乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら

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1・乙女ゲーム

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「乙女ゲーム?」

 何言ってんの?
 腕を組んで椅子にふんぞり返りながら、リジーは、はぁ? と怪訝な顔をして見せた。
 学園の昼休み教室にて。
 今日も今日とて隠れられていないリジーの婚約者は、わざわざ教室を出て廊下から中をのぞきながら、魔道具で際限なく、リジーの画像を撮りまくっている。
 心底気持ち悪い。
 しかし今更リジーはそんなこと気にしない。
 と、いうか、同じクラスなのになぜわざわざ廊下に出るのか、そこからして全く理解できないが、それもまたいつものこと。
 あんな状態の婚約者にはかかわらない方がいいとすでに知っているリジーは勿論、彼の方になど視線を向けず、目の前の女生徒にだけ注意を向けていた。

「そうですぅ~、この世界は乙女ゲームなんですっ!」

 そんなことを力説するのはヴィテア。このクラス唯一の平民・・である。少し濃いめのピンクの髪をした見た目だけはおしとやかな、しかしその中身はちっともおとなしくない、リジーの友人だった。
 生粋の貴族とも言える公爵令嬢であるリジーにとって、ヴィテアは大変面白く、興味深い人物だった。
 時折こんな風に突拍子もなく、わけのわからないことを言い出す所も、まぁ、言ってしまえば彼女の魅力の一つだとは思っている。
 とは言え、今日の話は飛び切り意味が解らない。

「ゲーム、ゲームねぇ~……それはまた、あなたお得意の、前世の記憶とか何とかいうやつ?」

 これまでも何度か聞いたことのある、彼女が口にするお決まりのそれかと尋ねると、ヴィテアはこくこくと人形のように首を上下に動かした。頷いているらしい。
 首振り人形か何かの用で少し面白い。

「ですです、今朝、夢に見たんです! これは絶対に前世の記憶です!」

 ものすごく力説してくれるが、そもそも別に疑ってなどいない。
 この世界には前世の記憶があったり、突然前世を思い出したりという人間がそれなりの数存在していて、割合的に珍しくはあれど、ああ、そういうこともあるよね、というような感覚なのだ。
 だから、彼女が前世を思い出したというのなら、それは間違いや勘違いではないのだろうとは思っている。
 話の内容が割といつも意味不明でも。
 それを頭ごなしに否定するほど、リジーは視野が狭くはなかったので。

「で、この世界がその乙女ゲームの世界だと?」

 訊ねるリジーにヴィテアはやはり首振り人形のように首を幾度も縦に振った。
 その頷き方は、そのうちもげそうだからやめた方がいいのではないかとちらと思いながらも口には出さずにリジーは、先程からヴィテアが一生懸命に教えてくれている乙女ゲームとやらの情報を整理しようと努める。
 つまり、簡単に言うと、この世界は乙女ゲームの世界で、ヒロインが攻略対象の好感度を上げて、いずれは結ばれるとそういう話だ。
 正直な所、聞いたことがない話というわけでは決してなかった。
 むしろそこかしこでたまに話題に上がる。婚約破棄だとか、ざまぁとか逆ざまぁとか、婚約破棄返しとか。何故かあまり乙女ゲーム通りに進んだという話はほとんど聞かないのだが、そんな記憶があるという話は度々聞いたことがあった。
 だから、リジーの感想としては、ついに来たかという程度。だが。

「え、ちょっと待って、乙女ゲーム? ってあの、婚約破棄とかがあるやつ? 配役誰?」

 もしかしての予感に、リジーは腕を解いて前のめりに訊ねる。
 果たしてヴィテアは。

「とりあえずリジーは悪役令嬢です!」

 と、リジーの望んだとおりのことを教えてくれた。
 それを聞いたリジーは、よっしゃ! と、心の中ではしたなく、握り締めた拳を振り上げていた。
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