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9・パターン1、生徒会長
しおりを挟むとは言え、さて、では誰をスペリアに差し向ければいいのか。
いや、違った、差し向けるのではなかった、リジーが何もせずとも向こうからくるものを拒まず背中を押すだけでいいのだった。
なにせ、今までだって、やれ平民の少女だ、他国の貴族だ、大きな商会の子供だと、何人もがスペリアに近づこうとした。ことごとく失敗していたけれど。
乙女ゲームとやらのセオリーに則ると‥…なんだっただろうか。
元平民で最近になって、貴族に引き取られた少女、だっただろうか。
そんな存在早々……いた。
あれは確か、学園に入って、まだそこまで経っていない頃。
1年か2年か……だから、13か14だった気がする。ああ、そうだ、一つ年下だったはずだから14の時だ。
スペリアは多分に漏れず、生徒会の会長、などには間違ってもなっていない。話が来ていたのは知っている。だってリジーも声が聞こえる程度には近くにいたし。相変わらずリジーは教室内にいて、スペリアはなぜか廊下にいたけれど。
「スペリア王太子殿下! ぜひ、伝統ある我が学園が誇る生徒会の代表に……」
とか何とかいう、リジーたちの入学式でも壇上に立っていた当時の生徒会長が頼みに来ていたのだけれど、スペリアの返事には容赦がなかった。
「ははは、無理かなぁ! ほら、僕は見ての通り、リジーの素晴らしい姿を残すのに忙しいからね! ああ、リジー! 今日の横顔も素敵だ!」
「殿下! そんなことよりも、生徒会に携わる名誉の方を、」
はっきりきっぱり断るスペリアに、会長が食い下がっている。だが、会長の言葉を聞いて、リジーは、あ、と思った。案の定、
「そんなこと?」
繰り返したスペリアの声の温度が、絶対零度もかくやというほどに凍り付いていて。
「で、でん、か……?」
生徒会長は、一応、スペリアの声音の変化ぐらいなら理解できる程度の察しの良さを持っていたらしい。
何か、信じられない声を聴いたとばかり、怯えを含んでスペリアを呼ぶ生徒会長の声は憐れなほど震えていたが、いくら可哀そうだなぁと思ってもリジーに出来ることなんて何もない。
あーあ、と、残念に思う程度だ。
むしろ、あの生徒会長はバカなのだろうかとさえ思った。あの調子のスペリアにあんなことを言って、どうして自分の意見を聞いてもらえると思ったのだろう。否、スペリアの言葉があまりに浮ついていたせいでよく理解できていなかったのだろうか。
生徒会とか、ぜひ入ってくれてよかったのに。むしろ頑張って入れて欲しかった。そうしたらきっと少しでも、リジーを追いかけ回す時間が減ったはず。
話の持って行き方だとかで、もっとこう、なんというか、上手く……は、無理かな! うん、無理な気もする。
どんなふうに説得しようとしても、きっとスペリアは頷かない。当たり前過ぎる話だった。
ともあれ、哀れ生徒会長は。
「君はリジーの素晴らしさを理解していないのかい? あの天使のごとき美しさが目に入らないと? ああ、いや、彼女の可愛らしさは僕だけが知っていればよかった、僕としたことが。だが、正しいことが何も見えないような目なんかいらないんじゃないかな、少なくとも彼女と同じ学び舎にいる資格などないと思うよ」
だとかなんだとかいう恐ろしい言葉を浴びせかけられたかと思うと、
「で、でん、か……? いや、あの、待ってください、私はただっ……ぁっ、殿下ぁ……!」
どう聞いても焦ってるとしか思えない声が、だんだんと遠ざかってしまいには聞こえなくなってしまったけれど、あれがいったい何だったのか、そちらへ視線を向けていなかったリジーは知るはずがないし、知ろうとも思わなかった。
ただ、それ以降、学内で一度もあの生徒会長だった男を見ることがなくなったな、というのは紛れもない事実だ。多分きっと学園内にもいないのだろうと思う。
よくはわからないけれども。
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