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第2章
2-3・いつかの日常②
しおりを挟むリティアにはしなければならないことが何もない。食事の用意や洗濯など、身の回りの様々なことの多くは、妖精たちが言わずとも整えてくれた。
勿論、リティアも可能な限り手伝うけれど、それらが一日全てを使ってしまうというようなことはほとんどなく、自由になる時間がいくらでもあった。
ともすれば暇を持て余しそうな状況で、しかしリティアは暇など感じたことがなかった。
常に数人の精霊が傍にいたということもあるし、周囲にはリティアの好奇心を刺激するものがあふれていたせいでもある。
取り分け、先人の残した非常に多くの書物は、リティアを容易く夢中にさせた。
寝床としている部屋を、書物がたくさん残されている、おそらくはかつての図書館のようなものだっただろう建物のすぐ近くに設定する程度には。
その日もまた、リティアは手が空いたらすぐに書物へと向かった。
「リティア、これがおすすめよ」
などと精霊が進めれくれるままに幾冊かの本を手にし、適当な場所で座り込む。
紙をめくるリティアの手元をのぞき込んでくる精霊と共に、初めて目を通す物語の中へと引きずり込まれていった。
文字を読むことや、日常生活の作法なども、リティアに授けたのは全て精霊たちで、そしてそんな精霊たちがどのような存在なのかは、これまでに読んだ幾つもの書物が指示していた。
つまり、人知を超えた尊き存在であるのだと。
この世界が魔力で構成されていることも、精霊術の存在も、また、リティア自身の魔力量が多く、勉強や練習次第で、きっと行使できない魔法魔術の方が少ないだろうことも。全て、精霊と書物が教えてくれる。
満足するまで書物に浸ったら、次にリティアは近くへと散歩に出かけることにした。
ここにあるのは主に緑で、森の中、埋もれるようにして、かつての文明の痕跡が所々うかがえるばかり。
リティアにとっては見慣れた光景で、しかし、このような場所が多くはないのだとも精霊たちに教えられていた。
ここは特別。
リティアの為の場所。
歌うようにリティアの周りを飛ぶ精霊は、人形の時もあれば、小さな鳥の形の者もいて、かと思えば、獣そのものの様子で足にすり寄ってきたりする。
精霊たちに明確な形などなく、その時々で気分によって姿をくるくると変えて見せた。
もっとも、リティアが精霊王と呼ぶ青年の姿の精霊のように、基本的には特定の姿を取り続ける精霊もそれなりに存在したのだが。
いずれにせよ、周囲を散歩する時に限っては、形を定めない者たちがついてくることが多く、リティアも彼らにつられるようにというのではないけれど、ふらふらと目的を決めずに足が赴くままに先へ進んだ。
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