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24・パターン4、仲のいい従兄弟⑤
しおりを挟む「スペリア! 君はどうかしている! 正気に戻れ!」
翌日から従兄弟は本当にスペリアをどうにかしようと働きかけ始めたようだった。
物凄く同意だ。スペリアは本当にどうかしているし、可能ならとっとと正気に戻って欲しい。
朝っぱらから聞こえてきた従兄弟の語気荒い口調に、内心で激しく同意しながら、リジーは思わずそちらへと視線を向けてしまった。
リジーの隣にいたヴィテアも何事かと驚いて声の方へ顔ごと振り返っている。
廊下である。
何故ならスペリアはいつも通り、隠れてもいないのに隠れているような仕草でそこから教室をのぞき込んでいたからだった。
手には相変わらず映像や画像が保存できる魔道具。
なお、従兄弟はスペリアの両肩を掴んで、自分の方を向くようにと迫っているようなのだが、スペリアの視線はリジーへと注がれたまま。つまりいつも通りで。
自分に話しかけてきている相手に、あれは流石に失礼すぎるのでは? などとリジーが思った通り、従兄弟は更に激昂して、
「スペリア! こっちを見ろ!」
などとスペリアに迫った。しかしもちろん、スペリアが従兄弟の方へと向き直ることなどない。
「邪魔をしないでくれないか。僕は今忙しいんだ。君の相手なら王宮に戻ってから存分にしてあげるよ」
おや? と、リジーは意外に思う。珍しい。流石は従兄弟だというだけある、相手をするつもりはあるのだなと。だが。
「そうは言うけれど昨日も一昨日も忙しいと言って時間を取ってくれなかったじゃないか!」
なんだ、結局相手をしていないのかと拍子抜けした。
次いで、それはそうだろうなとも思い直す。
そもそも、昨日や一昨日に話が出来ていれば、こんな風に学校に来てまであんな話しかけ方などするはずがない。
スペリアは従兄弟のことになど、やはり微塵も構うつもりがないようだった。
「仕方がないだろう、僕はこう見えて忙しいだ。今日こそ時間を作るから、今は邪魔をしないでくれ」
スペリアが、本当に忙しいことをリジーは知っていた。なにせスペリアはリジーを追いかけまわすためにも、他の何事にも手を抜かず、しなければならないとされていることは、全て、リジーを追いかけまわす以外の時間でこなしているのだそうだ。
このアンセニース大王国、唯一の王子にして王太子。勉強という意味においても忙しいだろうし、すでに公務の一部も請け負っているとも聞く。
余暇と言えるものは全てリジーへと費やし、それ以外の余裕など、流石に欠片も持てていないのではないかとしか思えなかった。
なお、スペリアがリジーを追いかけまわすのは、リジーが家の外に出ている時に限られるので、つまりリジーが帰宅して以降、王宮に帰ってからがスペリアの仕事の時間に当たる。
その仕事の時間の中に、従兄弟と話し合う場を設けると言っているわけである。
無茶をするなぁとリジーは思った。
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