14 / 22
13・嵐の中心のような少女。②
しおりを挟むセミュアナと名乗った少女は、非常に可愛らしい容姿をしていた。
ふんわりとした癖のあるセミロングの髪は濃いピンク……というよりは、ややピンクがかった艶やかな赤髪で、焦げ茶色の瞳は透き通って輝いている。
くっきりとした二重の、ぱっちり大きな目には髪と同じ色味の、けれどそれよりずっと濃い、瞬きの度にバサバサと音がしそうな程、びっしり生え揃った長い睫毛。
丸みを帯びた頬を健康的なバラ色に染めて、やや尖った色づいた唇は少しだけ厚めに見えた。
決して高くはない鼻も相俟って、幼さを感じさせる顔立ちは、きっと、人によっては庇護欲をそそられることだろう。けれど。
何より、苛烈さを秘めた眼差しが、そんな容姿全てを裏切っている。そもそもからして。
(殿下の方が可愛いわね)
にっこりと微笑んでいるはずなのに、どうしてか笑っているようには感じられない彼女の側、とは言え絶妙に距離を取りたがっているのがわかる位置で、縋りつくような視線を私へと注ぐ我が婚約者殿は、今日も今日とてまるで雨に濡れた子犬のようにプルプルと震えていた。
潤んだ目尻にはたっぷりの涙を添えて。
ああ、全く殿下と来たら!
何をどうすればいいのやらと、一瞬迷いそうになったが、一番初めにすることなど決まっている。それはすなわち、
「殿下。まずはこちらへ」
殿下の救出である。
私が声をかけた途端、ぱぁっと顔を輝かせて、
「う、うん、わかったよ、リーシャ!」
やや弾んだ声で返事をし、いそいそと私の隣へと移動してくる。
なんと言えばいいのか……なんだか、飼い主に呼ばれた犬みたいだな、と一瞬思ってしまったが、いつものことであるし、まぁいいかと気にしないことにした。
そんな殿下に少女の眉がピクリと動いたことがわかる。
(……――ポーカーフェイスが、なっていないわ)
貴族らしくない。どこか、吐き捨てるような気持ちで、私は顔にも声にも出さず、心の中でだけ。ひっそりとそう呟いた。
キュディアム子爵家へと、正式に迎え入れられたと言っていたのだったか。
国内の貴族の情報を頭の中で思い出していく。
彼女の名乗った家名には、確かに覚えがあった。
ただし、良くも悪くも特色のない家だったはずだ。
広いとも狭いとも言い難い、子爵家に見合ったほどよい広さの領地は、特にこれと言った特産品があるわけでもなく、かと言って困窮しているというわけでもなく。
当主となる子爵本人の人柄はどうだっただろうか。
おそらくは彼女の父親に当たる人物であるはず。
すぐに、やや意志の弱そうな、頼りない印象の男性の姿が思い浮かんだ。
改めて見てみると、どことなく彼女に似た顔立ちだったようにも思う。
丸みを帯びた輪郭だとか、高くはない鼻だとか。
けれど、同時に思い出した彼の伴侶たる人物には、逆に彼女の他の部分と、似た要素はひとかけらも存在していなかったように記憶していた。
11
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。
公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「公爵令嬢エイプリル・カコクセナイト、今日をもって婚約は破棄、魔女裁判の刑に処す!」
「ふっ……わたくし、嘘は嫌いですの。虚言症の馬鹿な異母妹と、婚約者のクズに振り回される毎日で気が狂いそうだったのは事実ですが。それも今日でおしまい、エイプリル・フールの嘘は午前中まで……」
公爵令嬢エイプリル・カコセクナイトは、新年度の初日に行われたパーティーで婚約者のフェナス王太子から断罪を言い渡される。迫り来る魔女裁判に恐怖で震えているのかと思われていたエイプリルだったが、フェナス王太子こそが嘘をついているとパーティー会場で告発し始めた。
* エイプリルフールを題材にした作品です。更新期間は2023年04月01日・02日の二日間を予定しております。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います
真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...
完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
水鳥楓椛
恋愛
わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。
なんでそんなことが分かるかって?
それはわたくしに前世の記憶があるから。
婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?
でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。
だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。
さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる