ー1945ー

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第一章

ー令和ー

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「人生このままで良いのかな」
スーパーからの帰り道、あおいは心の中で思った。
こう思うのは何度目だろう。人生は難しい。

半年前、人間関係が辛くなり仕事を辞めた。
今はもう引きこもりの生活に逆戻りになった。
また戻ってしまった。これで何度目だろう。心の弱い自分を責めた。
何をやっても長続きしない。何処に行っても馴染めず人間関係に苦しむ。
どうして自分はこうなのだろう、どうしたら普通になれるのだろう。
そんなことを思いながら過ごす日々だった。必死で小さな幸せを血眼のように探していた。

小さな幸せを見つけられる日もあった。
しかし、ふっと現実に戻ると生きているのが辛い気持ちになった。
本当は毎日楽しく生きたい。
本当はもっともっと楽しく生きたい。それが本音だ。
死にたいわけがない。死にたいわけがない。
ただ、楽しくない日々は辛かった。
自殺をする人の気持ちが分かるような気がした。
みんな本当は生きたいんだ。生きたいがそれ以上に辛いものがあるから自殺という選択をしてしまうんだと。
辛いことのせいで脳が極限状態に陥り、死以外考えられなくなるのではないか、そんなことをぐるぐる考えた。
忘れたい記憶はいつも脳裏に焼き付いてくる。

「どうして自分はこうなんだろう。どうしたら人生が楽しくなるんだろう」
近頃はそんなことばかり考えていた。まるで哲学者だ。
考えても考えても答えの出ない迷路に迷い込んだようだった。
誰も助けてはくれない。誰も暗闇から引っ張ってはくれない。

大人になるとそんなことばかりだ。
子供のときは少なからず助けてくれる人が居た。
大人になってからは大人である以上、現状は自分でどうにかするしかない。そんな現状が怖かった。
ある人間にとって世の中は温かい世界なのかもしれない。
しかし、自分にとって世の中は冷たいものだった。

スーパーで購入した食材が腕に重くのしかかる。
エコバッグが腕に食い込んでいる。腕は赤くなっている。
ご飯を食べる事だけが楽しみなあおいにとって、そんなことは些細なことであった。小さな痛みでさえ生きている実感に変わった。

「ただいま」
いつも通り家には誰も居ない。おかえりの言葉はない。
そそくさと晩御飯のうどんを準備する。
いつも通り、テレビをつけて流し見する。ご飯のお供になっている。
無音だと寂しいからテレビをつけて部屋の空間を賑やかにする。
かすかに孤独感が紛れる気がした。それはただの現実逃避かもしれない。
テレビの中ではみんな楽しそうに笑っている。
自分は一人、部屋の中でうどんを食べている。

自分だけ人生の針が止まっているようだ。自分だけが世間から取り残されているようだ。
実際、自分は世間から取り残されいた。
同年代の人たちは仕事をし、子どもが居て子育てをしている人も多い。
自分はどうだろう。子どものままではないか。

うどんがなくなった。
「今日の楽しみはこれで終わり」
ご飯を食べてから少しは動けない。重い身体に喝を入れ、ようやく食器洗い機に食器を入れる。そして、歯磨きをする。お風呂に入る。スキンケアをする。スマホの世界に旅に出る。アラームを設定して寝る。
食事のあとのルーティンを全て終えて、あおいは目を閉じた。

「なんだろう、この人生。お兄ちゃんもこんな気持ちだったのかな」
ふいにこぼれた言葉だった。

カーテンの隙間から月が見える。美しい。
「昔はよく月や星を見ていたっけ」
昔の事が思い出されて心がふわっと温かくなった。
過去に良い思い出はあまりない。
小さい頃から苦労続きの人生だった。
何ら良いことのない人生を歩んできたあおいの心は荒んでいた。
そんな人生のなかで彩りを与えてくれたのは自然だった。
月や星は昔から変わらない。いつもそこにある存在。
辛い時、幾度となく月を眺めた。

「昔の人も月や星を眺めていたのかな」
そんなことを考えているうちにあおいは深い眠りについた。
こうして味気のない一日が終わりを告げた。
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