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序章 プロローグ 始まり……。『ウィズ ファントム ハート』
エレベーター……。
しおりを挟む「そ、それにしても……」
「ん? なに……?」
出勤の用意の出来た俺は、忘れ物が無いか部屋の中を確認してから、薄ボンヤリとしたメイド服姿のアレなはずの彼女と一緒に、泊まっていたビジネスホテルの部屋の扉を閉める。
オートロックなのは知っているが、いちいち閉まっているのか確認しないと気が済まない俺。
何度もガチャガチャとドアノブが開かないことを確認するが……。
メイド服姿とは言え、動くたびに「たゆんたゆん」揺れるアレなはずの彼女のアノ部分が、どうにも気になって仕方がない。
俺は、チラリとアレなはずの彼女のアノ部分を横目に見てしまう。
「あ……。見た?」
「見てない……!!」
また、嘘をつく。
どうにも、正直に生きられない自分自身が、歯がゆい。
けれども、仕方ない。
大きな澄んだ瞳に整った顔立ち。
まるで、二次元のアニメから飛び出して来たような美少女系キャラそのままの出で立ちで。
俺好みなドストライクなアレなはずの彼女。
おまけに、今日は、ふたつくくりのツインテール。
朝の出勤前からメイド服姿で、アレなはずの彼女にアノ部分を「たゆんたゆん」揺らされるのは、正直ヤバい。
「今、変なこと想ったでしょ?」
「想ってない……!!」
「ウフフ。知ってるんだよ~。正直に、言ってみ? ご感想は?」
「えっ!? え、えーと……。お、おっきぃな……って」
「えー? 聴こえなーい?」
薄ボンヤリとしたアレなはずのメイド服姿の彼女が、わざとらしく耳に手をあてがい、俺に向かって「聴こえないポーズ」をしている。
「くっ! し、仕事行く!! い、行かなきゃ……」
「ちょ、待ってよー!!」
俺は、メイド服姿のアレなはずの彼女の「たゆんたゆん」揺れるアノ部分に、いちいち心揺さぶられながらも平常心を保とうとしていたが、言葉を発する度に「たゆんたゆん」揺らす彼女の無垢な笑顔とアノ部分に耐えきれなくなり、エレベーターへと足早に向かった。
(チーン……)
1階に降りるためにエレベーターのボタンを押すと、早々とエレベーターが、10階まで上がって来た。
振り返ると、アレなはずの彼女が、「たゆんたゆん」アノ部分を揺らしながら、小走りに俺のもとへと駆け寄ってくる。
けれど……。
そう……。
まるで、電気自動車みたいな無音。
アレなはずの彼女のアノ部分は、「たゆんたゆん」揺れるほどに目には見えても、足音はしない。
改めて考えると、やはり、背筋の凍る想いもする。
果たして、俺の目の前のアレなはずの彼女は、夢なのか幻なのか幻想なのか現実リアル……なのか?
エレベーターの行き先階表示ランプが、俺とアレなはずの彼女のいる10階に止まり、点滅する。
扉が開くと、中から清掃員のオバチャンが出て来て、俺の方にだけ視線を寄せて軽く会釈をする。
やはりというか、どうやら、アレなはずの彼女のことは、清掃員のオバチャンには、視みえていなかったようだ。
俺は、斜め後ろを振り返り、俺に追いついたはずのアレなはずの彼女をチラリと見る。
「えへへー。置いてかないでよ?」
「お、置いてかないよ……」
あぁ……。ダメだ。可愛い……。
彼女の笑顔。
アレなはずなのに、話す度に「たゆん」と揺れる胸もと。
いい加減、会社へと向かわなければならないのに。
まだ、エレベーターにさえ乗れていない。
くだらない現実思考に考えをめぐらせる俺は、あるひとつの素朴な疑問に辿り着く。
俺からは、彼女に、触れられない……?
彼女に気づかれないようにして、彼女の左手へと俺の右手を、そっと伸ばしてみる。
──触れられない。
やはり、俺からは、触れられないようだ。
ならば、あの時なぜ……?
「どうしたの? 手……? 握ってほしいの?」
「あ、いや、そうだね……。握ってほしい……かな」
「しょうがないなー。はい!」
「あ、ありがとう……」
ブーン……と。
なにか、電磁波のような振動が、俺の手のひらの上に感じられてから、彼女の手の温もりが伝わる。
アレなはずの彼女だが、昨日と同じで、体温のような温もりさえも感じる。
アレなはずなのに……。
こちらからは、彼女には触れられないが、彼女が意図するならば、どういう理屈か、お互いに触れ合うことが出来るみたいだ。
「なーに、ボーっとしてんの? 仕事だよ? あぁ……。そういうこと? ウフフ……。知りたいの?」
「え? あ、うん。し、知りたいかな。な、何で分かったの?」
「伝わるんだよ……。なんとなく。ま、おいおい話すよ」
「うん」
エレベーターの扉が閉まる。
(チーン……)
(下へ参ります……)
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