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41・最後の希望⑦
しおりを挟むウィジー王女はどう考えても大変に善良なのだ。
幾つまでか知らないが、平民として育った経験があるからなのだろう。思想が基本的に平民よりだ。
貴族としての矜持などをほとんど理解せず、視線そのものが常に平民のもの。
金銭感覚もそれに準じているようで、特に贅沢などを好んでいるわけでもないらしい。
貴族か大商人でもなければ入れないような敷居の高いレストランより、市場の屋台の方がなじみ深いらしく、当たり前に市井に降りることも躊躇わない。
それでいて最低限の礼儀は弁えていて、品のない振る舞いをするわけでもなく、周囲から窘められたら素直に従う姿勢を見せる。
かと思えば言いなりになっているわけではなく、疑問に思ったことや、納得できないことには理解できるまで確認や話し合いを繰り返した。
そしてその話す内容全てが大変に気づかいに満ちて、情け深いのである。
周囲に非常に同情的でかわいそうだと気の毒だと、自分が助けられるのなら助けなければと、そういう前提で動くが、それだけに固執したり、盲目になったりもしない。割り切ることも出来なくはない。
決断力がある部分もあり、彼女を近くで見ていた感想としては、概ね問題がないというのが、リジーの見解だった。
スペリアに対しても、好意を抱いているようなのは確かなのに、執拗に付きまとうわけでも、リジーへの異常な執着を咎めるわけでもなく、自分はそのような注意をする立場にはないと控える。
反面、リジーに苦言を呈するかと思えば、それもなく、むしろ同情的な姿勢を見せ、そういった気遣いの上手さだけでも非常に付き合いやすい人物だと言えた。
だからリジーは余計に思うのだ。もったいないと。
なぜ、ウィジー王女はスペリアに好意を寄せてしまっているのか。
ウィジー王女に瑕疵がないだけに残念でならず、だからこそ彼女の恋をかなえてやりたいと思った。
勿論、自身がスペリアから逃れたいという要望があることは否めない。
だけどそればかりではなく、ウィジー王女には幸せになってもらいたいと思ったのだ。……――実際にスペリアと結ばれたとして、幸せになれるのかはともかくとして。
一応、
「ところで、あれ、スペリア様の求愛行動なんだけど、もしあの対象が自分だとしたら貴方は平気なのかしら?」
確認してみれば、可愛らしく頬を赤く染め、
「あの、もし、あの対象がわたくしだったとしたら……その、わたくしは……」
その反応で分かった。ああ、あれ、嬉しいって思うんだな、と。
だからリジーは余計に、やっぱりスペリアと上手く行って欲しいとつくづく思うようになったのだった。
あれを許容できるのならお似合いではないか、と。
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