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序章 プロローグ 始まり……。『ウィズ ファントム ハート』

ホテル暮らし10日目の夜……。

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「なんか……調子悪いな」


 そう……。俺は、なんか……調子が悪い。
 
 最近、流行りのアノウイルスのせいで、会社からの指示を受けてホテル暮らし。
 泊まっているのは、わりと綺麗なビジネスホテルで、地上10階から見えるいつもの住み慣れた街の夜景は、地上で生活する昼間の景色とは違って見える。

 会社と住み慣れたいつものボロアパートの往復よりかはマシだが、それも最初の一日か二日間くらいまでのこと。
 別に夜も眠れないとか、特に際立って体がおかしいとか、そんな変わったことも無いのだが……。


「どうも……調子が悪い」


 この部屋に泊まりだしてから、なんか憂鬱だ。
 今日で、もう……十日間になる。


「それって、私……のせい?」


「え……!?」


 シングルベッドに寝そべりながら、聴き覚えのない女の声に耳を疑った。
 驚いた俺は、狭い部屋の周囲を全力で見渡した後、振り向き様に立ち上がろうとして、ベッドから足をすべらし……。
 床に横転した……。


「い、痛ぇ……。いてて……」


「うふふ……。可愛い……」


 見知らぬ女の顔が、俺の顔を覗き込んでいる。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

 
「静かにして……。こんな真夜中に、隣の部屋に迷惑よ……?」


「だ、誰だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!????????」


「仕方ないわね……」


 パニックになった俺の目の前で女はそう呟いて、白く見える肌のようなものを浴衣からチラリと覗かせる。
 胸のようにも見える二つの丸い輪郭から、女はさらに俺の顔を覗きこみ、顔を近づけて来る……。


 ────ピト。


 俺の視界が真っ暗になり────


 何か温かい柔らかなものが、俺の顔に押し当てられている。
 体温……?ぬくもり……?


「うふふ……。静かになった」


 柔らかな体温のようなぬくもりが俺の顔に触れられ、それと同時に何故だか分からないが、俺の気持ちがだんだん落ち着いて行くのが分かる……。


「さ、顔を上げて……」


 温かなぬくもりのある暗い視界の中、俺の耳もとで女の声がそう囁いたように聴こえた。
 ぬくもりのある視界が、だんだんと明るくなって行き、それと同時に少しずつ柔らかな体温のようなぬくもりが、俺の顔から離れてゆく。


 「どう……?落ち着いた?」


 俺は、床から上半身を起こし、そこで初めて落ち着いて女の顔を改めてよく見ることが出来た。
 女は白くて薄い浴衣のようなものを羽織っているだけ。
 
 季節は冬だが部屋の暖房は、よく効いているはずなので、寒くはないはずだが─────
 

 ─────どこから、入って来たのか?

 という疑問を心に抱きながらも、そんなことは忘れてしまうほどに、俺はマジマジと女の顔に見とれていた。


「か、可愛い……」


「やだ……。恥ずかしい」


 俺は、心の声を、思わず漏らしてしまった。
 
 黒くて大きな瞳。薄くて紅い口。整った顔立ち。女は、俺の目の前で、ちょこんと正座している。
 黒くて腰までありそうな長い髪の毛が、浴衣からチラリと覗かせる白い胸の谷間にかかっている。
 
 
「何? どこ見てんの?」


「えっ? いや、あの、ごめん……」


 俺の目の前で彼女が、さっ…と、白い胸の谷間を隠す。
 気まずいけれど、彼女の顔と目を見つめると同時に、どうやら見てしまっていたようだ。無意識に……。


「ま、いいわ。これから、よろしく……ね?」


「えっ? あ、うん……。よろ……しく、です」


 ドキドキしている俺とは対称的に、彼女は、ニコッと微笑んでいる。
 しかしながら、彼女も少しだけ顔を赤らめているようにも見える。
 彼女だって、ドキドキしているんだろうか……。

 だけど、彼女の姿が、薄ボンヤリと透けて見えるのは────

 ────やはり、そういうことなのだろうか……?







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