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第3章
3-1・大切なもの
しおりを挟むペクディオは焦っていた。リティアが見つからない。
どれだけ探させても全く見つからず、影も形も痕跡さえ、何一つ掴むことが出来なかった。
否、本当に探しているのだろうかと疑問を持つ。
元々ペクディオの周りには、リティアの存在を快く思っていない者達しかいない。そんな者たちに命じて探させて、その者たちは本当にリティアを探しているのだろうか。
疑心暗鬼に駆られたペクディオは、自分の国のことであるはずなのに、周りにいる誰もかれもを信じることが出来なくなっていった。
そもそも王になど、成りたくてなったわけではなく、そう生れついただけだった。
王族に生まれた責任とやらを説かれ、その義務は果たさねばと、民を飢えさせるわけにはいかぬとそう思って、王としての采配を振るってきた。だけど。
『では陛下は、国よりも彼のお方ただ一人の方が大事だとでもおっしゃるのですかっ?!』
文官の言葉を思い出す。
国よりも。
当然、国の方が大事のはずだと、決めてかかっているかのような言葉だった。
こうなってからこちら、ペクディオにそのようなことを言ってきたのはあの文官一人だけだったが、それがおそらく城に勤める者全員の総意であろうことを、ペクディオは疾うに悟っていた。
国などと。
どうしてリティアが比べられるというのか。
ペクディオのような竜王族にとって、リティアのような番の存在は唯一だ。唯一であり、絶対。
他の何に変えられるようなものではない。
そもそも、己の番一人守れなくて、どうして国を守れるというのだろう。
今、実際に、自分の番と引き離されている己を思った。
リティア一人守れない己に、玉座に座っている資格など、きっとはなからなかったのだ。
国などよりも、よほどリティア一人の方が大切だとしか思えない己になど、きっと。
「くそっ」
拳を、机に打ち付ける。
ペクディオは決めた。
絶対にリティアを見つけ出す。
もしかしたらもう害されているかもしれない、そんな恐怖を押し殺し、しかし彼女は大変に魔力量が多いから、きっと大丈夫だと自分を慰めた。
そうとなれば、このような場所にいても意味などない。部下など誰一人当てにできないのだから。かといって、ペクディオ一人でどれだけ探しても見つからなかった。リティアは何処にいるのか。そうなった時に。頼れる存在など、ペクディオには彼らの他に、いるはずがなかったのである。
彼ら。
そう、これまでリティアを育ててきた、精霊の島にいる、精霊たち以外には、誰も。
ペクディオはすぐにも部屋を出た。
竜を駆り飛び立つ。誰にも知らせなかった。
目指すのは精霊の島。向かうのはペクディオとペクディオの駆る竜、一人と一匹だけだった。
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