9 / 43
8・害意のないストーカー
しおりを挟む「なんていうか……害意のないストーカーってやつですよね」
もしくは行儀のいいストーカーって言えばいいのか……などとスペリアを称したのは、13で学園に入学した時から仲良くしている平民ヴィテアだった。
彼女曰く、前世の世界での言葉であるらしい。なんでも、そもそも忍び寄るというような単語から派生した言葉で、なるほど、確かに忍ぼうとしてはいるな、とリジーは納得した。忍べているかどうかはともかくとして。あと、いつも周りに張り付いてはいるけれども、ある一定の距離から先へは寄っては来ない。
ただ、何処までも眺めているばかりなのである。
実害がないと言えばなかった。心底気持ち悪くはあったが、無視できる程度でしかなく。だからいつもリジーは無視するに至っている。
ヴィテアの名は、正しくはヴィリテア・セヌエレという。
濃いピンク色の髪と、リジーと同じ赤い目をした、可愛らしい同じ年の少女。実家は商家で、平民の中では裕福な部類になるらしく、それもあって貴族も多いこの学園に入学してきたのだとか。
そして、前世をたまに夢で見るという彼女が、今日新たにもたらした前世の話が、リジーが悪役令嬢であるという者だった。
即行でヴィテアにもスペリアにも否定されたが。
過去、自分はお人好しだったのだなと痛感したことのあるリジーに悪役は無理があるような気は自分でもしていたけれども。
それはそれとして、しかしリジーは考えてみる。
明確に誰かを傷つけるだとかいうことは、自分には出来そうもない。
だがしかし、誰かの希望に沿うように動く、というのならどうだろうか。出来るのではないだろうか。
幸いにして、スペリアはスペックだけは高く、吸引力が凄まじい。今までを見ていてもそう。きっと相手には困らないはず。
リジーは別にスペリアのことが嫌いなわけではない。
ただ、なんと言えばいいのか、折に触れ、気持ち悪いなと思わずにはいられないだけだ。
あの、過剰な行動さえどうにかなれば。
せめてもう少し近くで触れ合おうとして欲しい。基本があの姿勢なのはもういいから、せめて。
現状のままでは、今まで誰も何も変えられなかった。変化を求めるなら、他の誰かの影響が必要だと思った。
他にヒロインがいるだとか、悪役令嬢だとか、それはとてもいい話ではないだろうか。
「ヴィテア。私、決めたわ」
心の中でひとつ決めて頷く。
「何をです?」
首を傾げるヴィテアを真っ直ぐに見た。
あまりに真っ直ぐに見つめたせいか、ヴィテアが思わずといった風に少したじろぐ。
「スペリア様に他の誰かを好きになってもらうのよ!」
「は?! 何言ってるんです?! 絶対無理だと思いますよ!」
リジーの発言に、すぐさまヴィテアは信じられないと大きく声を上げて反対した。
相変わらず廊下で聞いていたのだろう当のスペリアからも、
「リジー……」
と、呆れたような呟きが聞こえてくる。
リジーはぎゅっと顔を顰めた。なんとでも言うがいい。
「うるさいわよ! やるって言ったらやるわ! 私は、何もしないうちから諦めたりしないのよ!」
「リジー~~!!」
拳を握りしめて決意を固めるリジーには、残念ながら、ヴィテアの嘆きなど何の妨げにもならなかった。
2
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる