29 / 43
28・パターン5、近衛騎士③
しおりを挟むしかし、流石に騎士だけあって、これまでの平民の女の子やら他国の公女やらはたまたスペリアの従兄弟やらと違い、直接リジーに何かを言ってくるなどということはなかった。
なんでも聞く所によるとあの騎士は、子爵家の三男なのだそうだ。
家督を継ぐ可能性は大変に低く、しかし蔑ろにされるような立場にもない三男。
ちなみにそんな情報をリジーに教えてくれたのはヴィテアだったりする。
彼女は情報収集が好きだし得意なのである。
「子爵家の三男って言うのは、王子の傍に侍るのに、まぁ、無くはない身分ですよね!」
などとにっこり笑って言われて、リジーはそういうものなのだろうかと首を傾げた。
「そうなの?」
心のままを口にするリジーにヴィテアは興奮して、
「そうですよ! リジーはそもそもあんまり身分だとかを気にしたりなさいませんけど、普通貴族ってのはそういうのを重要視するものなんです!」
などと、そもそも貴族ですらないヴィテアが力説する。何を根拠とした発言なのか。さっぱりわからない。
たじろぎながら頷くリジーに、ヴィテアは更に続けた。
「で、あの方は子爵家の三男って言う中途半端な立場で、近衛騎士として考えると妥当な感じですね。実際、騎士団とかだとそれぐらいの人が多いんじゃないですか? 最低限騎士としての意識ぐらいはあるみたいでよかったですよね! スペリア様へも過度な接触は出来てないみたいですし、今までの人たちみたいに、リジーに変なこと言ってきたりしてませんし! ま、当たり前のことなんですけど!」
なお、ヴィテアは声を潜めたりなど全くしていないので、当然いつも通り廊下にいるスペリアにも筒抜けだっただろうし、なんなら今現在もスペリアの傍に控えている件の騎士本人にも丸聞こえだった。
これでは陰口にさえなり得ない。噂話以下である。
正直にもほどがあるだろう。自分の周りにはこういう明け透けな人間しかいないのだろうかとリジーは首を傾げた。
そういうリジー本人だって、何かを隠したりだとかいうのはすこぶる苦手なのだけれど。
「あはは。ヴィテア嬢とお話ししてるリジーは本当に可愛いなぁ!」
スペリアもやっぱり相変わらずで、
「スペリア様……」
思いつめたように、だけど陶然とスペリアの名を呟き、うっとり見惚れる騎士の姿も最近では見慣れてきた物だった。
ちょっとしたカオスでしかない光景なのだが、クラスメイト達だって誰一人そんなこと全く気にしていない。
つまりこれが日常なのである。
それが崩れたのは、それから更にしばらくが経ってからのことだった。
2
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる