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28・パターン5、近衛騎士③
しおりを挟むしかし、流石に騎士だけあって、これまでの平民の女の子やら他国の公女やらはたまたスペリアの従兄弟やらと違い、直接リジーに何かを言ってくるなどということはなかった。
なんでも聞く所によるとあの騎士は、子爵家の三男なのだそうだ。
家督を継ぐ可能性は大変に低く、しかし蔑ろにされるような立場にもない三男。
ちなみにそんな情報をリジーに教えてくれたのはヴィテアだったりする。
彼女は情報収集が好きだし得意なのである。
「子爵家の三男って言うのは、王子の傍に侍るのに、まぁ、無くはない身分ですよね!」
などとにっこり笑って言われて、リジーはそういうものなのだろうかと首を傾げた。
「そうなの?」
心のままを口にするリジーにヴィテアは興奮して、
「そうですよ! リジーはそもそもあんまり身分だとかを気にしたりなさいませんけど、普通貴族ってのはそういうのを重要視するものなんです!」
などと、そもそも貴族ですらないヴィテアが力説する。何を根拠とした発言なのか。さっぱりわからない。
たじろぎながら頷くリジーに、ヴィテアは更に続けた。
「で、あの方は子爵家の三男って言う中途半端な立場で、近衛騎士として考えると妥当な感じですね。実際、騎士団とかだとそれぐらいの人が多いんじゃないですか? 最低限騎士としての意識ぐらいはあるみたいでよかったですよね! スペリア様へも過度な接触は出来てないみたいですし、今までの人たちみたいに、リジーに変なこと言ってきたりしてませんし! ま、当たり前のことなんですけど!」
なお、ヴィテアは声を潜めたりなど全くしていないので、当然いつも通り廊下にいるスペリアにも筒抜けだっただろうし、なんなら今現在もスペリアの傍に控えている件の騎士本人にも丸聞こえだった。
これでは陰口にさえなり得ない。噂話以下である。
正直にもほどがあるだろう。自分の周りにはこういう明け透けな人間しかいないのだろうかとリジーは首を傾げた。
そういうリジー本人だって、何かを隠したりだとかいうのはすこぶる苦手なのだけれど。
「あはは。ヴィテア嬢とお話ししてるリジーは本当に可愛いなぁ!」
スペリアもやっぱり相変わらずで、
「スペリア様……」
思いつめたように、だけど陶然とスペリアの名を呟き、うっとり見惚れる騎士の姿も最近では見慣れてきた物だった。
ちょっとしたカオスでしかない光景なのだが、クラスメイト達だって誰一人そんなこと全く気にしていない。
つまりこれが日常なのである。
それが崩れたのは、それから更にしばらくが経ってからのことだった。
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