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4・何故か遠ざかる婚約者
しおりを挟む初対面時、互いに好意を抱いたらしいなんてことは勿論、周囲にすぐに知れ、内定状態だった婚約は瞬く間に本決まりになり、また、より親しくなれるようにと再度の交流の場も1週間と経たずに設けられたのだが、その時もまたひどく。リジーの恐怖の対象となった。
それまででもすでに、何処に出かけてもずっと見つめてくるスペリアに抵抗感を抱き始めていたリジーは、再度、改めての顔合わせにも嫌な予感が拭えなかった。
案の定、王宮で数時間を共に過ごすこととなったスペリアは……――どうしてか。同じ部屋に入るなり、リジーと可能な限り距離を取ったのである。
わけがわからなかった。
もしやこれは避けられていたり、嫌がられていたりするのだろうかと一瞬思ったが、そうではないとすぐに理解する。
なにせ、距離を取っていながらもスペリアの視線はリジーから離れず、相変わらず彼の手には魔道具が乗せられていたのである。魔道具の向かう先は勿論リジー。
え、今も撮ってるの?
と思うと、目を見開いて驚くしかない。
この場は、より親しくなるために、共に過ごすよう、設けられたもののはず。にもかかわらず、スペリアは近づいては来ず、しかしリジーのことは見つめている。
それはもう、大変満足そうな笑顔で、である。
「えっと、あの……スペリア、様?」
先日の初対面時にはスピーと呼んでとか何とか言っていたような気がするが、そう呼ぶ気には到底なれず、他の者に倣って愛称を口に乗せてみると、彼は何とも複雑な顔をして見せた。
嬉しいのと残念なのと半々とでも言えばいいのか。
その時はその表情の意味もよくわからなかったけれど、後々彼の発言も踏まえて思い返すと、おそらく、名前を呼ばれて嬉しい、しかし呼ぶ名前が先日自身の願った愛称ではないことが残念だ、とかそういうことだったのだろうと理解した。
とにかく、そんな複雑そうな表情をした彼は、しかし違えようもなく頬を赤らめて、
「な、ななななな、な、何、かな? リジー!」
物凄くどもりながらではあったけれど、一応返事は返してくれた。
会話をするつもりではいてくれるのだと少しほっとする。
そのままリジーは引きつりそうになる笑顔で、どうにかこうにかスペリアに誘いかけた。
「あの、そのような所にいらっしゃらずに、一緒にお茶でも頂きません、か?」
時刻はちょうどお昼のお茶の時間。場所は王宮内の応接スペースの一つで、部屋にあるソファとテーブルには当然のことながら、ばっちりお茶の用意がされていた。
リジーがいたのはそのソファの上で、スペリアがいたのは……――窓際、カーテンの隙間である。
なぜ、あんな猫でも隠れていそうな場所に行ってしまったのか。本当にわけがわからず、ひとまずと傍へ促す。
しかしスペリアはふるりと首を横に振った。
頬を興奮ゆえか紅潮させて、やはりつっかえながらも断りの言葉を吐いてくる。
「いいい、い、いや、僕はここでいいよ……!り、リジーと同じ席に着くとか、恐れ多いし! 心臓破れちゃう! それに、これぐらいの距離の方が、リジーのこと、とってもキレイに撮れるんだ!」
これはいったいどう飲み下せばいいのかわからず、思わずリジーの笑顔が固まった。
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