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「愛してる」は呪い①
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揺れる、揺れる、視界が揺れる。
どうして。どうしてこんなことになったのだろう。
もうずっと、何もわからない。ただ、僕は。
「あ、あぁああぁあああぁぁぁああ……」
僕の喉から迸るのは、喘ぎなんて言うかわいらしい物じゃない、ただの悲鳴だ。動きに合わせて揺れている。
苦痛しか乗らない僕の声を、だが構う者はおらず。剰え。
「ルディ、ルディ、愛してる、愛してる」
此処にいるのは、そんなことを呪文のように唱えながら僕を揺さぶる男と、僕の二人だけ。
「ぅっ…ぐっ……」
「ぁああああっ……!!!」
ぶわり、腹の奥で男が精を放ったのが分かった。だってそこから広がる熱が、僕を侵していくのだ。僕の中、隅々まで、それこそ指の先までを侵していく男の魔力。なんて悍ましい。
「ああ、ルディ……」
さほどの時間を置かず、男がまた動き出す。僕はただ、揺れている。
ああ。
ああ。
どうしてこんなことになったのだろう。どうして。
答えはどこにも見つからない。
+++
僕はこのファルエスタ王国の王太子だ。否、王太子、だった。あの男……――それまでほとんど会ったこともなかった、従兄弟であるらしいビュージェに今のように捕らえられるまでは。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあああぁぁ……あっ!」
僕はもうずっと、意識がある時にはほとんど常に男に揺さぶられていて、まともな思考もままならない状態に置かれている。
僕を満たすのは溢れるような男の魔力と、青くさい精の匂い。忌々しい男の白濁が、僕の体の奥深くにまで塗りこめられてでもいるかのよう、この空間でこの匂いがしないことがなく、僕はそんなものを気に賭ける余裕もなく。
「あぁっ!」
がつんっ、と腹の奥を暴かれる。容赦のない突き上げは、僕の思考を途切れさせた。
「愛している、ルディ」
愛している。
まただ。男がまた、それを唱える。
「ぁっ、ぁっ、んっ……が!」
僕は何も応えない。ただ、喉から上がる悲鳴を垂れ流し、涙と涎で顔中がぐしゃぐしゃに汚れるに任せるだけ。
男は構わず、僕の頬に唇を這わせた。
「ああ、ルディ……」
ルディ……愛している。愛している。
僕にはわからない。男の言葉の意味も、なぜ男が僕にそんなことを唱えるのかも、何もかも、全部。わからない。
「ああ!」
また、腹の奥をひときわ強く突かれて、僕はがくんと仰け反って。脳みそが白く、溶けていった。
あの日、僕はまだたったの16歳だった。
あの日は僕にとって、特に何かあるような日ではなかった。
いつも通り。いつもの日常。
僕はいつもの勉強の合間に、その時ちょうど自室で寛いでいて。
ふと、城中が騒然としていることに気付いた。
遠く、喧騒が煩い。
気になって席を立った。
気を利かせた護衛が、様子を確かめてくると部屋を出ていき、そして。
段々と近づいてくる喧騒。激しい剣戟の音。何が、起こっているのか。何かが起こっていることはわかる。きっと良くない何かだ。だが、何か起こっているのかがわからない。
身の内を駆け回る嫌な予感に支配され、落ち着かない気持ちで立ったまま、座ることもままならない僕の部屋の近く。ひときわ激しい、何かが争う音が聞こえて、そして。
バタンっ、勢いよく開け放たれたドアの向こう、姿を現したのは見覚えのない一人の男だった。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、」
意識が戻る。僕はまだ揺れている。僕の喉から漏れる声はただの反射だ。
いつものことだった。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、」
「ルディ、ルディ、ルディ……」
男が僕の上で腰を振る。僕の名を呼びながら腰を振る。僕は男の動きに合わせて揺れて、揺れて。
「あ!」
腹は、男によって穿たれたままだった。そこで感じるのは、もはやただの衝撃だけ。快楽や、疼きや、あるいは苦痛は、時折戻ってきては遠ざかった。
「ぁっ……」
また、腹の奥、広がる熱。麻痺しきった僕の下肢では、濡れる感覚も漏れる感覚もすでに何もわからない。そこにあるのはただの熱なのだ。熱く、恐ろしく、僕に満ちていく。
「ああ、ルディ、愛している、愛しているんだ……なのにどうして」
どうして。
男が嘆くように僕の腹を撫でた。
「ああ、また散っていく。ルディ……」
男がまた動き出す。何かを取り戻すかのように、否、零れ落ちたそれを、掬うように?
終わりのない行為。
僕にとっては、終わりのない悪夢。
ああ。
「愛している」
また、その呪文。
男は背が高く、体つきもがっしりしていた。顔は、見たことがあるような気もした。過去に一度か二度会ったことがあるのかもしれない。だが、その程度。紫色の長い髪をしていて、身に着けている服は、多分、黒かった。
多分、とつくのは、男があまりに血臭を纏わりつかせていて、全身のいたるところを血で汚していたからだ。服の元の色が分からなくなりそうなほど濡れて。黒い服なのにそうとわかるぐらいに赤い。赤い。
それは、ほんの経った今まで男自身が、何かをたくさん切り捨ててきたことを示していた。その証拠に、男の手にある剣の剣先からは、どす黒く赤い血が滴っている。
「ひっ!」
僕は震えた。驚きと恐怖に、凍り付く体を仰け反らせる。じり、知らず足が後ろに下がった。
何が、どうして……これはいったい。
「ルディ」
男が笑った。
僕を見て、本当に嬉しそうに笑って。
僕が感じたのは背筋が凍りつきそうな恐怖だった。
どうして男は笑っているんだ。何がどうして、今の、この状況はいったい。
「る、ルディ様っ……」
僕と一緒に、一瞬固まっていた、もとより部屋の中にいた女官の一人が、いち早く我に返って僕を庇うように前に出る。
そんな女官の行動に、男が眉を寄せるのがどうしてかその時の僕にはっきり分かった。
「……邪魔だな」
男の、口が動く。手、が動く。そして。
次の瞬間、僕の目の前で、僕を庇っていた女官の首は、ごろりと足元に落ちていた。
「ぁっ、ぅわあああぁぁぁ……!!!!!」
僕の喉を、悲鳴が迸った。恐怖と、衝撃に、そうせずにはいられなかった。
うるさいほどだろう僕の悲鳴に、男はまた笑って、笑って。
「ああ、ルディ」
男の手が僕に伸びる。血に濡れた真っ赤な手が、僕を。
捕えて、きつく抱きしめた。
ああ。
揺れる、揺れる、視界が揺れる。
体ごと、揺さぶられている。
僕の喉は枯れて、涙は枯れず。
なのにその涙さえ、男が嬉しそうにすすった。
ああ。
腹の奥はもうずっと穿たれて。僕の意識がある時に、男が居座っていなかったことがない。
ああ。
僕は、もう。全て、奥の奥まで、この男に。
どうして。どうしてこんなことになったのだろう。
もうずっと、何もわからない。ただ、僕は。
「あ、あぁああぁあああぁぁぁああ……」
僕の喉から迸るのは、喘ぎなんて言うかわいらしい物じゃない、ただの悲鳴だ。動きに合わせて揺れている。
苦痛しか乗らない僕の声を、だが構う者はおらず。剰え。
「ルディ、ルディ、愛してる、愛してる」
此処にいるのは、そんなことを呪文のように唱えながら僕を揺さぶる男と、僕の二人だけ。
「ぅっ…ぐっ……」
「ぁああああっ……!!!」
ぶわり、腹の奥で男が精を放ったのが分かった。だってそこから広がる熱が、僕を侵していくのだ。僕の中、隅々まで、それこそ指の先までを侵していく男の魔力。なんて悍ましい。
「ああ、ルディ……」
さほどの時間を置かず、男がまた動き出す。僕はただ、揺れている。
ああ。
ああ。
どうしてこんなことになったのだろう。どうして。
答えはどこにも見つからない。
+++
僕はこのファルエスタ王国の王太子だ。否、王太子、だった。あの男……――それまでほとんど会ったこともなかった、従兄弟であるらしいビュージェに今のように捕らえられるまでは。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあああぁぁ……あっ!」
僕はもうずっと、意識がある時にはほとんど常に男に揺さぶられていて、まともな思考もままならない状態に置かれている。
僕を満たすのは溢れるような男の魔力と、青くさい精の匂い。忌々しい男の白濁が、僕の体の奥深くにまで塗りこめられてでもいるかのよう、この空間でこの匂いがしないことがなく、僕はそんなものを気に賭ける余裕もなく。
「あぁっ!」
がつんっ、と腹の奥を暴かれる。容赦のない突き上げは、僕の思考を途切れさせた。
「愛している、ルディ」
愛している。
まただ。男がまた、それを唱える。
「ぁっ、ぁっ、んっ……が!」
僕は何も応えない。ただ、喉から上がる悲鳴を垂れ流し、涙と涎で顔中がぐしゃぐしゃに汚れるに任せるだけ。
男は構わず、僕の頬に唇を這わせた。
「ああ、ルディ……」
ルディ……愛している。愛している。
僕にはわからない。男の言葉の意味も、なぜ男が僕にそんなことを唱えるのかも、何もかも、全部。わからない。
「ああ!」
また、腹の奥をひときわ強く突かれて、僕はがくんと仰け反って。脳みそが白く、溶けていった。
あの日、僕はまだたったの16歳だった。
あの日は僕にとって、特に何かあるような日ではなかった。
いつも通り。いつもの日常。
僕はいつもの勉強の合間に、その時ちょうど自室で寛いでいて。
ふと、城中が騒然としていることに気付いた。
遠く、喧騒が煩い。
気になって席を立った。
気を利かせた護衛が、様子を確かめてくると部屋を出ていき、そして。
段々と近づいてくる喧騒。激しい剣戟の音。何が、起こっているのか。何かが起こっていることはわかる。きっと良くない何かだ。だが、何か起こっているのかがわからない。
身の内を駆け回る嫌な予感に支配され、落ち着かない気持ちで立ったまま、座ることもままならない僕の部屋の近く。ひときわ激しい、何かが争う音が聞こえて、そして。
バタンっ、勢いよく開け放たれたドアの向こう、姿を現したのは見覚えのない一人の男だった。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、」
意識が戻る。僕はまだ揺れている。僕の喉から漏れる声はただの反射だ。
いつものことだった。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、」
「ルディ、ルディ、ルディ……」
男が僕の上で腰を振る。僕の名を呼びながら腰を振る。僕は男の動きに合わせて揺れて、揺れて。
「あ!」
腹は、男によって穿たれたままだった。そこで感じるのは、もはやただの衝撃だけ。快楽や、疼きや、あるいは苦痛は、時折戻ってきては遠ざかった。
「ぁっ……」
また、腹の奥、広がる熱。麻痺しきった僕の下肢では、濡れる感覚も漏れる感覚もすでに何もわからない。そこにあるのはただの熱なのだ。熱く、恐ろしく、僕に満ちていく。
「ああ、ルディ、愛している、愛しているんだ……なのにどうして」
どうして。
男が嘆くように僕の腹を撫でた。
「ああ、また散っていく。ルディ……」
男がまた動き出す。何かを取り戻すかのように、否、零れ落ちたそれを、掬うように?
終わりのない行為。
僕にとっては、終わりのない悪夢。
ああ。
「愛している」
また、その呪文。
男は背が高く、体つきもがっしりしていた。顔は、見たことがあるような気もした。過去に一度か二度会ったことがあるのかもしれない。だが、その程度。紫色の長い髪をしていて、身に着けている服は、多分、黒かった。
多分、とつくのは、男があまりに血臭を纏わりつかせていて、全身のいたるところを血で汚していたからだ。服の元の色が分からなくなりそうなほど濡れて。黒い服なのにそうとわかるぐらいに赤い。赤い。
それは、ほんの経った今まで男自身が、何かをたくさん切り捨ててきたことを示していた。その証拠に、男の手にある剣の剣先からは、どす黒く赤い血が滴っている。
「ひっ!」
僕は震えた。驚きと恐怖に、凍り付く体を仰け反らせる。じり、知らず足が後ろに下がった。
何が、どうして……これはいったい。
「ルディ」
男が笑った。
僕を見て、本当に嬉しそうに笑って。
僕が感じたのは背筋が凍りつきそうな恐怖だった。
どうして男は笑っているんだ。何がどうして、今の、この状況はいったい。
「る、ルディ様っ……」
僕と一緒に、一瞬固まっていた、もとより部屋の中にいた女官の一人が、いち早く我に返って僕を庇うように前に出る。
そんな女官の行動に、男が眉を寄せるのがどうしてかその時の僕にはっきり分かった。
「……邪魔だな」
男の、口が動く。手、が動く。そして。
次の瞬間、僕の目の前で、僕を庇っていた女官の首は、ごろりと足元に落ちていた。
「ぁっ、ぅわあああぁぁぁ……!!!!!」
僕の喉を、悲鳴が迸った。恐怖と、衝撃に、そうせずにはいられなかった。
うるさいほどだろう僕の悲鳴に、男はまた笑って、笑って。
「ああ、ルディ」
男の手が僕に伸びる。血に濡れた真っ赤な手が、僕を。
捕えて、きつく抱きしめた。
ああ。
揺れる、揺れる、視界が揺れる。
体ごと、揺さぶられている。
僕の喉は枯れて、涙は枯れず。
なのにその涙さえ、男が嬉しそうにすすった。
ああ。
腹の奥はもうずっと穿たれて。僕の意識がある時に、男が居座っていなかったことがない。
ああ。
僕は、もう。全て、奥の奥まで、この男に。
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