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第2章
2-14・魔女を害する方法
しおりを挟むこの魔女をどうにかしなければならないと文官は考えていた。
王が離宮に囲っていた魔女が、年若く美しい小娘だと聞いて、ひとまず捕らえ、この地下牢につないだ時は、それからあとのことなど考えてはいなかった。
否、陛下の洗脳が解けさえすれば、きっと陛下が適切な判断を下してくださるだろうとそう考えて、あえて何もしていなかったと言っていい。だが、陛下の洗脳はいまだ解ける気配を見せず、ならばいっそこの小娘を、どうにかしてしまわなければ解けないのかもしれないとしか思えなかった。
美しい娘だ。
見ただけでわかるほど魔力量が多い。
これほどの魔力量など、魔獣でもきっとなかなかいない。ならばきっとこの娘は、魔物の類なのである。何故なら、この娘の持つ魔力量は、人間の持つそれをはるかに上回っているのだから。そんなものが魔物でなくて何だというのか。
なぜ、この国に、陛下の前に現れたのか。美しい容姿を装い、陛下を誑かし洗脳して、この国を滅ぼしにでも来たのかもしれない。
自分がこの国を、陛下を守らなくては。この忌々しい魔女の手から、きっと。
文官は知っていた。文官の賛同者は多く、むしろ陛下の周りの者たち全員と言ってもいいほどであることを。
誰もがこの魔女を危険だと考えている。
これまではそれほどでもなかった者達さえ、この一週間ほどの陛下の様子を見て、危機感を募らせたようだった。
この魔女はダメだ。陛下のお傍には置いておけない。
だが、そもそもどうしてこの魔女はそんなことを試みているのか、文官は考えては頭を横に振った。
魔物の思惑など、人間が理解できるわけがないのである。そのような物理解せずとも、この魔物が悪しき者だということだけがわかれば充分。
何とかして亡くしてしまわなければならないと心に決めてはいたのだが、その方法がないだろうことを、文官は彼女を目の前にして、同時に痛感せざるを得なかった。
あどけなく首を傾げる小娘の魔力量は凄まじく、こうして対峙しているだけで、気圧されてしまいそうなほどで。これを害せる者など、今、この国に存在しているとは思えなかった。
ペクディオでさえもきっとできないだろう。
そんな魔物をどうやって退治すればいいというのか。
陛下の洗脳を解けと、言葉で告げてみても、意味が解らないと装うばかり、なんとも小賢しい魔物だ、そんな風に見せかけたからと言って、こちらが騙されるはずなどないというのに。
忌々しい。本当に忌々しいことだった。
「この魔女めっ、何が目的か知らんが、早く陛下の洗脳を解けっ! さもなくば……」
さもなくば。
その続きを、男は続けられなかった。
だってわかるのだ。目の前のこの魔物を、男は害せない。否、害せる者などこの国にはいないのだ。この国で一番魔力の高いペクディオが、他でもないこの魔物に洗脳されている今は余計に。
我が国が誇る竜でさえこの魔物には敵わないだろう。
毒が効くとは思えず、きっと攻撃しても防がれてしまう。よしんば一太刀浴びせられたところで、頭を潰しでもしない限り、この魔力量では瞬時の再生も可能だろう。
全く厄介な魔物だった。
文官は魔物を睨みつけたまま考えた。不思議そうな顔をした魔物。か弱い人間の小娘を装っている。美しい姿をした魔物だ。
これをどうにかする為に。
文官が思い当たったのは、魔力の多い人間の死因が、ほとんど自殺のみだという事実だった。
極端に魔力の多い人間は、今、目の前にいる魔物と同じく、毒も効かなければ老いもせず、少々の外傷なら瞬時に治せてしまうのだ。そんな死ねない彼らが死ぬ方法はただ一つ。それは自殺。
自らで自らの息が止まることを願うこと。
そうするだけで彼らは容易く死ぬことが出来た。
きっとこの魔物も同じだろう。
この魔物に、絶望を与えることが出来れば、あるいは。
そう考えて、文官の口から次に滑り落ちたのは、自分でも思ってもみないことだった。
さもなくば。
「お前に洗脳された陛下などこの国には要らぬっ! 陛下をお救いする方法はきっと、死を持ってお前から解放することだけだろう」
そんなことを告げた文官の言葉を聞いた瞬間、見る見るうちに小娘が顔色を変えていくのがわかって。
ああ、そうか、こうすればよかったのか。
文官は笑い出したい気持ちで、自身の口角がつり上がっていくのを感じたのだった。
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