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17・パターン3、他国の公女⑤
しおりを挟むリジーはどうしたものかとしばらく考えて、とりあえずと親切に忠告してみることにした。
「あの……公女様? それぐらいになさった方がよろしいかと存じますよ?」
とりあえずものすごく控えめに。
だってこの公女はスペリアが好きなはずなのだ。だが、現状ですでに彼女はスペリアの地雷を踏み抜きまくっている。
このまま暴走されるのは、可愛そうにも思えてきて。いや、何処まで暴走するのか見るのも逆に楽しそうではあるのだけれど。
しかし公女は、リジーの発する言葉であれば、どんなものであっても腹立たしく思うらしかった。
「なんですの? どれをそれぐらいにしろとおっしゃるの? 偉そうに!」
上から目線だと今度は怒っている。リジーにそんなつもりはなかった。本当にただの親切心で、そろそろ口を閉じた方がいいのではないかと言って見ただけだ。
「お話しになりませんわねっ! これだから下賤の者は……」
リジーは公爵令嬢だ。公爵令嬢は間違っても下賤などという言葉に当てはまらないと思うのだけれど、この公女の頭の中はどうなっているのかとリジーはとても不思議だった。
ちなみに公女の発言は腹が立つだとかいう次元を超えていて、リジーはもはや逆に面白くなってきている。
予想もつかない公女の言葉は、次になんと言われるのかと楽しみな部分さえあった。
多分こんなことをヴィテアに知られると、溜め息を吐かれると思う。
スペリアはリジーなら何でもいい男なので論外だ。
そしてその論外な男は、リジーよりよほどリジーのことに関しては心が狭かった。心が狭いというか、不寛容と言えばいいのか。
この公女にこのままリジーを罵らせたままでなど、いるはずがないのである。
「うーん、リジーが楽しくなり始めてるみたいだから、もう少しこのまま聞いててもいいんだけど、そろそろ僕が無理っぽい!」
などという声が聞こえてきたかと思うと、珍しくスペリアがてこてことこちらへと歩み寄ってきた。手には魔道具を掲げたままだったが。
「さっきから聞いていたけど、随分な言い草だね?」
にっこりと満面の笑みを湛えて、スペリアはにこやかに公女へと話しかけた。
それはリジーの目には、うさんくさくしか映らない笑顔だった。
しかし当然、公女にとってはうっとりするほど恋焦がれた相手の笑みである。
と、言うより、もしやこの公女、始めてスペリアから話しかけられたのではあるまいか。少なくとも、公女の様子は、そうとしか思えないほど浮かれたものだった。
「スペリア様っ……! お恥ずかしいですわ。わたくし、この恥知らずに少しお説教しておりましたのよ?」
笑顔のままのスペリアのこめかみに、青筋が浮かぶのが見えた気がした。
あーあと、リジーは正直、とっても残念に思った。この公女、とっても面白かったのに、と。
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