24 / 43
23・パターン4、仲のいい従兄弟④
しおりを挟むそんなスペリアの様子に従兄弟は途端きゅっと眉根を寄せた。
そして何故か、そんなスペリアへの注意を、リジーへと促してきたのである。
「リヒディル公爵令嬢。あれは一体どういうことだ! どうして悪化しているんだ! あれほど言ったのに、君はスペリアへの態度を改めなかったのか?!」
どういうことかと言われても。なぜこの従兄弟は、まるでリジーが悪いかのような言い方をするのだろうかとリジーは不思議でならなかった。
リジーは告げる。別にこのスペリアの従兄弟と争いたいわけではない。
「私もいろいろと試みてはみたのですが……」
どれもこれも上手くはいかなかった。
そんなリジーの言葉にも、従兄弟の険しい顔は崩れず、剰え、
「君はスペリアの婚約者だろう?! 何よりスペリアのあの行動の理由は君だ! 君以外に、どうしてスペリアを何とか出来るというんだ!」
え、そんな無茶な。
リジーの正直な感想である。
そんなに言うのなら、この従兄弟にこそ何とかしてほしかった。なにせこの男は立派にスペリアの従兄弟なのだから。
いくら家が他国にあるからとはいえ、そもそもリジーとスペリアが出会う前からの仲だというではないか。
基本的に争いを好まず、大抵の言葉なら相手にすらしないリジーは、しかしこの時ばかりは不機嫌を隠さずに言い返すことにした。
「そうはおっしゃいましても、私なりに色々試しては来てるんです。そんなに言うのなら、貴方の方こそどうにかなさったらいかがです? 貴方はスペリアの従兄弟でらっしゃるのですから」
まさかリジーが言い返すとは思ってもみなかったのか、従兄弟は一瞬、言葉に詰まったようだった。
確かに思い返してみると、リジーはこの従兄弟と接する時、無駄に争うことがないようにと、言い返すことなどほとんどしなかった。
逆に言い返すほど重要な意見だともとらえていなかったのだけれども、それはともかく。だから多分今も、この従兄弟はリジーが諾々と頷くだけだと思っていたはずだ。
いったいこの男の中のリジーはどうなっているのだろうか。
そもそもリジーは決して言われっぱなしを許すようなおとなしい人物でなどないのだけれども。ただ単に面倒くささが勝って、聞き流すことが多いだけで。
男が言葉を出せなかったのはほんの一瞬で、次には男の顔は嫌悪と侮蔑に塗れていて。スペリアに似た整った顔が台無しだった。
「言い訳はいい。結局、君はスペリアをどうするつもりもないということだな? もう結構だ。俺が何とかする」
そう吐き捨てるように言い放って、そのままリジーへと背を向けはじめる。
いや、だから初めから自分で何とかしてくれという話だったのだが。と、リジーは思いながら、肩を怒らせて足音高く去っていく男の背中を、ぼんやりと見送ることになったのだった。
2
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる