上 下
24 / 32
第四幕

4-1・雨の中

しおりを挟む

 俺は東北のあの田舎町に通った。
 休日の度に、ほとんど一日かけて足を延ばす。
 だって俺にはこれしかない。
 然乎ぜんこさんの手掛かりが、あの町しかなかったからだった。
 双子の妹だという少女には当たり前に連絡先など教えてもらえておらず、当然、住んでいる場所も知らず、わかっているのはあの町で見かけたというその一点のみ。
 高校生とは言っていたけれど、私服だったし、何処の高校に通っているのかもわからない。
 俺は彼女と会った場所で、ただ彼女が通りがかるのを待つしかなかった。
 俺はその町に行く度、あの神社に足を運んだ。
 階段を上がり切るまではあの日と同じ。でも、上がり切ったところにある景色は全然違う、小さなほこらのようなものしかない神社。
 必ずそこまで昇って手を合わせる。
 何度も通っている間に、あの日の景色より余程、見慣れてしまった。
 手を合わせ、でも今はいつも願っている。ただ、彼女に会いたいと。彼女にもう一度会えますようにと、そう。
 そうしてその後は時間が許す限り、あの少女と会った場所であの少女を待つのである。
 俺もその日中に家に帰り着かねばならないので、それほど長い時間は待てない。
 幾度通っても、少女とは会えないままで日々が過ぎた。
 どれぐらいの時間が過ぎただろうか。
 何度あの町に通っただろうか。
 少なくとも数ヶ月は経った頃、俺はまた、その場所に立っていた。
 あの神社のすぐ近く、駅までの途中の道。
 その日は、雨だった。
 家を出る時は降っていなくて、天気予報も雨じゃなかったので傘なんて持ってなくて。
 この辺りは田舎で、コンビニもなくて、傘が買えるような場所もなくて。
 俺は濡れたままその場に立っていた。
 神社にも濡れたまま参って、手を合わせて、そして其処に立っている。
 ずぶ濡れの俺に不審そうな目を向けながら、何人かの人が通り過ぎていった。
 どれだけそうしていただろうか。
 それほど長い時間ではない。
 もうそろそろ帰路に就かなければと、溜め息を吐いた時、ふと、影が差して、誰かが傘を差しかけてくれていることに気付いた。
 誰だろうか。
 ほんのつい今まで、人影なんてなかったのに。
 顔を上げて驚く。
 そこにいたのは、物凄く不本意そうな顔をした、あの、然乎さんの双子の妹だと名乗る少女だった。
 彼女は彼女で、自分の傘を差していて、もう一つの傘をわざわざ広げて、俺に差し掛けてくれている。
 少女の肩が、ほんの僅か、雨が跳ねたのだろう濡れていた。
 あの、初めて会った時以来の少女の姿に、俺は泣きたい気持ちで微笑んだ。

「然乎さん……」

 口から滑り出たのは彼女の名であって、彼女のことではなく。
 それが分かったのだろう少女が、これでもかと顔を歪める。
 そんな少女の様子が、なんだかひどく、おかしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...