきた。
「これ着て。着せてなかった僕がいうのもおかしいけど、ちょっと話に集中できない。」
?
一連の言動に驚き固まっている私に、天月様は浴衣を羽織らせた。
「あのね、朔。僕は怒っているよ。でも朔に対してじゃない。朔をそこまで追い詰めた人たちと、その原因である自分に対して。」
それにね、と続ける。
「朔は巫女で、僕のお世話をしてくれて、僕に仕えている。だから手を出しちゃいけないって自分に言い聞かせてきた。でも大人たちがこんな機会をくれるとは思っていなかった。彼らがここまで運んだんだから、あとは僕の自由。そう思ったら僕的には悪いことじゃない気がしてきた。もちろん、朔を苦しめたことは怒ってるし、違う方法で同じ結果になるなら違う方法の方がよかった。」
「天月、様?」
どういうことだ?何をおっしゃっているんだ?理解が追いつかない。
「朔は気付いていると思うけど、僕は女神と子を作る気はない。こればかりは譲れない。このわがままで朔を苦しめた、ごめんなさい。」
「あ、謝罪など」
「今、僕は天月、朔媛の友人だよ。友人として謝るのは当然でしょ。それに、朔は僕に急かしてこなかった。きっと父に言われただろうに、僕には言ってこなかった。本当にありがとう。」
「…。」
「でも子孫の話はしておかないとだね。代々、大御神は西の女神と子孫を残してきた。でも、彼女は女神じゃない。おそらく、ずいぶん前に血は潰えている。」
「えっ?」
「先代の女神もおそらくは女神じゃない。実際、西の本殿に入ってわかったよ。御神体はないが、人の形ではない女神があそこにいる。それと家系図を辿っていけば、我々の祖先の方が女神よりはるかに昔から存在している。つまり、女神じゃなくても我々は血を残せる。」
「そうでしたか…。」
それしか言えない。大御神が言うことだ、きっと間違いない。女神の一族は自分たちが女神でないことを知っているのだろうか。きっと知る術もなければ知ったところで引き返せないのが事実だろう。
天月様が女神との子供を作る気がないことは知っていたから、それに関しては特に驚かない。
「朔を苦しめた。たくさん。本当にごめんね。」
「そうですね、ふふ、許します。」
この謝罪は受けておこう。それなりに大変だったし。とんでもないことさせられたし。
「それでね、朔。ここからが本題なんだけど。こんな話の後で申し訳ないんだけど、お願いを聞いて欲しくて。」
「なんでしょう?」
「朔と僕の子どもが欲しい。」
?
??
?????
「はい???」
身体を揺すられ、目を覚ました。目の前には大御神の顔。優しい顔だった。いつもと逆だな、なんて思って一気に冷静になる。
慌てて体を起こすと、そこは一番奥の部屋、自分がいるのはベッドの上だと気づく。隣には大御神が横になっていて、私の方を見ている。
「まだ朝じゃないから慌てなくていいよ。」
大御神はゆっくりそう言って私を布団に引き戻そうとする。
あまりの驚きと混乱で声が出ない私は、眠っているのはおかしい、という本能からそれに抗う。
「冷えるよ。」
自分の体を見ると、何も身につけていない。赤いアザのようなものが身体中についていた。さらに混乱する。
何があったんだ。
「あっ!」
ようやく声が出て、全て思い出した。いや、このベッドにきた記憶もアザだらけになった記憶もない。途中までしか覚えていない。
「女神は…?」
独り言だ。自分を落ち着かせ、状況を飲み込めるようにするための。
「隣の部屋で寝ているよ。」
大御神が答える。
「私はなぜここに?」
思わず、同じように尋ねてしまう。
「僕が運んだ。」
「はこ…え?」
「一緒に寝たかったから。」
無邪気に笑うその顔は幼い頃の天月様の顔そのもの。
「じゃあこれは…。」
身体中のアザ。腕も脚もお腹も胸も、無数の赤い跡がある。
「ごめんね、どうしても我慢できなくて。それ以上は何もしてないし、口に接吻もしてない!」
大御神、いや天月様は起き上がり、私の肩を掴んだ。
「でもごめんね、嫌だったよね。浴衣くらい着せてあげればよかった。」
しゅん、としてしまった天月様を見て、ちょっと笑ってしまった。
あぁ、懐かしい。たくさんのしがらみの中で自分たちの居場所を確保して、笑って過ごしたあの日々が。昔から天月様はそうだ、私の反応に一喜一憂してどんどん話を進めていく。
「驚いていただけです。今もかなり混乱しております。…あのような無礼な行動に出たのに、怒らないのですね。」
天月様は黙って私を見た後、部屋を出て行ってしまった。やっぱ怒ってたんだな、と思ってベッドから降りようとすると、天月様は私の浴衣を手に戻ってきた。
「これ着て。着せてなかった僕がいうのもおかしいけど、ちょっと話に集中できない。」
?
一連の言動に驚き固まっている私に、天月様は浴衣を羽織らせた。
「あのね、朔。僕は怒っているよ。でも朔に対してじゃない。朔をそこまで追い詰めた人たちと、その原因である自分に対して。」
それにね、と続ける。
「朔は巫女で、僕のお世話をしてくれて、僕に仕えている。だから手を出しちゃいけないって自分に言い聞かせてきた。でも大人たちがこんな機会をくれるとは思っていなかった。彼らがここまで運んだんだから、あとは僕の自由。そう思ったら僕的には悪いことじゃない気がしてきた。もちろん、朔を苦しめたことは怒ってるし、違う方法で同じ結果になるなら違う方法の方がよかった。」
「天月、様?」
どういうことだ?何をおっしゃっているんだ?理解が追いつかない。
「朔は気付いていると思うけど、僕は女神と子を作る気はない。こればかりは譲れない。このわがままで朔を苦しめた、ごめんなさい。」
「あ、謝罪など」
「今、僕は天月、朔媛の友人だよ。友人として謝るのは当然でしょ。それに、朔は僕に急かしてこなかった。きっと父に言われただろうに、僕には言ってこなかった。本当にありがとう。」
「…。」
「でも子孫の話はしておかないとだね。代々、大御神は西の女神と子孫を残してきた。でも、彼女は女神じゃない。おそらく、ずいぶん前に血は潰えている。」
「えっ?」
「先代の女神もおそらくは女神じゃない。実際、西の本殿に入ってわかったよ。御神体はないが、人の形ではない女神があそこにいる。それと家系図を辿っていけば、我々の祖先の方が女神よりはるかに昔から存在している。つまり、女神じゃなくても我々は血を残せる。」
「そうでしたか…。」
それしか言えない。大御神が言うことだ、きっと間違いない。女神の一族は自分たちが女神でないことを知っているのだろうか。きっと知る術もなければ知ったところで引き返せないのが事実だろう。
天月様が女神との子供を作る気がないことは知っていたから、それに関しては特に驚かない。
「朔を苦しめた。たくさん。本当にごめんね。」
「そうですね、ふふ、許します。」
この謝罪は受けておこう。それなりに大変だったし。とんでもないことさせられたし。
「それでね、朔。ここからが本題なんだけど。こんな話の後で申し訳ないんだけど、お願いを聞いて欲しくて。」
「なんでしょう?」
「朔と僕の子どもが欲しい。」
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「はい???」
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