20 / 22
19・嵐の中心のような少女。⑧
しおりを挟む「大丈夫? リーシャ」
大きく溜め息を吐き出してしまう私を窺う殿下は変わらない。
良くも悪くも。こういった対処に関しては本当に役に立たないまま、けれど私を気にかけてくれていることだけはわかる。
勿論、殿下は誰のことであっても気にかけるし、誰に対する態度だって柔らかで優しい。けれど、その日中と言えば良いのか、熱情を、一番傾けてくれている相手は、どうやら私のようだということは、これまで共に過ごしてきた中で、よくよく私にはわかっていて。
だから今も、気遣わしげにこちらへと声をかけてきた殿下に、私は曖昧に頷いた。
疲れを隠さず、けれど微笑む。
「大丈夫、とは言い難い状況ですわね」
問題と言えるようなことは今の所、どうやら彼女のことぐらいだ。
他はそれなりに、どれもこれも上手く回っている。
処理なども例年と同じ。煩雑で多いがそれだけ。
とは言え、彼女のことだけにもかかわらず、どう対処したものやらと頭を悩ませることが多すぎて。
「えぇ―っと、それってあの……」
「ええ、セミュアナ様に関してのことです」
殿下にも私を悩ます要因はすぐに分かったのだろう、途端泣きそうに顔を顰めた。
「ぼ、僕があの日、あの女の子を振り払えなかったから……?」
殿下は決してバカではない。
今の状況やご自分の気性もしっかり把握なさっていらっしゃるし、皆がそれを気遣い、動きづらくなっていることも理解しておられるのだ。
それなのに変われないご自身を、殿下が少しばかり疎んじておられることを、他でもない私は知っていた。
だから小さく首を横に振る。
「それは確かに、殿下のあの日の態度に、問題がなかったとは申しません。ですが、だからと言って全てが殿下の所為なわけがございませんでしょう?」
何よりおそらく彼女の行動は、誰に強制されたものでもない。
ましてや、あれ以来関わっていないらしい殿下に、どうして、何かできたというのだろう。
「でも、あの、あの子、こっちに近づいてこようとはしてるみたいだし……」
しかもかなり頻繁に。
それもまた、報告を受けているうちの一つだった。
「ラーセが、しっかり務めを果たしてくれているようですね」
もしくは、ラーセの補佐に付いているウーシュが。
男らしく雄々しいラーセと比べると少々線が細く、頼りなく見える所のあるウーシュは、ラーセを補佐するように殿下の側近く、護衛として控えてくれているうちの一人だった。
ラーセもウーシュも殿下と同じ年で、学友としての側面も持ち、教室でも机を並べている。
彼女の急襲を受けてから、彼らはより殿下から離れないことにしたらしく、それまではどちらかが交代で殿下の側に控えていた所を、ここしばらくは二人ともが殿下から離れないようにしているらしい。
そんな二人が、殿下とは関わらせないようにしているだけで、件の彼女は殿下へと、幾度も近づいてきているのだとか。
それは言ってしまえば学園内の生徒や教師全員が、把握していることでもあった。
おそらくは殿下が一番被害を受けておられるのでは、と思われるほどである。
彼女が殿下と接触したがっているのは明らかだった。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる