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40・最後の希望⑥
しおりを挟むウィジー王女は、リジーに本当によく似ている。それはもう、本当に。
自分でも鏡を見ているのかと思うぐらいだ。初めて見た時には、スペリアも驚いていた。いや、驚いていた、はずだ。
スペリアはリジーに好意を寄せてくれている。
それは十二分に鬱陶しいぐらい、リジーもわかっていた。かと言ってその好意に応えられるのかと言われれば……それはまた、別の話。
なにせスペリアの行動は気持ち悪いばかりなのである。
自分に近づいて来ないくせに、だけど視線がずっと離れないままだなんて。そんなの、当たり前に気持ち悪いと思うのだ。
見るなと言いたいし、実際に言っている。だが、スペリアは変わらない。
初めて会った幼い時から、ずっと。ずーっとだ。大変に気持ちの悪い話だった。
スペリアはものすごく頻繁にリジーの容姿を褒める。
「ああ、かわいいよ、リジー、素敵だっ!」
「リジーのオレンジ色の髪は、まるで太陽のように輝いているね」
「赤い瞳に吸い込まれそうだ。ああ、あの瞳に僕が映ったりなんかしたら……!」
「リジーほどキレイな顔の存在なんて、僕は見たことがない」
などなど、などなど、などなど。例に挙げるときりがないが、一事が万事その調子で、ほとんど毎日のようにそのような賛辞が、リジーの上へとそれなりに離れた遠い、だけど声が聞こえる程度には近い所から絶え間なく降り注いでくるのである。
スペリアがリジーの容姿を気に入っていることに間違いはなかった。
なら、同じ顔しているのだし、ウィジー王女でもいいだろうとリジーは思う。
加えて、リジーは自分の性格が決していいと言えるものではない自覚があった。
それは確かに、誰かに理不尽なことを言ったり、誰かを不用意に貶めたり、そんなことはしたことがない。だけど、公爵家に生まれた令嬢として、当たり前のように我が儘だし、だいたい全部、自分の思うとおりになると思っているし、それになにより、身分の違う者のことなんて、理解したいとも思わないぐらいの傲慢さを持っていた。
と、いうか、自分以外の誰かのことなんて、そもそも理解など出来るはずがないと思う。違う存在なのだ、違いは違いとして尊重すべきだろう。
リジーは貴族だ。決して平民にはなれない。だが、貴族である以上の責任と立ち居振る舞いというのが存在していることぐらいは認識していた。
だけど別にお人好しではないので、目の前で誰かが自業自得な行為で落ちぶれていくのを見ても何とも思わないし、助けようとも思わない。
手を差し出すことそのものに躊躇いはなくても、手を差し出す状況と相手は勿論選ぶ。
そんな当たり前にいいと言い切ってしまえない程度の性格をしているのである。
その辺り、ウィジー王女とは大違いだった。
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