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*XX-08・懇願
しおりを挟む王宮にある、侍女や侍従、あるいは下働きの者等の住まう居住棟の一角、その中でも一番奥まった所にある、ほとんど人の立ち入らない一室で。
湿った淫靡な気配と上がる嬌声の前で、女は必死に血に頭をこすりつけ許しを乞うていた。
「申し訳ございませんっ、お許しください! 次こそ必ずや……」
「ぁんっ、ん……ぅ、ふっ……次、ってなに? 君……ぁっ、結局、何も出来てないじゃない」
悲壮感さえ漂う女の懇願に、しかし応える喘ぎ交じりの男の声は冷たく、女に対する無関心が、その声音からさえ知れるほど。女は更に恐れおののいたように息を震わせた。
「ぃ、いえ、何とかしますっ……! 何とかしますから……!」
もう一度自分に機会を、と請う女に、溜め息を吐いて、今まで自分と睦み合っていた相手に、少しだけ待ってね、なんて甘く囁きながら体を離し、男は軽く息を整える。
「そう言ってどれだけ経ってると思ってるの? 婚姻式やお披露目までもうひと月しかないんだよ?」
多分今頃は子供を、なんて話になっているかもしれない。その前に、と考えていたのに。
それはむしろ女の方がよく知っていた。
実際に耳にもしている。
男が言う通り、対象としている人物は、ほんのつい先日、子供を成したようだった。
見るも幸福そうだった様子を思い出す。ギリと奥歯を噛みしめ、だけど、と食い下がった。
「お、思いの外、アイツが1人になる時間がなく……」
「言い訳はいいよ」
何とか絞り出した言葉さえ、容易く切って捨てられて女は焦って、
「で、ですが、もうじき! し、式が近づけば今以上に忙しくなります、手が足りないことも出てくるでしょう、そうしたらきっと……!」
今度こそ上手くやれるはずだ。否、やってみせると意気込むのに、男は少しだけ何事か考えるように間を空ける。次いで、
「ふぅん? ま、僕の方も少し動くしね。そうしたら君も動きやすくなるかもね」
と、柔く笑むのに、女が喜色を顔に浮かべ、期待の滲む声を上げた。
「ええ、必ず……! ですからっ……!」
「わかってるよ、君の望みは叶えてあげる」
男が小さく肩を竦め、請け負う。
ふふとおかしそうに笑う男の軽やかな様子に、女は拝むような様子さえ見せて。
「あ、ありがとうございますっ……! ああ、なんて慈悲深い……」
「うんうん、僕は優しいものね? 分をわきまえて、よく働いてくれる賢い子は好きだよ」
陶然と感謝を述べる女に、しかし男はそろそろ興味が失せてきたらしい。
適当にいなしながら、傍らに控えたまま、男を支え続けていた逞しい相手の胸へとしなだれかかっていく。
「ぁあんっ、ねぇ、もぉ限界っ……!」
早く、とねだって足を広げ、感じ入ったように相手を受け入れていく男の姿に、だけど女が何かを思ったりなどせず。否、むしろ、再び辺りに響き始めた男の嬌声さえ、女にはまるで天上の調べのようにも、聞こえているようなのだった。
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