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10 〜颯太side〜
しおりを挟む「颯太くん!いっしょに帰ろ!」
「颯太~帰り道どっか寄ろうぜ~」
「颯太!今度ここ行かね?」
俺の周りには常に誰かがいた、
いてほしいと思わなくても気付けば囲まれている、小さい時から当たり前のようになっていてそれは高校生になった今も変わらない
高校2年に上がるとき急な親の転勤で、都会から少し離れたこの学校に転校になった
新しい環境に不安や心配は付き物だが、俺はむしろ少し楽しみだった
都会独特の騒がしさもなく、自然豊かで空気も美味しい
何かに解放されたような、すっきりとした気持ちで、登校初日を待ち遠しく感じていた
「北野颯太です、宜しくお願いします」
待ちにまった今日は雲ひとつない青々とした空が広がる、とても天気のいい日だった
空いた窓から風が入り込んで教室のカーテンを揺らしていた
(いいなあ、窓側の席‥‥あそこの席に座りたい)
ふと目に入った窓側の席、心地よく吹く風が気持ちよさそうで‥
登校初日なのに、なんとも緊張感のないことを考えながら自己紹介をした
自己紹介を終え、案内されたのは窓側の席‥‥ではなくその横の列の席だった
(んー、残念)
転校して数日は結構忙しかった
前の学校とで授業内容が違っていたため、勉強がそんなに得意じゃない俺は理解するのに必死だった
休み時間は質問の嵐だった
「何で引っ越してきたの?」
「親の転勤で」
「何て呼べばいい?」
「颯太でいいよー」
「部活入る?」
「今んとこ考えてないかなー」
ひとつずつ答えていくが、段々雑になってきた‥‥
休み時間なのに全然休まらない‥
転校初日だし仕方ないかと自分を納得させ数日たてば落ち着くだろうと、今日一日を気合いでやり過ごした
それから嵐のような忙しさはましになり、これで静かな学校生活を送れるとほっとした頃 俺は、ちょっと変だけど面白い人に出会った
(やべ、課題忘れた)
「ごめん!忘れ物したから先帰ってて!」
「えー!颯太くんと帰りたいし私ら全然待つよ?」
「颯太何忘れたんだ?」
「色々!じゃあ、また明日な」
「「えーー!!」」
友達数人で帰っていた時のこと 明日までに出さないといけない課題があるのを思い出し学校に戻った
誰かのを写してもらおうとも考えたが、最近サボりすぎてて成績が良くないため、今回は持ち帰ってきちんとやろうと思ったのだった
待つとゴネる皆んなに別れの挨拶もそこそこにさっさとその場を立ち去る
学校について、誰もいない教室に入る
窓から差す夕陽に照らされ、全体がオレンジ色に染まっていた、熱気がこもって少し蒸し暑い
(こんな静かだったっけ)
誰もいないので当たり前だが、いつも騒がしい日常と違う光景が新鮮にみえた
ガラガラ‥‥
自分の席にいき、忘れ物を探していると不意に誰かが入ってきた
「おっ」
声を上げるとその人物は戸を開けたまま何故かそのまま突っ立っている
(えーっと、誰だったっけ‥‥確か窓側の席の‥‥)
「原くんも忘れ物取りに来たの?」
思い出した、俺が転校初日に座りたいと思った席に座っていた人物だ
喋っているところを見たことがなく、もちろん俺も会話したことがないので
「窓側にいる人」というイメージしかない
転校したてのころ、早く馴染もうと皆んなの名前を覚えようと名簿をよくみていたので名前だけは分かる
「えっ!‥‥ああ、う、うん!‥」
声をかけるとどうやら原くんも同じく忘れ物を取りに来たらしい
急いできたのかうっすらと汗をかいてるのが見える
目にかかるほど伸びた前髪に、俯きがちな顔、自信がないのかいつも猫背になっていて、背が高そうなのにもったいないと思う
自分や周りの友達とは違うタイプだ、前の学校でもここまで大人しい奴はいなかったと思う、もしかしたら気付いてないだけでいたかも知れないが
無言なのも変かなと思い、話しかけてみた
「ちゃんと話したことなかったよな、改めてだけど俺は北野颯太、よろしく」
そう言って握手をしようと手を出す
(‥‥‥あれ、嫌だったかな)
俺の手をしばらく見つめたまま動かない原くん、馴れ馴れしすぎたかと思い手を引っ込めようと思ったその時、ふきふきとズボンで何回も手汗を拭いはじめた
(嫌だったんじゃなくて手汗を気にしていたのか)
「ふふっ」
思わず笑ってしまった、そんなこと気にしなくていいのに、意外と律儀な人なのだろうか
恐る恐ると言った感じで手を握り返してくれた、少し熱気がこもった教室のせいか、原くんの体温のせいか、俺の手のひらもじんわりと熱くなる
「あ、あのっ!‥な、なんて呼べば‥いいかな‥」
緊張しやすいのか話すのが苦手なのか、その両方なのか、時々言葉につまりながらも頑張って話しているのが伝わってくる
なんて呼べばいいかな、なんて聞いてくれるってことは会話は嫌いではないんだと思い少し安心した
「うーん、そうだな、みんな颯太って呼んでるし颯太でいいよ」
「颯太くん」
俯きがちな顔が今は真っ直ぐと俺を捉える、いつも前髪で隠れてる目がはっきり見えた
(こんな目してたんだ)
二重の黒い瞳、まつ毛は長くはない
けど意外と形のいい切長な目に少し釘付けになっていると
「颯太くん」
何故2回言った?唐突なセリフに吹き出してしまった
「ははっ!原くん面白いね、俺も原くんのことなんて呼べばいい?みんなから何て呼ばれてるんだ?」
「な、な、何でもいいよ!‥‥えと、み、みんな、は、分からない‥」
だんだん声が小さくなって、最後は分からないほどか細くなっていった いつも一人の原くん、みんなから何て呼ばれてる?なんて意地悪な質問だったかもしれない
「ふーんそっか‥‥じゃあ一鷹な」
「し、下の名前も、な、なんで知って‥」
「クラスの名簿みたら分かるじゃん」
「す、すごい」
「いやいや、名前ぐらい覚えられるよ?」
「すごい嬉しい」
(名前を呼んだだけでこんな喜んでくれるんだ、なんか可愛い‥)
目尻をさげ蕩けるような表情でそう言った原くんがなんだか可愛く見えてきて
「そっか」とだけ返事するとまた嬉しそうな表情を見せた
「忘れ物も取ったしそろそろ行くわ」
「う、うん、」
「‥‥えーっと、」
「‥?」
「手、離してくれたら嬉しいんだけど」
そう、ずっと握りっぱなしだ
最初は恐る恐ると言った感じで握られていたのが話をしていくうちに力強く握られていたので言うタイミングを完全に失っていた
離してほしいと言うと、原くんは気付いてなかっただろう、びっくりして手をバッと離してくれた
その一連の動作がツボに入った
「ご、ごめんっ、!!」
「ぶ、あはははっ!!一鷹まじで面白いわ!」
これが原くんとの出会いだった
「窓側にいる人」から「ちょっと変だけど面白い人」へ原くんのイメージは変わった
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