上 下
32 / 43
第一章

ぼくとくろさきのかんけい(5)

しおりを挟む
 いくつかの写真や動画――今回は動画の方が多いが――がユウキから送られて来た。
 エロ動画じゃないよ!などと先に一言があったものの、このニーナという子に関してはほとんどがエロ動画そのものだ。
 胸を隠して全身の接写。……ケモナーと呼ばれる人種がここにいたら、ものすごく興奮するのではないだろうか、というくらいの接写だ。
 気になるのは、ユウキの声であろう言葉は日本語で聞こえるのに、他の二人であろう声は明らかに日本語ではない別の言語で話されているように聞こえる。
 これも異世界で何かの補正が働いているのだろうか。ユウキは何事もないように会話しているようだが、黒崎には全然何を言っているのか理解できないのだ。何を言っているのかと思って見ていると、ニーナが恥ずかしそうに尻尾の付け根……まぁつまるところ尻を突き出しているので、あぁなるほど、これで揉めたのか、と苦笑した。
 確かに尻尾は人間にはない。作り物ではないことを示すのは大事なことだろう。
 そしてそのまま映像は腰のあたりを写す状態になり、尻尾が何もしていないのに動いている様子も撮られていた。
 さらに牙、耳と動画は続いていた。

 続いて送られて来たのは、ドワーフの子の方だ。確か名前はマリーだったか。
 髭の付け根と髪の付け根。それに耳だ。
 髪の方は、どうやら人間よりも髪の密度が高いという理由のようだが、正直黒崎にはその違いがわからないので、とりあえず見るだけにとどめておく。黒崎も髪は多い方……というか、中学や高校の頃からモジャとかマリモとか言われるくらいに髪があったので、あとでそれと比べてもらうつもりではある。
 そしてヒゲだが、こっちはこっちで髪と同じくらいの密度で生えているように見える。
 よほど作りこまなければここまでのものは作れないだろう、と思いながら、とりあえずこれも後で職員に見せよう、と再生を止めた。

 続いて、黒崎がリクエストしたブルーネーバの動画だ。
 なぜかブルーではない、白いネーバを何匹か倒す様子が写されているものと、肝心のブルーネーバの検証用動画が2つ送られて来た。

「……うわ、何だこりゃ」

 グロ注意、と書いてあるだけのことはある。
 ブルーネーバの核は、例えるならばカニの内部にある茶色いアレだ。ミソの方ではないアレだ。
 確かガニだったか、エラのようなものという認識があるが、名前はうろ覚えだ。
 それがうにょろうにょろと蠢いているのは、絵的に気持ち悪いものがある。それをナイフで突き刺し、死ぬまでの動きを捉えたシーンもあるのだ。
 確かにこれはグロだわ、と黒崎は苦笑しながら動画を止めた。



 一通り動画を見た後、職員は黒崎の頭を同じように携帯で動画を撮り始めた。
 やはり自分の頭はモジャなのか、と苦笑しつつ応じる黒崎だったが、まぁ検証のためだ。

「まずこのニーナという子の毛皮ですが、もうほとんど動物の毛皮ですね。疑う余地もありません」
 職員が動画を止めながら言う。
「この、毛皮と人間の境目の皮を見て下さい」
「……これがどうかしたのか」
「すごいですよ、このあたり。これが作り物だというのなら、僕は彼をハリウッドに推薦します」
 そこまでか、と黒崎は感嘆する。
「一度サンプルを取りたいところですね。毛の部分と髪の部分。それが同じDNAだったりしたら、もはや疑いようもないですが……そういうのは難しいんですか?」
 さすがに無理だろう、と思いつつも少し考える。
 そういえば、前に見たあのテレビの録画動画もそうだし、ユウキが自分で撮った動画もそうだが、ツールの中に落としたものは、一体どこに行ったのだろうか。
 もし可能性として黒崎が前に考えたように、異世界に――今ユウキがいる世界かどうかはわからないが――それらが行ってしまったというのであれば、逆もまた可能ではないのか。
 現にこちらの世界と電波がつながっているのであれば、今ユウキがツールで繋いでいる世界がこちらのものである可能性は非常に高い。
 だとするならば。

「可能かどうかはわからないが、とりあえず検討してみる」
「マジですか!?」

 可能性があるならば、提案してみる余地はあるだろう。


 次に職員が目を止めたのは、マリーと呼ばれる子のヒゲの動画だ。
 そこに差し掛かった時点で一度動画を一時停止し、さっき撮った黒崎の頭の動画との比較をする。
「これも、作り物だとしたらすごすぎますよ。染めた毛じゃなくて、天然でこの色をしているようにしか見えません」
 ユウキはさほど気にしていないようだが、マリーの毛は頭、ヒゲともにオレンジ色をしている。
 まず日本人ではあり得ない色だし、いくら赤毛だと言ってもこうまで見事なオレンジ色と言うことはあり得ない……というか黒崎が見たことがないだけではあるが。
 人間の髪の毛は、メラニンという色素の働きによるものが多い。
 このメラニンにはどうやら2種類の性質を持つものがあり、濃淡を司るものと、色を司るものとがある。
 黒ではない、という時点でこの髪のメラニンは、色を司るものの方が多いということになるのだが、この髪の色だと、そもそも濃淡を司る方がほとんどないということになってしまうのだ。
 もちろん脱色や染色でこの色に近付けることならできるだろうが、その場合、このくらいの子供の肌では、オレンジ程度で留まらず、色を司るメラニンまで破壊してしまうことが多いはずだという。もし仮にそれが実現できたとしても、ここまですべての髪の毛が一定で同じ色をしているとは考えにくく、一部だけ黄色かったり、逆に一部色が濃かったり、というようにまばらになることがほとんどだし、マリーの髪の太さやキューティクルの美しさから、染めたものであるとはそもそも考えにくい。さらにそれはヒゲにまで及び、ヒゲの毛根が髪と同じようにしっかりしていることからも、少なくともこれらの毛髪やヒゲは、生まれた時からこの色で生えている、というようにしか見えないというのが職員の本音らしい。

 さらに検証はグロ動画にまで及ぶ。
「坂を……登ってますね」
 言われて黒崎は気が付いた。追い立てられたネーバが、坂を登って動く様がしっかりと録画されているのだ。
「と思ったら今度は横に動いたな」
 ただの水袋にしか見えないが、水袋にこの動きは無理だろうし、だからと言ってこれのどこにそんな機構があるのかと言われたら、何も説明できない。
「こっちの白いものも、同じだということでしたね」
「らしいな。昼はこっちの方が多かったらしい」
 ふむ、と職員は動画を見ながら、「あれ、ちょっとこれ見て下さい」と一時停止を押した。

「ここです、ここ。もう一度再生しますね」
「……ん?白いやつ……あれ、だんだん青くなってねぇか」

 そう。
 指をさして職員が説明するネーバが、白から徐々に青に色を変え、透明になっていく姿がそこには映っていた。
 ユウキは女の子二人が近くのネーバを倒すのに夢中で気付いていないようだが、間違いなく色は変色し、透明になっている姿が映し出されている。

「……後で連絡してみる。気付いてなさそうだしな」
「了解しました」
「ついでに、毛と髪も頼んでみるさ」

 さらにユウキが異世界にいる可能性を深めた結果で、黒崎は施設を後にするのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

『購入無双』 復讐を誓う底辺冒険者は、やがてこの世界の邪悪なる王になる

チョーカ-
ファンタジー
 底辺冒険者であるジェル・クロウは、ダンジョンの奥地で仲間たちに置き去りにされた。  暗闇の中、意識も薄れていく最中に声が聞こえた。 『力が欲しいか? 欲しいなら供物を捧げよ』  ジェルは最後の力を振り絞り、懐から財布を投げ込みと 『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』  それは、いにしえの魔道具『自動販売機』  推すめされる商品は、伝説の武器やチート能力だった。  力を得た少年は復讐……そして、さらなる闇へ堕ちていく ※本作は一部 Midjourneyにより制作したイラストを挿絵として使用しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

処理中です...