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第1章
1-6・二人の日常
しおりを挟むペクディオが名を呼ぶと、リティアは素直に彼へと体を預けた。
「今日はどう過ごしていたんだい?」
リティアの華奢な体を抱き寄せたまま、ペクディオはいつも決まってそんな風にその日一日の出来事を彼女に訊ねた。
リティアはくすくすと楽しそうに笑う。
「いつもと変わりませんわ。朝起きて、身支度を整えて、食事を摂って。その後は……――ああ、ほら、そこに。今日は編み物をしていましたの。今、少し凝った網目に挑戦していますのよ?」
近くに置いてあった、先程まで手にしていたそれらを指すと、ペクディオはなるほどと頷いた。
「リティアは器用だから、きっと素晴らしい仕上がりになることだろうね」
「まぁ、陛下ったら。褒めすぎですわ」
「真実さ」
穏やかに囁くペクディオの腕の中で、リティアは本当に満ち足りたという風に笑っていた。
なお、ペクディオの言うことは本当で、リティアは非常に起用だった。
否、何事に対しても優秀だったというべきだろうか。
この離宮には、彼女が退屈しないようにとありとあらゆるものが揃えられている。
編み物や手芸の道具はもとより、壁を埋め尽くすような書物や、他にもたくさん。時間を潰せるようなものであるなら何でも。
ないとすれば、剣や弓のような武器ぐらいだろうか。
竜騎士でもなければ、誰も訪れることの出来ないこの離宮に、それらが必要になるような危険など、降りかかるはずもなかったので。
精霊に育てられた彼女は、そういった人の営みに根付くものはきっと、見慣れないものばかりだっただろうに、少し教えるだけで、どれもこれもを非常に器用にこなして見せた。
今のような編み物もそうだし、はじめは、口に会うかもわからないとこわごわ出された料理だって、贅沢に慣れたペクディオの舌をうならせるほどで、書物などを読むスピードも非常に早かった。
おかげで今の彼女は知識だけなら、あらゆることを知っている。
その上更に、見た目も見惚れるばかりに美しい。白銀の髪に淡い水色の瞳は、彼女こそが精霊のようだった。
だが、そもそも自分以外の人間など、ペクディオの他には通いの女性ぐらいしか知らないリティアは、それらがどれほど素晴らしいものなのかなどを全くわかっていなかった。
故にペクディオからの誉め言葉も全て戯れだと受け取っている。
ペクディオはペクディオで、それらがわかっていてなお、それ以上言い聞かせることもなく、リティアの謙虚とも言える姿勢に、胸を熱くするばかりだった。
自分の番は、何もかもが素晴らしいと、そう。
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