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最終話【デリート開始】
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「ねぇ、私のどこが好き?」
「そうだなぁ。可愛いところ、優しいところ、ようこちゃんは素敵なところが多すぎて、今ここで全部言えないよ。今度、紙に書き出すね」
「ほんとにー!じゃあ早くー!早く書いてー!」
「よし、じゃあ今からウチに帰って書こうか!」
「書こう書こう、早く帰ろー!」
昼食を終えたひと組の男女が、慌ただしく出ていった。
「まだいるのか?今みたいなバカップルが?」
平日の昼、サラリーマンでごった返す会社近くの定食屋で、昼食を取りながらそのやり取りを見ていた新藤が後輩のゆきへ言った。
「新藤さん、ああいうの嫌いですか?わたし、嫌いじゃないかも。自分じゃとてもできないんで」
ゆきは会社で営業事務を担当している。新藤が所属する営業チームのサポート役だ。
「嫌いを通りこして生理的に無理だよ。鳥肌がたつ」
「新藤さ~ん、わたしのどこが好き~?」
「ゆきちゃん、勘弁してくれよ…」
いたずらっぽく笑うゆきに新藤が言った。
新藤とゆきは、営業と営業事務という関係でそれ以上の関係ではない。しかし、ゆきは愛想がよく、営業チームの誰が相手でも
このように冗談を交えながら屈託なく接するので、みんなから好かれる存在だった。
「まあでも、ゆきちゃんのその笑顔に、グッチーやられちゃったんだよなぁ」
今度は新藤がそう言って笑った。
グッチーとは新藤達の上司で藤木と言った。この藤木、仕事がまったくできない上にいつも愚痴ばかりなので、ついたあだ名が『グッチー』。
いつしか全員がそう呼ぶようになっていた。もちろん、部下の誰からも慕われていない。
「新藤さん!勘弁してください。ほんと無理なんですよあの人。てか、あれでよく結婚できたと思いません?」
このグッチー、妻子ある身でありながらゆきが大のお気に入りで、事ある毎に食事に誘っていた。もちろん、ゆきは断り続けている。
「まあ、いろんな人がいるってこったろな。それに、俺たちが知らないだけで、グッチーにも良いところの一つくらい…」
「あるわけないじゃないですか!」
言い終わらないうちにゆきが突っこんできたので、新藤は爆笑してしまった。
「はぁ…グッチーみたいな嫌われ者じゃなくて、すてきな男性に誘われたいなぁ」
「例えば?」
「この前テレビでイケメン見つけたんです!あの、なんとかっていう有名なIT会社の役員の人!堀越さんって人です。何かの番組で特集あってインタビューされてて、もうね、めっちゃカッコイイんですよ!ああいう人だったすぐついていくのになぁ」
堀越が勤めるIT会社は日本でもトップクラスの会社で知らない者がいないほどの知名度だった。そして、堀越はもともとベンチャーで始めたその会社の立ち上げメンバーだった。
「おれもその人知ってるよ。あのIT企業元々はベンチャーで、確か堀越って人はその立ちあげメンバーのはずだ。だから、あの人かなりのやり手なんだろうな。お金も腐るほど持ってるだろうから、モテないはずないよな。あの人独身だっけ?独身だったら、今流行りのIT幹部と女優の組み合わせが、また一組できるんじゃないかな」
最近ニュースでIT企業の幹部と有名女優の交際報道が立て続けに報じられていた。
「それが、奥さんいるんですよ。そのときのテレビに奥さんも少しだけ出てたんですけど、凄くキレイな人で最初女優さんかと思いました。調べたら違ったんですけど、女優さんみたいにキレイな人だった。美男美女でお似合いだし、何一つ不自由なんてないんでしょうね。あー、奥さんが凄く羨ましいなぁ」
「そうなのか。でも、傍から見て幸せそうでも、わからないよ。本人たちにしかわからない問題もあるだろうし、必ずしも奥さんが幸せだとは限らないんじゃないかな」
