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第3章
3-8・再会
しおりを挟むリティアは悲しかった。
見知らぬ男が投げ捨てて言った言葉が心を抉る。
そっと、自分の腹部へと視線を落とした。
今ばかりは時を止めているそこには、新たな命が息づき始めていた。
まだ子供に成り始めたばかりの魔力。きっとペクディオもまだ知らないだろうそれ。
次にペクディオと会ったなら、伝えようと思っていたのに。その矢先、リティアはわけもわからないまま、こんな所へと押し込められて。
自分がペクディオに会わなければ。そうすれば今頃、ペクディオは、以前と変わらずにいられたのかもしれない。だけど。
ペクディオはリティアを慈しんだ。とても大切に愛してくれた。
『リティア』
そう、リティアの名を呼んで、幸せそうに微笑んだペクディオの顔を、リティアはよく覚えている。
あれほどの幸いが、なかった方がよかっただなんて思えない。なのに。
もしかしたら、リティアがいることでペクディオが害されるかもしれない。そう、想像するだけで、リティアの胸は張り裂けそうだった。
せめてペクディオが無事でいれば。そう願うことしかできなかった。
と、そんな風に悲しみに暮れるリティアは、だけどすぐに気付いて、はっと顔を上げる。
近づいてくる気配を、間違えるはずなんてない。
「――……、へい、か……?」
それはペクディオの気配だ。
どんどんとこちらへと近づいてくる。
助けに来てくれた!
そう思った。
わけのわからないこんな状況から、きっとペクディオは救い出してくれる。だが、次いで、もしかしたら、害されるために連れて来られているのかもしれないとも考える。
それはいけない、そんなのはダメだ。
想像すると恐ろしくて堪らず、リティアはカタカタと体を震わせはじめる。
リティア以外には誰もいない地下牢は、いつも通りの顔をして其処にあった。
そんな中で、リティアだけがいつも通りではなく怯えている。
『死を持ってお前から解放することだけ』
見知らぬあの男の言葉が忘れられない。
もしそのようなことになったら、リティアはいったいどうすればいいのか。
「陛下」
悲しかった。悲しくて悲しくて、だけど、そんなリティアに構わず、気配はどんどん近づいてきて、そして。
「ああ、リティア!」
慕わしく、愛しい。
ペクディオの声が、リティアに届いた。
「陛下っ……!」
カシャン。
鉄格子の中にある扉の鍵が開けられる。
ペクディオが足を踏み入れた。そんな彼に、リティアはいてもたってもいられず飛びついて。
ぎゅっと、リティアを抱きしめてくれたペクディオは、いつも同じ、少し憔悴にかやつれてはいたけれど、損なわれた様子などは何処にもなかった。
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