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3・すぐに立ち消えた初恋
しおりを挟むスペリアは、なんというか、顔がいい。非常にキレイな顔をしていた。とはいえ、整った造作は女性的というわけでは決してなく、男らしく精悍で、背も高ければ体つきも逞しかった。
浮かべる表情も爽やかで好感が持てる。
10人いれば全員が口を揃えて言うだろう理想の男性像。
王族だけあって魔力も多いし、頭も良ければ、剣術などもそれなりの腕前だった。
性格だって別に悪くないし、なんなら寛容で思いやり深く、気遣いもできる人格者でさえある。
ただ1つの欠点さえ除けば。
それはつまり、婚約者であるリジーへの好意だけが天元突破していて、有り体に言うと愛が重いの一言に尽きるところだった。
それも、そんな好意の表し方が斜め上と来た日には……目も当てられない惨状と成り果てた。
たとえスペリアの上辺に惹かれた者が現れたとして、あれを知ればとたんに百年の恋も冷めたとばかり、距離を取ろうとするほど。
リジーがスペリアと初めて会ったのは、婚約が内定している段階での顔合わせの時。
確か、5つか6つかぐらいの時だったと思う。
それより幼いというのは考えづらいのでそれぐらい。
幼いリジーは、まるで理想を体現したかのような、王子様然とした完璧な男の子に目を奪われた。
スペリアも同様に、惚けたようにリジーを見つめていたので運命のよう、恋に落ちたと言っていい。
2人揃って照れまくり、ぎこちなく何とか挨拶を交わして、でもそれ以上は目も合わせられなくて。なのについつい相手を目で追ってしまう。
初々しくも甘酸っぱく小っ恥ずかしい初恋の記憶だ。
それも1週間と持たなかったけれど。
なにせ初めて会ったその翌日から、家から1歩でも出ようものなら、必ずスペリアを見かけるようになったのである。
初めは偶然だと気にしなかった。
むしろ、自分に会いたいと思ってくれているのかと喜んだ。
しかし。
そんな喜びも長くは続かず。1週間。たったの1週間でリジーは悟るに至った。
あ、この人気持ち悪い、と。
スペリアは……なんと言えばいいのだろう、リジーの視界に入る割には話しかけては来なかった。
ただ隠れられてもいないのにあれで隠れているつもりなのか、物陰からじっとリジーを見つめていて。見つめていて……見つめていて。
それだけだったのである。
いや、違う、それだけではなかった。数日のうちに魔道具を手に持ち始めた。
自分の魔力を動源とする、画像や映像を保存できる魔道具だ。
なんと言ったのだったか。異世界でのカメラだかビデオだかというのが近いのだったか。
手に持ち、魔力を流すと発動する魔道具で、保存媒体には魔石が使用され、録画時間や容量、鮮明度は使用者の魔力に左右された。
それがずっとスペリアの手に乗っていて、リジーの方を向いて片時も、逸らされることがなかったのである。
気付いた時にはリジーは悲鳴を押し殺すことが出来なかった。
なお、悲鳴を上げるリジーを見てスペリアは笑っていた。
風に乗って、
「悲鳴を上げるリジーも可愛い」
とか何とかほざく声が聞こえてきたような気もするが、気のせいだ思いたい。
とにかく、全部を丸っとひっくるめても、それはどう考えてもちょっとした恐怖しかもたらさなかった。
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