10 / 43
9・パターン1、生徒会長
しおりを挟むとは言え、さて、では誰をスペリアに差し向ければいいのか。
いや、違った、差し向けるのではなかった、リジーが何もせずとも向こうからくるものを拒まず背中を押すだけでいいのだった。
なにせ、今までだって、やれ平民の少女だ、他国の貴族だ、大きな商会の子供だと、何人もがスペリアに近づこうとした。ことごとく失敗していたけれど。
乙女ゲームとやらのセオリーに則ると‥…なんだっただろうか。
元平民で最近になって、貴族に引き取られた少女、だっただろうか。
そんな存在早々……いた。
あれは確か、学園に入って、まだそこまで経っていない頃。
1年か2年か……だから、13か14だった気がする。ああ、そうだ、一つ年下だったはずだから14の時だ。
スペリアは多分に漏れず、生徒会の会長、などには間違ってもなっていない。話が来ていたのは知っている。だってリジーも声が聞こえる程度には近くにいたし。相変わらずリジーは教室内にいて、スペリアはなぜか廊下にいたけれど。
「スペリア王太子殿下! ぜひ、伝統ある我が学園が誇る生徒会の代表に……」
とか何とかいう、リジーたちの入学式でも壇上に立っていた当時の生徒会長が頼みに来ていたのだけれど、スペリアの返事には容赦がなかった。
「ははは、無理かなぁ! ほら、僕は見ての通り、リジーの素晴らしい姿を残すのに忙しいからね! ああ、リジー! 今日の横顔も素敵だ!」
「殿下! そんなことよりも、生徒会に携わる名誉の方を、」
はっきりきっぱり断るスペリアに、会長が食い下がっている。だが、会長の言葉を聞いて、リジーは、あ、と思った。案の定、
「そんなこと?」
繰り返したスペリアの声の温度が、絶対零度もかくやというほどに凍り付いていて。
「で、でん、か……?」
生徒会長は、一応、スペリアの声音の変化ぐらいなら理解できる程度の察しの良さを持っていたらしい。
何か、信じられない声を聴いたとばかり、怯えを含んでスペリアを呼ぶ生徒会長の声は憐れなほど震えていたが、いくら可哀そうだなぁと思ってもリジーに出来ることなんて何もない。
あーあ、と、残念に思う程度だ。
むしろ、あの生徒会長はバカなのだろうかとさえ思った。あの調子のスペリアにあんなことを言って、どうして自分の意見を聞いてもらえると思ったのだろう。否、スペリアの言葉があまりに浮ついていたせいでよく理解できていなかったのだろうか。
生徒会とか、ぜひ入ってくれてよかったのに。むしろ頑張って入れて欲しかった。そうしたらきっと少しでも、リジーを追いかけ回す時間が減ったはず。
話の持って行き方だとかで、もっとこう、なんというか、上手く……は、無理かな! うん、無理な気もする。
どんなふうに説得しようとしても、きっとスペリアは頷かない。当たり前過ぎる話だった。
ともあれ、哀れ生徒会長は。
「君はリジーの素晴らしさを理解していないのかい? あの天使のごとき美しさが目に入らないと? ああ、いや、彼女の可愛らしさは僕だけが知っていればよかった、僕としたことが。だが、正しいことが何も見えないような目なんかいらないんじゃないかな、少なくとも彼女と同じ学び舎にいる資格などないと思うよ」
だとかなんだとかいう恐ろしい言葉を浴びせかけられたかと思うと、
「で、でん、か……? いや、あの、待ってください、私はただっ……ぁっ、殿下ぁ……!」
どう聞いても焦ってるとしか思えない声が、だんだんと遠ざかってしまいには聞こえなくなってしまったけれど、あれがいったい何だったのか、そちらへ視線を向けていなかったリジーは知るはずがないし、知ろうとも思わなかった。
ただ、それ以降、学内で一度もあの生徒会長だった男を見ることがなくなったな、というのは紛れもない事実だ。多分きっと学園内にもいないのだろうと思う。
よくはわからないけれども。
2
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる