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30・パターン5、近衛騎士⑤
しおりを挟むスペリアは寛容だ。ただしそれには王族にしては、という注釈が付く。
つまり、如何に寛容と吐いて、限度があるということ。
そして彼の騎士はとうとう、その限度を超えてしまったようだった。
いや、あれはスペリアの地雷だっただけかもしれない。
「君、いい加減にしてくれないか」
初めて聞く、氷のように冷え切ったスペリアの声に、リジーは思わず振り返った。
相変わらず騎士は床に這いつくばって、頭を擦り付けている。
「申し訳ございませんでしたっ!」
大変勢いの良い騎士の謝罪。
いったい何があったのか。
その応えはすぐに分かった。
平伏する騎士の手の先に、どうやら壊れてしまったらしい魔道具があったのである。
いつもスペリアが手に持っている物で、今は真っ二つになって、辺りには中に組み込まれていたのだろう、細かいパーツが散らばっていた。
あれ、確かそこそこ高価だし、そんなにすぐに壊れるような作りなんてしていなかったはず。
そもそもあのスペリアのことだから、リジーを撮るための魔道具に防御魔法ぐらいかけていそうなものだと思うのだけれど。
少しだけ興味を引かれたリジーがじっとそちらを見ている間に、どうやら周りに聞き込みをしてきたらしいヴィテアがそっと寄ってきて、リジーの耳元でぽそぽそと話し始めた。
いつもと違って、少し声が潜められているのはおそらく、あまりに冷たいスペリアの気配に恐怖したためなのだろう。
リジーにもわかる、この空気、とても壊せない。
証拠に辺りはしんと静まり返って、いつもなら騒がしいぐらいの生徒のざわめきさえ遠い。
「どうやらあれ、いつものほら、お手伝いしますの結果みたいですよ」
ああ、いつもの。いつも何かしらの用事を強請っているあれ。
でも、それでどうしてあんな風に壊れることになんてなるのか。
リジーの疑問は言わずとも伝わったらしい。
「防御魔法って、種類とか強度とかにもよりますけど、掛け直しが要ったりもするじゃないですか」
あ、なるほど、話が読めてきた。
それだけでわかることがあった。
魔法と名がついているものは結界だろうと防御だろうと、どんなものにも耐久年数のようなものがある。なぜか。それらの多くが魔力量に依存するからだ。勿論、魔石を利用した補充式のようなものもあるけれども、スペリア自身、防御魔法が使えるし、決して苦手だとか言うわけでもなかったはず。なら、防御魔法をかけていたのはスペリアだろうし、個人のかけた魔法は、時間が経って、魔法を維持する為の魔力が全て消費されると当然ながら効果を失くした。
そこを永続的に、なんて話になると、それは流石に非常に高度な魔法やら魔術やらが求められて、少なくともリジーやスペリアの手に負えるものではなくなってくる。
ちなみに魔石での補充を、ヴィテアは、
「まるで電池みたいですね」
と言っていたから、イメージとしてはそう言うものに近いらしい。電池、とは彼女の前世での知識なのだそうだ。
とにかく、スペリアの持っている魔道具は、定期的な防御魔法の掛け直しが必要だったのだろうと予想できた。
きっと、その掛け直しのタイミングで何かが起こったのだろう。
それ以外だとむしろ壊れるだなんて考えられないので。
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