「えー!幸せに決まってますよ!勝ち組ですよ。勝ち組!!何の不自由があるって言うんですか?」
「そうだなぁ、例えば…思いつかないな…。旦那がモテすぎて浮気するとか、そんな陳腐な発想しかできなかった。でも、俺みたいな凡人に思いつかないような苦労はあるはずだよ」
「ないですよー。いいなぁ、勝ち組。よし!私も勝ち組み目指すぞ!」
「いいねぇ、夢があって。あれ?ゆきちゃん、20代前半だっけ?」
新藤が笑う。
「知ってるくせに!もう後半に差しかかっていきますよ!でも、まだまだ勝負はこれからです!!」
「はいはい。応援してますよ」
そんなやり取りをしているとき、定食屋のテレビがニュースを伝えた。
「それでは、次のニュースです。先日真相が発覚しました、大阪、大正区の小料理屋店主殺害事件の続報です。主犯の妻の他、新たな共犯者の存在も明らかになりました。1年以上前に事故死して処理されていたこの事件ですが、ここへきて急展開を見せています。共犯者は…」
そのニュースが始まると、定食屋にいる客全員がテレビに集中した。
1年以上前、大阪、大正区にある小料理の店主が散歩中に心臓発作で急死。
当時、事件性はないとされ事故死として主人の心臓発作は処理された。妻は悲しみにくれながら、主人の残した店を改装して営業を再開。その地域では、妻を応援する声が多かったが…、真相は、事故を装い妻が旦那を殺害するという殺人事件だった。
動機は、旦那の店を自分好みの店に改装するという意見を認めてくれなかったからという身勝手極まりないもの。そして今、その犯行に共犯者がいることが判明したと、ニュースは伝えていた。
「これ、この犯人ひどいですよね!絶対に最初からお店目当てですよ。悪そうな顔してますもん!」
画面には『金城容疑者』として妻の写真が画面に映し出されていた。妻は犯行を認めた後、素直にすべてを自供しているという。
「そうだろうな。しかし、このお店のご主人。本当に気の毒だ。人が良さそうだから、騙されちゃったんだな…」
殺害された店の主人の写真も何度もテレビで紹介されていた。
「この事件、この飲み屋の常連さんは、最初から『あの女が犯人だ!』って、疑ってたらしいですね」
「それがきっかけで、今回の発覚に繋がったらしいな。警察が事故として処理した後も、常連さんで証拠や証言を必死に集めて、警察を動かしたんだってよ。凄いよな」
「それだけ、このお店のご主人は愛されてたってことなんでしょうね」
「そうだろう。そうじゃなかったら、常連さんと言えどもここまで必死になれないよ」
「ご主人、たくさんの人から愛される方だったのに可哀そうすぎます…この金城って女、ほんとに許せない!!」
「でも、真実が発覚したんだ。これでご主人も少しは浮かばれるだろう。まあ何にしても、悪いことはできないな。悪事は暴かれるってこったよ」
「ですね。まっとうに生きないとダメですね!あ、そろそろ行かないと、グッチーがうるさいですよ」
午後1時になろうとしていた。
「もうこんな時間か!休憩時間を過ぎて、しかもゆきちゃんと一緒となるとグッチーに何を言われるか。急ごう!」
二人は会計を済ませ。急いで会社へ向かった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「新藤!おまえ、ギリギリやないか!ええか、社会人の基本はな、五分前行動や。わかるやろ?五分前行動!せやから、しっかりと始業時間の5分前に帰ってこんかい!このアホンダラが!!」
この藤木、東京の本社勤務だが大阪出身なのでコテコテの関西弁である。加えて説明しておくと、藤木は5分前行動など、年に2、3回しか実践しない。
「新藤さんがお昼ゆきちゃんと一緒だったから、機嫌の悪さマックスですよ」
新藤の部下、入社2年目の神野が小声でささやく。
「勘弁してほしいよ…」
新藤も小声で返す。
