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12・理由②
しおりを挟むリア様は僕より、それこそティネ殿下よりもずっと、男らしい顔つきをしておられる。だけどこういう表情をなさるとかわいいんだな、そう感じた。
とたん、きゅんと胸が苦しくなったけれど、それは決して嫌な苦しさではない。
それどころか何だか甘酸っぱいような気さえして。一瞬、思考が取っ散らかる。
勿論、すぐに、
(いけない、いけないっ!)
なんて、自分を戒めたけれど。
リア様の、予想外にも可愛らしく思えるご様子に背中を押されるように、あるいは勇気づけられて、僕はなんとか口を開いた。
「えぇと、その……最近、その……」
だけどすぐに言葉に詰まってしまう。
「うん? どうしたんだい。ゆっくりでいい」
そんな僕に、リア様はお優しい。労わるように、促して下さって。だから。
「あのっ……! お、昼間、に……こ、られなく、なられました、よね……?」
それはいったいどうして。
何とかそれだけを口にして、だけど僕は物凄く恥ずかしくなってしまった。
リア様と僕の、二人共通の居間とも言える一室。寝室やそれぞれの私室とは別にそれはある。
むしろ寝室に行く手前の部屋とでも言えばいいだろうか。廊下側に面していて、この部屋に直接入ることも出来た。
廊下から入ると奥には寝室があり、左右にそれぞれの私室へとつながる扉があるというような作りになっている。
その部屋のローテーブルを隔てて向かい合わせに置かれたソファにそれぞれ腰かけて。近すぎない距離で顔を見ながらお話をする。
だから目の前にはリア様。
手を伸ばして触れようと思えば触れられるけれど、触れずにいようと思えばできるぐらいには離れていた。
なんとなくもどかしくも思うけど、同じソファに隣り合って座るほどには、僕とリア様は親しく慣れていないとも思っている。
だからこそのこの距離は、だけどリア様の表情がよく見えて。見間違えようもないほど、リア様が困惑なさっておられるのがよくわかった。
(ああ、こんなこと、やっぱり尋ねてはいけなかったんだ……)
なんて少しだけ沈んでしまった僕に、リア様はすぐに気付いたんだろう、すぐに焦ったようなお顔に変わられる。
「いや、そのっ! イーフェっ……!」
名を呼ばれ、知らず俯いてしまっていた顔を上げた。
「はい」
返事をしたけれど、改めて見たリア様は困ったお顔のまま。何かを考えるように視線を逸らされる。
「あ~……その。君は……何を、どこまで知っているのかな……?」
「? 何を……どこまで、ですか……?」
続けて、躊躇いがちに訊ねられたことは、僕には何のことなのかわからないばかり。
そもそも、僕が知っていることなんてそれほど多くはない。
勿論、後々王妃となること自体は幼い時から決まっていたから、ある程度の教育は受けてきているけれども、何せ僕は出来がいいとは到底言えず、きっと全てが最低限身に着けられていればいい方で、加えて教えられてきたのは主に王妃としての責任や業務内容、あるいはマナーや心構えなどばかりだった。
閨の知識なども教えられてはいたけれど、勿論実践経験などあるはずもなく、リア様との行為では、リア様に一方的に導かれるばかりな有り様で。それ以外と言われても。少なくともあんな風に、時間を問わず求められる理由に心当たりなんてない。
いったい何を尋ねられているのか。
今度は僕が首を傾げる。
「ああ。そもそも、君がなぜ、ティネの婚約者となったのか」
なぜ、君でなければならなかったのか。
(僕でなければ、ならなかった……?)
思ってもみなかったリア様の言葉に、気付けば僕はぱちぱちと、先程のリア様よりずっと目を瞬かせていた。
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