忠犬な君

つきのあかり

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きっと神様が丁寧に、丁寧に、
丹精込めて作ったのだろう
ひとつひとつとっておきのパーツを選んで
慎重に顔に配置していく
そうして創られたような人間が目の前にいる
やっぱり神様は残酷だ
全然平等じゃない
平等じゃないからこそ、彼が一層特別に見えた

その眩しい風貌に釘付けになっていると、彼がこちらに向かって歩いてくる

(あっ‥‥)

はっと我に返ると
気付けば彼は俺の斜め前の席に座った


(きたの、そうた)


そう無意識に心の中で彼の名前を呼んだ




休み時間になると
彼の周りを囲むように人が集まる
「何で引っ越してきたの?」
「何て呼べばいい?」
「部活入る?」
中心にいる彼がひとつずつ質問に答えているようだ
その声は周りの声で掻き消されてよく聞こえない
俺は窓に目を向けて、いかにも聞いていないかのように装っているが、内心ものすごく気になっていた

(いや、彼と関わることなんてないのだから知っても仕方がないのに)



その後も彼の周りは人が絶えない
ずっと一人の俺とは違い、
彼は一人の時間がないんじゃないかとすら思う
その美しい容姿に女子たちが陰で「王子」と呼んでいるのが聞こえた
彼はその見た目が美しいが故に、一見冷たいような印象を受けるが
性格は明るく人当たりもいい
喋ると親しみやすく(俺は喋っていないが)、クールな印象から柔らかい雰囲気になる
そのギャップがたまらないと女子たちが言い、つけられたあだ名が「王子」だ

勉強は苦手らしく、
「さっきの分からないとこ誰か教えて!」
と授業が終わると、決まってこの台詞を言う
すると勉強が得意な女の子が嬉しそうに彼に教えるのだった
「勉強苦手なとこも可愛い~♡」と
女子たちはそのギャップにもやられていた
(イケメンは勉強が苦手だと可愛いになるのか!?)
世の中は無情である

こんな俺だが幸いにも勉強はそこそこできる
もし俺が教えてあげるよと言ったらどう思われるだろうか
教えてあげるなんて厚かましいだろうか
こんな俺に急に声をかけられても困惑するだろうな、困惑どころかキモがられるのがオチだ

(人に話しかけたいなんて‥‥)

人となるべく関わらないように生きてきた、
それが自分から話しかけたいだなんて
そんなことを思ったのはいつぶりだろうか
何でそんなことを思ったのか自分でもよく分からなかった
どうすればいいか分からず
しばらくの間この気持ちを持て余していた


結局話しかける勇気はなかった
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