「こら新藤!お前、怒られとんのに、神野と何をこそこそ話しとんねん!」
「いえ、違うんですよ。新藤さんと、藤木課長は怒っている姿も凛々しいから、あの姿を見ているだけで身が引き締まるなって言ってたんです」
新藤が吹き出しそうになる。
「ね?新藤さん?」
何とか笑いをこらえる新藤。
「はい。課長はいつ見ても凛々しいので…」
笑いをこらえるのが必至で、言葉が続かない。
「お前ら、適当なことばっかり…」
「課長!」
ゆきが割って入る。
「わたしも5分前行動守れませんでした!私も同罪です!だから反省してたのですが、今の凛々しい課長の姿を見て、もう二度とギリギリの行動をしないと誓いました!」
新藤は完全に笑ってしまっていたが、ゆきにそう言われ、気分がよくなった藤木には気付かれなかった。
「そうか、まあ、わかればええんや。わかればな。ほな、次からはしっかり頼むで!」
藤木の機嫌も直ったので、各々が仕事を始めようとしたとき、
「課長!僕の友達にも、今みたいに上司が凛々しくてかっこいいって話したことがあるんですよ。そしたらその友達に『かっこいい上司の写真が見てみたい』って言われましてね。写真見せてあげようとしたんですが、僕、課長の写真持ってなくて。今度、その子に見せたいのでカッコイイ写真撮らせてもらっていいですか?やっぱり、できる男はオフィスでスーツの写真が一番カッコイイですから。あ、友達はもちろん女の子ですよ」
新藤もゆきもびっくりしていた。二人とも、『こいつ、何を言ってるんだ?』という表情である。
「そうか?いやぁ、そう言われると、断わられへんなぁ。今の携帯は高性能やから、オフィスで撮ったら俺のほとばしるオーラまで写ってまうなぁ。しっかり撮ってくれよ。ほんでその友達に、『いつでもご飯付き合うさかい』って言うといてくれや」
「ありがとうございます。伝えておきます」
そして、神野は藤木の写真をスマートフォンに何枚か納めた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「おい!神野!」
仕事終わり、オフィスを出て足速に帰ろうとする神野を新藤が呼び止めた。
「あ、新藤さん、どうしたんですか?」
「お前さ、昼休み明けのあれ、なんだよ?グッチーの写真なんか撮って」
「ほんとに、神野くん、どうしたの?あれ?わたしも面白半分でのっかったけど、写真のところはびっくりしたよ」
いつの間にか、二人のとなりにゆきも来ていた。
「新藤さん、ゆきさん、ほんとに言葉通りでして。写真ほしがってる友達がいるんですよ。まあ、友達というより、微妙な関係のやつで…」
「その微妙な友達、大丈夫なのか?ほんとにグッチーの写真欲しがってるのかよ」
「新藤さん、それは間違いありません。実は、僕も一刻も早く渡したいんですよ。そいつにね。あ、さっきは女の子って言いましたけど、多分男だと思うんです。まあ、変わったやつでして…」
そう言って笑う神野を見て、ゆきが尋ねる。
「その人、男のくせにグッチーの写真ほしがるって危なくない?怪しい人なんじゃないの?」
「ええ。それはもう、ぶっとんだ奴なんですよ」
そう言ったあと、神野の顔から笑いが消えた。神野の顔がどこか冷酷で冷たい顔に見えて、新藤とゆきは少し恐怖を覚えた。
「今日、小島くんの退院祝いどうする?」
ゆきは慌てて話題を変えた。
「そうだ。神野、おまえ一度小島と話してみたいって言ってたろ。『グッチーにやられた人がいるなら、全力で元気づけてあげたい』って言ってたもんな。今日、小島と飲みに行くけど、来るか?」
小島とは、グッチーに散々攻撃され心を病んでしまい、休職して入院し、その後、会社をやめた社員だ。
しかし、最近になって心の病気がかなりよくなってきており退院していた。
そして先日、先生から『もう社会復帰できるところまできている』と言われ、今日は新藤、ゆき、小島の3人で退院祝いをすることになっていた。
