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31・パターン5、近衛騎士⑥
しおりを挟む「あの人、防御魔法の掛け直し、自分がしたいって言ったんですって」
あの人、つまり騎士のことだ。なるほど、それで失敗してあれ。
多分、何でもいい、スペリアの役に立ちたかったんだろう。
だが、防御魔法は種類にもよるが、そもそもそこまで難しいものではない。なにせ魔力量の少ない平民だって使える魔法だ。
近頃はいつ何時でも、なんとも言えない態度ばかり目にしているが、それでも彼は腐っても学園の卒業後すぐ、近衛騎士か何かに採用が見込まれているほどの騎士のはず。
おまけに貴族であるのだから、たかだか防御魔法ぐらいで失敗するとは考えられない。
「で、スペリア様から、防御魔法をかけ直すために魔道具を受け取ろうとして……」
え、まさかの防御魔法をかけることそのものの失敗ではなく、その手前での失敗だったのか。
「なんか、スペリア様と手が触れちゃったらしくて、それで思わず手を引っ込めてしまって、そうしたら、魔道具は落ちますよね。流石のスペリア様もそれを防ぐのは難しかったはずです。そもそも魔道具は防御魔法が切れかけてたので、そこまでの強度なんてなかった」
だが、それでも床に落ちた、それぐらいであれほどバラバラになるとは思えない。
リジーの疑問は、続けられたヴィテアの話ですぐに解消された。
「床に落ちたぐらいじゃ、ああはなりませんけど、テンパったあの人、そこに魔力を当てちゃったみたいですね、多分、落ちるのを防ごうとして間違ったんじゃないでしょうか」
リジーは沈黙した。というより、何も言えなかったし、真顔になった。
バカじゃなかろうか。
思ったのはそれだけだ。
あの騎士、ドジっ子属性でもあったのか。それなりに優秀なはずなのに? それとも相手がスペリアだから? 惚れた相手を前に緊張していたとか?
いくらでも理由は思い浮かんだけれど、どれもこれも、あんなスペリアの怒りを宥められるものだとも思えず。
そもそも、スペリアはあの騎士に苛立つことが増えてきていたようだから、こんなことがなくても時間の問題ではあったかもしれないけれど、これはきっと良くないだろうなとリジーは思った。
なにせ壊れているのは魔道具。
おそらく、リジーの記録を保存していたはずのものだ。
幸いと言うべきか否か、どうも記憶媒体となる魔石は近くに転がってはいるようだけれど、壊れてはいなさそうだからそちらを確認すれば、直前まで録画していたものは再生可能かもしれない。
だが、それはやっぱりスペリアの慰めにはならないだろう。
それにしても。
「貴方、よくあの一瞬で、そこまで情報を集められたわね」
先程のヴィテアの説明は、まるで見てきたかのようだった。
「あれ? 言ってませんでしたっけ、私、過去視できるんですよね~。とは言っても、数秒、長くて数分程度ですし、必然的にとっても近くで何か起こった時、直前のことがわかるって程度なんですけど。だから、さっきみたいなのだったら、ちょちょっと」
さっき一瞬いなくなっていたのは、見えそうな位置まで移動していただけらしい。否、それに加えて話していたやり取りそのものは周囲にいた人に聞いたのかもしれない。
過去視。この子そんなの出来たのか。
初めて知ったリジーは驚いて、まじまじとヴィテアを見つめてしまった。
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