乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
8 / 43

7・悪い人ではない

しおりを挟む

 なお、そうこうするうちにリジーはスペリアに慣れてしまった。
 今では大抵無視である。
 勿論、リジーだって色々と試みはしたのだ。
 例えばスペリアに面と向かって罵倒を浴びせてみたり、嫌悪や侮蔑の視線を隠さずに突き付けてみたり。
 しかし、帰ってきたのはうっとりとしているような笑みと、

「ああ……! リジーに罵倒されるとかご褒美かなぁ? 怒ってる顔も可愛いとか完璧すぎる! 嫌悪とか侮蔑の視線も堪らないっ!」

 と言ったような、いつも通りの反応だったので、逆に怖くなって続けられなかった。
 リジーの反応がそっけないせいもあるのかもしれないと思い至り、距離を詰めようと近づいてみた時には逃げられた。
 逃げながらリジーから目は離していなかった。器用すぎてやっぱり怖かった。
 同じことをしてみたら、リジーの気持ちが伝わるのでは? と、逆にスペリアを観察してみたこともあるのだが、当たり前に喜ばれたし、何より観察すればするほど気持ちの悪さが浮き彫りになり、見なければよかったと後悔した。
 リジーの触れたものなら、チリ紙一つに至るまで全部保存しているだとか、本当にやめて欲しい。
 しかも時折、取り出して眺め、うっとりしていた。ぞっと背筋が凍った。
 本当にリジーが何をしても、かわいいだとか天使だとか素敵だとかしか言わないので、では何もしなければどうかと試してみても、結局見つめ続けられることに変わりはなかったし、何なら、

「新しいリジー……!」

 と感極まったかのように喜んでいて、やっぱり気持ち悪かった。
 あまりに天使だとかなんだとかいうので、例えばリジーが人を傷つけることをなんとも思わないようなとっても嫌な奴だったら……なんてことも考えてはみたのだけれど、流石にスペリアを幻滅させるためだけに他の誰かに何かをしたり、迷惑をかけたりだとかはできないなと諦めた。
 たとえふりだとか、一時的に、だとかだとしても、良心の呵責に堪えられそうもなくて。
 自分が、自分で思っていたよりもずっと人が良かったのだとわかって、なんだか情けない気持ちにさえなったのだけれど、これに関しては別にそれでいいとも思っている。
 止むにやまれぬ事情でもあればまた別なのかもしれないけれど、少なくともこの件程度・・で、人をわざわざ傷つけるような人間になどリジーとしてもなりたくはなかったので。
 自分はこんなに情けない、だとかいうことも、ついでに明かしてしまえと、独り言のようにスペリアがいる前で口にすると、流石にその時ばかりは、彼の、あのいつも浮ついたような浮足立ったような妙な興奮具合は鳴りを潜め、

「君はやっぱり素敵な女の子だね、リジー。そんな君だからこそ僕は、君が愛しくてならないんだ」

 なんて、妙に静かな声で言われたりした。

「スペリア様……」

 リジーはうっかりスペリアのことを見直しかけた。あれ、この人、実はそんなに悪い人ではないのでは……なんて血迷いかけた。
 が、次の瞬間には、

「あああ~~~! これも初めて見るリジー! 弱ってるリジー可愛すぎるんだけど?! 僕をいったいどうしたいの! 天使! やっぱり天使! 神が僕に使わした御使いかな!?」

 とか何とかをいつも通りのテンションで叫んでいるのを見るにつけ、やっぱりすんと気持ちが萎えるに至った。
 そもそも初めから別にスペリアは悪い人でなどないのである。
 ただ、物凄く気持ちが悪いだけで。悪い人なわけでは、決してないのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

処理中です...