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5・ときめきを返せ
しおりを挟む恐れ多いとはどういうことだろうか。
リジーは公爵令嬢で、スペリアは王子である。恐れ多いというなら、それはむしろリジーの方では?
心臓が破れる、とは、ドキドキして、だとか、好意的に捕らえて良いのだろうか。それに関してはわからなくもなかった。
つい先日、自分もこの男の子に対して、やはり心臓が破れそうだと思うぐらいにドキドキした覚えがある。今はむしろ全くときめかないけれども。
むしろ心臓が凍り付きそうだった。
最後の、キレイに撮れ、る……? それはもしかしなくとも、手に持ち続けている魔道具のことなのだろう。
スペリアにとってははどうやらリジーと親交を深めるより、リジーを映像に残すことの方が重要であるらしい。
それらのことを何とか理解したリジーは、まったく何をどうすればいいのかわからなくなってしまった。
とりあえず落ち着くためにもと、一端スペリアのことは置いておいて、固まりそうな笑顔のまま、お茶を頂くことにする。
流石に王宮だけあって、薫り高く上質なお茶だった。
カップを手に取り、可能な限り優雅に口へと運ぶ。カップに唇がついた、と、同時ぐらいだっただろう。
「ああああ~~~り、リジーが紅茶を飲んでいるぅ~~! なんてかわいいんだろう、天使かな? 天使だ! 僕の天使! かわいい! ……あのカップ、どうやったら洗わずにそのまま置いておけるかな……魔法? 練習しよ……」
そんな、興奮しきった言葉が聞こえてきたのである。
スペリアは、それら全部がリジーに丸聞こえだとかなんだとかに関しては、一切気にしていないようだった。
自分の感情だけにいっぱいいっぱいになっているとでも言えばいいのだろうか。
駄々洩れになっているのは、明け透けな好意ではあった。好意では……あったのだろう、けど……。
カップを、置いておく……?
え、これを? このまま?
洗わないと汚い。
意味が解らないし、天使とか連呼されては困る。可愛いと言ってくれているのは嬉しいけれども、そこまで興奮して言うほどかと言われると、嬉しいを通り越してただただ拒絶感しか抱けなかった。
簡単に言うと、気持ち悪かったのだ。
リジーの笑顔は固まるを通り越して強張った。
え、何これ気持ち悪いし怖い。
王宮内、同じ部屋の中には、実は侍従も護衛も侍女もいたのだが、職務に忠実な彼らは、主人たちにぶしつけな視線を投げかけたりなどしない。
つまり、リジーが思わずちらと彼らに視線を投げても、誰一人として視線が合わなかったのである。
リジーを助けてくれる人もいなければ、スペリアを窘める人もどうやらいないらしいと悟った瞬間だった。
「ああ、笑顔が強張ってるのも初めて見た! かわいい!」
しかも、笑顔の質の違いまでどうやらスペリアは把握している。
自身の未熟さを突きつけられたような気にもなったし、何よりもはやり混乱したし、気持ち悪かった。
数日前のときめきを返せと言いたくなった。初対面の時は、ものすっごくとってもカッコよかったのに。今は間違ってもカッコよくなど見えなくなっていて、それどころかちょっと見たくないな、とまで思ってしまっている。
なんだ、この男の子、わけがわからない。気持ち悪っ。
以上がこの日のリジーの感想である。
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