乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら

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8・害意のないストーカー

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「なんていうか……害意のないストーカーってやつですよね」

 もしくは行儀のいいストーカーって言えばいいのか……などとスペリアを称したのは、13で学園に入学した時から仲良くしている平民ヴィテアだった。
 彼女曰く、前世の世界での言葉であるらしい。なんでも、そもそも忍び寄るというような単語から派生した言葉で、なるほど、確かに忍ぼうとしてはいるな、とリジーは納得した。忍べているかどうかはともかくとして。あと、いつも周りに張り付いてはいるけれども、ある一定の距離から先へは寄っては来ない。
 ただ、何処までも眺めているばかりなのである。
 実害がないと言えばなかった。心底気持ち悪くはあったが、無視できる程度でしかなく。だからいつもリジーは無視するに至っている。
 ヴィテアの名は、正しくはヴィリテア・セヌエレという。
 濃いピンク色の髪と、リジーと同じ赤い目をした、可愛らしい同じ年の少女。実家は商家で、平民の中では裕福な部類になるらしく、それもあって貴族も多いこの学園に入学してきたのだとか。
 そして、前世をたまに夢で見るという彼女が、今日新たにもたらした前世の話が、リジーが悪役令嬢であるという者だった。
 即行でヴィテアにもスペリアにも否定されたが。
 過去、自分はお人好しだったのだなと痛感したことのあるリジーに悪役は無理があるような気は自分でもしていたけれども。
 それはそれとして、しかしリジーは考えてみる。
 明確に誰かを傷つけるだとかいうことは、自分には出来そうもない。
 だがしかし、誰かの希望に沿うように動く、というのならどうだろうか。出来るのではないだろうか。
 幸いにして、スペリアはスペックだけは高く、吸引力が凄まじい。今までを見ていてもそう。きっと相手には困らないはず。
 リジーは別にスペリアのことが嫌いなわけではない。
 ただ、なんと言えばいいのか、折に触れ、気持ち悪いなと思わずにはいられないだけだ。
 あの、過剰な行動さえどうにかなれば。
 せめてもう少し近くで触れ合おうとして欲しい。基本があの姿勢なのはもういいから、せめて。
 現状のままでは、今まで誰も何も変えられなかった。変化を求めるなら、他の誰かの影響が必要だと思った。
 他にヒロインがいるだとか、悪役令嬢だとか、それはとてもいい話・・・ではないだろうか。

「ヴィテア。私、決めたわ」

 心の中でひとつ決めて頷く。

「何をです?」

 首を傾げるヴィテアを真っ直ぐに見た。
 あまりに真っ直ぐに見つめたせいか、ヴィテアが思わずといった風に少したじろぐ。

「スペリア様に他の誰かを好きになってもらうのよ!」
「は?! 何言ってるんです?! 絶対無理だと思いますよ!」

 リジーの発言に、すぐさまヴィテアは信じられないと大きく声を上げて反対した。
 相変わらず廊下で聞いていたのだろう当のスペリアからも、

「リジー……」

 と、呆れたような呟きが聞こえてくる。
 リジーはぎゅっと顔を顰めた。なんとでも言うがいい。

「うるさいわよ! やるって言ったらやるわ! 私は、何もしないうちから諦めたりしないのよ!」
「リジー~~!!」

 拳を握りしめて決意を固めるリジーには、残念ながら、ヴィテアの嘆きなど何の妨げにもならなかった。
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