「すみません…今日、どうしてもやらないといけないことがあって行けないんです」
「そうなのか、まあ、今後ちょくちょくこういうのあると思うし、また時間が合ったときに顔出せばいいよ」
「はい。すみません。小島さんによろしく…」
神野がそこで言葉を切った。
「よろしく…なんだ?伝えとくけど…」
「いえ、やっぱり伝えなくて大丈夫です。多分、明日から一緒に働くことになるから」
「お前、何言ってるんだ?」
「神野くん、今日何か変だよ」
新藤とゆきが心配そうに言うが、神野は意に介さなといった様子だ。
「僕、今日は自分でもおかしいと思います。でも、明日は大丈夫だと思います。それじゃあ、新藤さん、ゆきさん、また明日」
神野は一礼して、スタスタとエレベーターへ向かって歩き出した。
「なんだ?あいつ」
「さあ…入院とかにならなきゃいいんですけどね」
オフィスの中から、
「ええかお前ら!残業めっちゃやっていくんやぞ!ほんで残業代は一切請求するな!それが会社に貢献するっちゅーこっちゃ。よー覚えとけよ!」
という、グッチーの教えが廊下に響き渡ってきた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「お帰りなさいませ、神野さま。今日は削除依頼でございますね?どなたを削除致しましょうか?」
神野は、ノートパソコンに立ちあがっている『デリートサイト』と記載されたサイト上で、やりとりをしていた。
「今日はね、上司の藤木。デリートマンが本物だってわかってからずっと消したかったんだけど、写真がなくてさ。今日、半ば無理やりに会社で写真撮ってきたんだよ。先輩達に変な目で見られて大変だったよ」
「それは大変でしたね。でも写真さえアップロードしていただければ大丈夫です。しかし藤木さん…ですか…」
「どうしたの、きみ、何か知ってるの?もしかして知り合い?」
「いえ、もちろん存じませんよ。それでは、手続きをお願いします」
「写真のアップロードだね」
「はい、それと、消える思い出の選択をお願い致します」
「そうだったね」
神野は藤木の写真をアップロードし、消える思い出を選択した。
「やったよ」
「ありがとうございます。それではこれで手続きは完了となりますので、明日の午前0時に藤木さんを削除致します」
「お願いします!明日が楽しみだよ」
「我々もです、神野さま。それでは、今日はこのあたりで失礼致します」
「うん。おやすみー」
『デリートサイト』と記載されたサイトが閉じられた。
(明日から、グッチーのいない世界だ。グッチーは存在しないことになるから、小島さんも元気に出勤してるはずだよな。それに、グッチーに代わる上司も当然いるよな。どんな人だろう。良い人だったらいいのになぁ。でも、どんな人でも、絶対に今より会社がよくなってるよな。そうなってるとしたら、ぼくって凄いことをしてるんじゃないのかな?この力で、どんどん世界を変えてやるんだ!ぼくが、ぼくの思うままに、いらない人間を消していってやるんだ。楽しみで仕方ないよ)
明日、どんな世界が待っているのか、自分の思い描いた世界になっているのか…神野は期待で胸を膨らませながら眠りに落ちた…
時計が音を立てて進んでいく。
23:53…23:54……23:56………23:59……………
そして…時計の針がゆっくりと…午前0時を指した…
-完-
「そうだなぁ。可愛いところ、優しいところ、ようこちゃんは素敵なところが多すぎて、今ここで全部言えないよ。今度、紙に書き出すね」
「ほんとにー!じゃあ早くー!早く書いてー!」
「よし、じゃあ今からウチに帰って書こうか!」
「書こう書こう、早く帰ろー!」
昼食を終えたひと組の男女が、慌ただしく出ていった。
「まだいるのか?今みたいなバカップルが?」
平日の昼、サラリーマンでごった返す会社近くの定食屋で、昼食を取りながらそのやり取りを見ていた新藤が後輩のゆきへ言った。
「新藤さん、ああいうの嫌いですか?わたし、嫌いじゃないかも。自分じゃとてもできないんで」
ゆきは会社で営業事務を担当している。新藤が所属する営業チームのサポート役だ。
「嫌いを通りこして生理的に無理だよ。鳥肌がたつ」
「新藤さ~ん、わたしのどこが好き~?」
「ゆきちゃん、勘弁してくれよ…」
いたずらっぽく笑うゆきに新藤が言った。
新藤とゆきは、営業と営業事務という関係でそれ以上の関係ではない。しかし、ゆきは愛想がよく、営業チームの誰が相手でも
このように冗談を交えながら屈託なく接するので、みんなから好かれる存在だった。
「まあでも、ゆきちゃんのその笑顔に、グッチーやられちゃったんだよなぁ」
今度は新藤がそう言って笑った。
グッチーとは新藤達の上司で藤木と言った。この藤木、仕事がまったくできない上にいつも愚痴ばかりなので、ついたあだ名が『グッチー』。
いつしか全員がそう呼ぶようになっていた。もちろん、部下の誰からも慕われていない。
「新藤さん!勘弁してください。ほんと無理なんですよあの人。てか、あれでよく結婚できたと思いません?」
このグッチー、妻子ある身でありながらゆきが大のお気に入りで、事ある毎に食事に誘っていた。もちろん、ゆきは断り続けている。
「まあ、いろんな人がいるってこったろな。それに、俺たちが知らないだけで、グッチーにも良いところの一つくらい…」
「あるわけないじゃないですか!」
言い終わらないうちにゆきが突っこんできたので、新藤は爆笑してしまった。
「はぁ…グッチーみたいな嫌われ者じゃなくて、すてきな男性に誘われたいなぁ」
「例えば?」
「この前テレビでイケメン見つけたんです!あの、なんとかっていう有名なIT会社の役員の人!堀越さんって人です。何かの番組で特集あってインタビューされてて、もうね、めっちゃカッコイイんですよ!ああいう人だったすぐついていくのになぁ」
堀越が勤めるIT会社は日本でもトップクラスの会社で知らない者がいないほどの知名度だった。そして、堀越はもともとベンチャーで始めたその会社の立ち上げメンバーだった。
「おれもその人知ってるよ。あのIT企業元々はベンチャーで、確か堀越って人はその立ちあげメンバーのはずだ。だから、あの人かなりのやり手なんだろうな。お金も腐るほど持ってるだろうから、モテないはずないよな。あの人独身だっけ?独身だったら、今流行りのIT幹部と女優の組み合わせが、また一組できるんじゃないかな」
最近ニュースでIT企業の幹部と有名女優の交際報道が立て続けに報じられていた。
「それが、奥さんいるんですよ。そのときのテレビに奥さんも少しだけ出てたんですけど、凄くキレイな人で最初女優さんかと思いました。調べたら違ったんですけど、女優さんみたいにキレイな人だった。美男美女でお似合いだし、何一つ不自由なんてないんでしょうね。あー、奥さんが凄く羨ましいなぁ」
「そうなのか。でも、傍から見て幸せそうでも、わからないよ。本人たちにしかわからない問題もあるだろうし、必ずしも奥さんが幸せだとは限らないんじゃないかな」
「えー!幸せに決まってますよ!勝ち組ですよ。勝ち組!!何の不自由があるって言うんですか?」
「そうだなぁ、例えば…思いつかないな…。旦那がモテすぎて浮気するとか、そんな陳腐な発想しかできなかった。でも、俺みたいな凡人に思いつかないような苦労はあるはずだよ」
「ないですよー。いいなぁ、勝ち組。よし!私も勝ち組み目指すぞ!」
「いいねぇ、夢があって。あれ?ゆきちゃん、20代前半だっけ?」
新藤が笑う。
「知ってるくせに!もう後半に差しかかっていきますよ!でも、まだまだ勝負はこれからです!!」
「はいはい。応援してますよ」
そんなやり取りをしているとき、定食屋のテレビがニュースを伝えた。
「それでは、次のニュースです。先日真相が発覚しました、大阪、大正区の小料理屋店主殺害事件の続報です。主犯の妻の他、新たな共犯者の存在も明らかになりました。1年以上前に事故死して処理されていたこの事件ですが、ここへきて急展開を見せています。共犯者は…」
そのニュースが始まると、定食屋にいる客全員がテレビに集中した。
1年以上前、大阪、大正区にある小料理の店主が散歩中に心臓発作で急死。
当時、事件性はないとされ事故死として主人の心臓発作は処理された。妻は悲しみにくれながら、主人の残した店を改装して営業を再開。その地域では、妻を応援する声が多かったが…、真相は、事故を装い妻が旦那を殺害するという殺人事件だった。
動機は、旦那の店を自分好みの店に改装するという意見を認めてくれなかったからという身勝手極まりないもの。そして今、その犯行に共犯者がいることが判明したと、ニュースは伝えていた。
「これ、この犯人ひどいですよね!絶対に最初からお店目当てですよ。悪そうな顔してますもん!」
画面には『金城容疑者』として妻の写真が画面に映し出されていた。妻は犯行を認めた後、素直にすべてを自供しているという。
「そうだろうな。しかし、このお店のご主人。本当に気の毒だ。人が良さそうだから、騙されちゃったんだな…」
殺害された店の主人の写真も何度もテレビで紹介されていた。
「この事件、この飲み屋の常連さんは、最初から『あの女が犯人だ!』って、疑ってたらしいですね」
「それがきっかけで、今回の発覚に繋がったらしいな。警察が事故として処理した後も、常連さんで証拠や証言を必死に集めて、警察を動かしたんだってよ。凄いよな」
「それだけ、このお店のご主人は愛されてたってことなんでしょうね」
「そうだろう。そうじゃなかったら、常連さんと言えどもここまで必死になれないよ」
「ご主人、たくさんの人から愛される方だったのに可哀そうすぎます…この金城って女、ほんとに許せない!!」
「でも、真実が発覚したんだ。これでご主人も少しは浮かばれるだろう。まあ何にしても、悪いことはできないな。悪事は暴かれるってこったよ」
「ですね。まっとうに生きないとダメですね!あ、そろそろ行かないと、グッチーがうるさいですよ」
午後1時になろうとしていた。
「もうこんな時間か!休憩時間を過ぎて、しかもゆきちゃんと一緒となるとグッチーに何を言われるか。急ごう!」
二人は会計を済ませ。急いで会社へ向かった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「新藤!おまえ、ギリギリやないか!ええか、社会人の基本はな、五分前行動や。わかるやろ?五分前行動!せやから、しっかりと始業時間の5分前に帰ってこんかい!このアホンダラが!!」
この藤木、東京の本社勤務だが大阪出身なのでコテコテの関西弁である。加えて説明しておくと、藤木は5分前行動など、年に2、3回しか実践しない。
「新藤さんがお昼ゆきちゃんと一緒だったから、機嫌の悪さマックスですよ」
新藤の部下、入社2年目の神野が小声でささやく。
「勘弁してほしいよ…」
新藤も小声で返す。
「こら新藤!お前、怒られとんのに、神野と何をこそこそ話しとんねん!」
「いえ、違うんですよ。新藤さんと、藤木課長は怒っている姿も凛々しいから、あの姿を見ているだけで身が引き締まるなって言ってたんです」
新藤が吹き出しそうになる。
「ね?新藤さん?」
何とか笑いをこらえる新藤。
「はい。課長はいつ見ても凛々しいので…」
笑いをこらえるのが必至で、言葉が続かない。
「お前ら、適当なことばっかり…」
「課長!」
ゆきが割って入る。
「わたしも5分前行動守れませんでした!私も同罪です!だから反省してたのですが、今の凛々しい課長の姿を見て、もう二度とギリギリの行動をしないと誓いました!」
新藤は完全に笑ってしまっていたが、ゆきにそう言われ、気分がよくなった藤木には気付かれなかった。
「そうか、まあ、わかればええんや。わかればな。ほな、次からはしっかり頼むで!」
