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6・見捨てたい
しおりを挟むその後も言葉に出来ないようなことが色々とあったが、おおむねそのような方向性のまま、今日に至っている。
つまり、ろくな交流もなく、一方的に追い掛け回される日々だったということだ。
なにせスペリアは、とにかくリジーと距離を取るのだ。至近距離までは近づいては来ないのである。
そのくせ、片時もリジーから視線も魔道具の向きも離さず、いつ何時でも近くにはいた。
リジーが見まわすとすぐに見える範囲。スペリア曰くの、リジーが一番キレイに撮れる距離だった。
勿論、絶対に必要な場合はその限りではない。
例えば子供ながら立場ゆえ、皆無というわけではない社交の場においてのエスコートなど。
リジーが他の誰かにエスコートされることに関しては、どうやらスペリアは許せないらしく、そういった場合のみ、触れられそうな位置で仲睦まじく見えるようリジーに寄り添い、普段の態度は何なのかと思うぐらい完璧な王子様を演じて見せてくれた。
そうするとリジーも初対面の時のときめきを思い出したりもしてしまって、ほんの時たま、見惚れてしまう時なんかもあって。もっとも、ぼーっと見つめられているのにすぐに気付いたスペリアはさっとリジーから視線を逸らし、
「あ~~、僕に見惚れてくれてるとかナニコレここは天国かな? 可愛すぎるんだけど! 魔道具! 魔道具何処! なんで僕今持ってないの?!」
とか何とかを小声で呟いていて、近くにいるせいで、それらを全部耳にする羽目になったリジーは、途端すんと、表情を戻し、あ、いつも通りだなと思ったりすることもしばしばだった。
なお、そのうちにそれらはついには社交の場での、ほとんどお決まりとなっていった。
スペリアは、とにかく、見た目はいいのだ、本当に。ただ一つ、リジーに対する態度以外は本当に完璧なのだ。
もっともそのただ一つが、たとえようもなく気持ち悪いのは確かなのだけれど。
仲がいい悪い以前の問題で、すでにリジーは何をどうすればいいのがわからなくなっている。
以前、スペリアの母である王妃に、彼の隙をついてスペリアの自室を見せてもらったことがあるのだが、それはもう気持ちが悪かったし、王妃自身も遠い目をしていた。
彼の部屋にはリジーがいた。
映像媒体、記録媒体、果ては紙に至るまで、所狭しとありとあらゆるリジーで埋め尽くされた部屋だったのである。
リジーは今まで生きてきて、あれほど見て後悔したものはない。
思わず、ひっと悲鳴を上げたリジーをもちろん王妃は咎めなかった。
ただ、それら全てを踏まえて、実はリジーは父親にも果ては直接国王陛下にまで、何度か婚約の破棄を願い出ているのだが、そればかりは思いとどまってくれと、皆に説得されている。
なんでもスペリアはすでに手に負えるような状態ではなく、本人たっての希望もあり、また、スペリア自身のリジーへの気持ち、傾倒っぷりは他を見れるようになるとも思えず、どうにかリジーに将来的にはスペリアと寄り添ってほしいのだそうだ。
いや、無理だろ。
よく見て欲しい、無理だろう。
社交の場でもなければ近づいても来ないのだけれども。
無理だろう。
と、リジーは当たり前に再三言ったけれど少なくとも今までに一度として聞き入れられたことはない。
可哀そうな子を見る同情的な目で憐れまれるばかりである。
リジーのことに関して以外は、本当に完璧とも言えるだけにどうにもできないとかなんとか。
「あんな息子だけど、どうか見捨てないでやってね」
だなんて、王妃には涙目で懇願されたが、見捨てられるのなら本当に真面目に見捨ててしまいたかった。
とりあえずいずれにせよ今はそれも叶っていないのだけれども。
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