【完結】「愛してる」の呪い

愛早さくら

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「愛してる」は呪い④

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 男は。初めから、僕と会話するつもりなどないようだった。僕からの返事など、何も求めていない。
 そのくせ、自分勝手に語りかけてくる。
 男の僕を穿ちながら囁く言葉の断片を、ようやく拾い集め、現状の把握が出来たのは、さて、あの初めての時からどれだけ経った頃だっただろうか。
 あれほどの激痛で体が裂けたかと思ったのに、一度気を失って次に意識が戻った時には、あのひどい激痛だけはなくなっていた。
 おそらく男が治癒魔術でも施したのだろう。それを正しく測れる程の意識など、僕にはいつまでもないままだったけど。
 だが、体の奥は男に穿たれたまま。把握した途端、体を強張らせる僕に、しかし男の動きに変化などない。

「ルディ……」

 そう名を呼んで、腰を振るだけだ。固く拒絶にひきつる中を、好き勝手に擦り上げられるだけ。

「ルディ」

 男の声が、恐ろしくてたまらなかった。呼ばれている自分の名が、何処までも悍ましかった。
 どうして。なぜ、いったい、こんなことに。
 誰か、助けてほしい。誰でもいい、誰か。
 だが、いつまで経っても助けは来ない。



「ぁあ……」

 男がまた、僕の中で熱を吐き出した。ぶわりと注がれる魔力。否、ずっと、注がれ続けている魔力。僕の全身を侵しつくすそれ。だけど。

「ルディ……」

 男が呟く。僕の腹を撫で擦って、惜しむように呟く。

「どうして……また散って……ああ」

 ならもっと、注がなければ。もっと。

 男はそう、恐ろしい言葉を続け、また、腰を動かし始めた。

「ぁっ、ぁっ、ぁっ、」

 飽くことなく揺さぶられ、また、腹の奥に熱を注がれ。しかしそれはとどまらず。
 どうして、なんてそんなもの。当たり前だった。
 だって僕は知っている。僕の腹に過剰に注がれ続ける魔力の意味。僕の腹を撫でる男の意図。男がいったい何を願っているのかを。
 わからないはずがない。だって対象は他でもない僕だ。でも、だからこそ、僕は。

 僕は。



 男が惜しむように僕の腹を撫でさするようになったのは、こうなってすぐのことだったと思う。否、むしろ初めからというべきか。

「ルディ。ほら、ここを意識してごらん。私と君の子供と成れる核があふれている。ほら、ルディ」

 ルディ。

 僕に話しかけているようでいながら、男のそれはどこまでも僕からの反応を求めず、ただの独り言に過ぎなかった。

「ルディ……? どうして、何故散るんだ……」

 なのにそんなことを愕然と呟いて、また、僕に魔力を注ごうとしてか腰を動かし始める。
 どうしても、何も。当たり前だと、僕ははじめから思っていた。
 むしろこんな状況で、何故それが散らないと思うのかの方が不思議だ。
 いっそ理解できない。
 否。男のことなど、何一つとして理解できていなかったけど。
 いくら魔力を僕の腹に注いだって同じ。だって、子供・・なんて。僕が望まないとできない・・・・・・・・・・・のに。どうして僕が望むと思えるのだ。
 こんな、僕からの反応なんて、一切求めない行為を続けておいて、何故。

「ああ、ルディ……愛している」

 愛している。
 そんな呪文に、意味などないのに。



「ルディ、ルディ、ルディ」

 男が僕の名を呼んで、飽かず僕を揺さぶっている。

「ぁ……ぁあっ、ぁ……」

 男の動きに合わせて、僕の喉からは声が漏れた。

 ああ。

 男がいったい何をしたのか。僕は今ではおぼろげながら知っていた。否、悟らざるを得なかったというべきだろうか。
 だって男自身が言っていたのだ。僕を揺さぶりながら、ぶつぶつと、僕に聞かせるつもりもないだろうに囁いていた。
 曰く、自分たちが従兄弟であるだとか。曰く、僕と男を邪魔する者ばかりだったのだとか。曰く、だから全て排除したのだとか。もう、僕達を妨げるものは何もないのだと、男は本当に幸せそうに僕を揺さぶるのだ。
 なんてひどい話なのだろう。
 だから僕は悟らざるを得なかった。この男が僕の両親を殺したのだと。この国の王を殺して、男の行動を妨げようとしたものを全て殺して、おそらく今、この国の王はこの男だ。……王として成れているかなどは知らないけど。

 僕には何もわからない。どうしてこんなことになったのだろう。なぜ、こんな。
 男が囁く。
 男の注いだ魔力が、僕の腹にとどまらないことを嘆く。

「ああ、どうして……子供が出来れば、君と。外に出られるはずなのに」

 ああ、どうして。
 意味が解らなかった。
 僕を。こんな状況にとどめているのはこの男だ。
 それに男自身が言っていた。男の行動を妨げるものなど、もはや何も存在しないのだと。
 なら、僕が外に出ること自体、男の気持ち一つのはず。子供なんて関係ない。
 否、男の気持ち一つだからこそ、男の中で、それが条件にでもなっているというのか。
 わからない。
 わからないけど、もしやと思った。
 もしや、それで、僕は。
 そう、僕は思ってしまった・・・・・・・
 そして。



 揺れる、揺れる、揺れている。
 男が僕を揺らしている。
 どうして、こんなことに。
 僕には何もわからない。
 ただ。

「ルディ……愛している」

 男の呟くそれが、まるで呪文のようだということだけがわかっていた。
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