藤木の機嫌も直ったので、各々が仕事を始めようとしたとき、
「課長!僕の友達にも、今みたいに上司が凛々しくてかっこいいって話したことがあるんですよ。そしたらその友達に『かっこいい上司の写真が見てみたい』って言われましてね。写真見せてあげようとしたんですが、僕、課長の写真持ってなくて。今度、その子に見せたいのでカッコイイ写真撮らせてもらっていいですか?やっぱり、できる男はオフィスでスーツの写真が一番カッコイイですから。あ、友達はもちろん女の子ですよ」
新藤もゆきもびっくりしていた。二人とも、『こいつ、何を言ってるんだ?』という表情である。
「そうか?いやぁ、そう言われると、断わられへんなぁ。今の携帯は高性能やから、オフィスで撮ったら俺のほとばしるオーラまで写ってまうなぁ。しっかり撮ってくれよ。ほんでその友達に、『いつでもご飯付き合うさかい』って言うといてくれや」
「ありがとうございます。伝えておきます」
そして、神野は藤木の写真をスマートフォンに何枚か納めた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「おい!神野!」
仕事終わり、オフィスを出て足速に帰ろうとする神野を新藤が呼び止めた。
「あ、新藤さん、どうしたんですか?」
「お前さ、昼休み明けのあれ、なんだよ?グッチーの写真なんか撮って」
「ほんとに、神野くん、どうしたの?あれ?わたしも面白半分でのっかったけど、写真のところはびっくりしたよ」
いつの間にか、二人のとなりにゆきも来ていた。
「新藤さん、ゆきさん、ほんとに言葉通りでして。写真ほしがってる友達がいるんですよ。まあ、友達というより、微妙な関係のやつで…」
「その微妙な友達、大丈夫なのか?ほんとにグッチーの写真欲しがってるのかよ」
「新藤さん、それは間違いありません。実は、僕も一刻も早く渡したいんですよ。そいつにね。あ、さっきは女の子って言いましたけど、多分男だと思うんです。まあ、変わったやつでして…」
そう言って笑う神野を見て、ゆきが尋ねる。
「その人、男のくせにグッチーの写真ほしがるって危なくない?怪しい人なんじゃないの?」
「ええ。それはもう、ぶっとんだ奴なんですよ」
そう言ったあと、神野の顔から笑いが消えた。神野の顔がどこか冷酷で冷たい顔に見えて、新藤とゆきは少し恐怖を覚えた。
「今日、小島くんの退院祝いどうする?」
ゆきは慌てて話題を変えた。
「そうだ。神野、おまえ一度小島と話してみたいって言ってたろ。『グッチーにやられた人がいるなら、全力で元気づけてあげたい』って言ってたもんな。今日、小島と飲みに行くけど、来るか?」
小島とは、グッチーに散々攻撃され心を病んでしまい、休職して入院し、その後、会社をやめた社員だ。
しかし、最近になって心の病気がかなりよくなってきており退院していた。
そして先日、先生から『もう社会復帰できるところまできている』と言われ、今日は新藤、ゆき、小島の3人で退院祝いをすることになっていた。
「すみません…今日、どうしてもやらないといけないことがあって行けないんです」
「そうなのか、まあ、今後ちょくちょくこういうのあると思うし、また時間が合ったときに顔出せばいいよ」
「はい。すみません。小島さんによろしく…」
神野がそこで言葉を切った。
「よろしく…なんだ?伝えとくけど…」
「いえ、やっぱり伝えなくて大丈夫です。多分、明日から一緒に働くことになるから」
「お前、何言ってるんだ?」
「神野くん、今日何か変だよ」
新藤とゆきが心配そうに言うが、神野は意に介さなといった様子だ。
「僕、今日は自分でもおかしいと思います。でも、明日は大丈夫だと思います。それじゃあ、新藤さん、ゆきさん、また明日」
神野は一礼して、スタスタとエレベーターへ向かって歩き出した。
「なんだ?あいつ」
「さあ…入院とかにならなきゃいいんですけどね」
オフィスの中から、
「ええかお前ら!残業めっちゃやっていくんやぞ!ほんで残業代は一切請求するな!それが会社に貢献するっちゅーこっちゃ。よー覚えとけよ!」
という、グッチーの教えが廊下に響き渡ってきた。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「お帰りなさいませ、神野さま。今日は削除依頼でございますね?どなたを削除致しましょうか?」
神野は、ノートパソコンに立ちあがっている『デリートサイト』と記載されたサイト上で、やりとりをしていた。
「今日はね、上司の藤木。デリートマンが本物だってわかってからずっと消したかったんだけど、写真がなくてさ。今日、半ば無理やりに会社で写真撮ってきたんだよ。先輩達に変な目で見られて大変だったよ」
「それは大変でしたね。でも写真さえアップロードしていただければ大丈夫です。しかし藤木さん…ですか…」
「どうしたの、きみ、何か知ってるの?もしかして知り合い?」
「いえ、もちろん存じませんよ。それでは、手続きをお願いします」
「写真のアップロードだね」
「はい、それと、消える思い出の選択をお願い致します」
「そうだったね」
神野は藤木の写真をアップロードし、消える思い出を選択した。
「やったよ」
「ありがとうございます。それではこれで手続きは完了となりますので、明日の午前0時に藤木さんを削除致します」
「お願いします!明日が楽しみだよ」
「我々もです、神野さま。それでは、今日はこのあたりで失礼致します」
「うん。おやすみー」
『デリートサイト』と記載されたサイトが閉じられた。
(明日から、グッチーのいない世界だ。グッチーは存在しないことになるから、小島さんも元気に出勤してるはずだよな。それに、グッチーに代わる上司も当然いるよな。どんな人だろう。良い人だったらいいのになぁ。でも、どんな人でも、絶対に今より会社がよくなってるよな。そうなってるとしたら、ぼくって凄いことをしてるんじゃないのかな?この力で、どんどん世界を変えてやるんだ!ぼくが、ぼくの思うままに、いらない人間を消していってやるんだ。楽しみで仕方ないよ)
明日、どんな世界が待っているのか、自分の思い描いた世界になっているのか…神野は期待で胸を膨らませながら眠りに落ちた…
時計が音を立てて進んでいく。
23:53…23:54……23:56………23:59……………
そして…時計の針がゆっくりと…午前0時を指した…
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機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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退会済ユーザのコメントです
ぽちさん
読んでくださりありがとうございます!!
少し長いですが、読んでくださると嬉しいです^ ^
僕もぽちさんの作品読ませていただきますね!!
退会済ユーザのコメントです
とらじろうさん
いつも感想ありがとうございます!!
とらじろうさんのような人気作家さんにそう言っていただけて嬉しいですTT
僕も関西の人間なので関西弁の方が書きやすいです^^
更新遅いですが、少しずつ更新していこうと思います!!
ありがとうございました<m(__)m>
退会済ユーザのコメントです
とらじろうさん
読んでくださりありがとうございます!!
そう言っていただけて、すごくうれしいですTT
ラストは決めてるのですが、そこにいくまでまだまだかかりそうです^^;
ペース遅いですが、頑張って更新します!!
とらじろうさんの小説、凄い人気ですね!!
男女が入れ替わる恋愛もの。僕には絶対に書けない。
読ませていただこうと思います!!
コメント、ありがとうございました!!