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第四幕
4-1・雨の中
しおりを挟む俺は東北のあの田舎町に通った。
休日の度に、ほとんど一日かけて足を延ばす。
だって俺にはこれしかない。
然乎さんの手掛かりが、あの町しかなかったからだった。
双子の妹だという少女には当たり前に連絡先など教えてもらえておらず、当然、住んでいる場所も知らず、わかっているのはあの町で見かけたというその一点のみ。
高校生とは言っていたけれど、私服だったし、何処の高校に通っているのかもわからない。
俺は彼女と会った場所で、ただ彼女が通りがかるのを待つしかなかった。
俺はその町に行く度、あの神社に足を運んだ。
階段を上がり切るまではあの日と同じ。でも、上がり切ったところにある景色は全然違う、小さな祠のようなものしかない神社。
必ずそこまで昇って手を合わせる。
何度も通っている間に、あの日の景色より余程、見慣れてしまった。
手を合わせ、でも今はいつも願っている。ただ、彼女に会いたいと。彼女にもう一度会えますようにと、そう。
そうしてその後は時間が許す限り、あの少女と会った場所であの少女を待つのである。
俺もその日中に家に帰り着かねばならないので、それほど長い時間は待てない。
幾度通っても、少女とは会えないままで日々が過ぎた。
どれぐらいの時間が過ぎただろうか。
何度あの町に通っただろうか。
少なくとも数ヶ月は経った頃、俺はまた、その場所に立っていた。
あの神社のすぐ近く、駅までの途中の道。
その日は、雨だった。
家を出る時は降っていなくて、天気予報も雨じゃなかったので傘なんて持ってなくて。
この辺りは田舎で、コンビニもなくて、傘が買えるような場所もなくて。
俺は濡れたままその場に立っていた。
神社にも濡れたまま参って、手を合わせて、そして其処に立っている。
ずぶ濡れの俺に不審そうな目を向けながら、何人かの人が通り過ぎていった。
どれだけそうしていただろうか。
それほど長い時間ではない。
もうそろそろ帰路に就かなければと、溜め息を吐いた時、ふと、影が差して、誰かが傘を差しかけてくれていることに気付いた。
誰だろうか。
ほんのつい今まで、人影なんてなかったのに。
顔を上げて驚く。
そこにいたのは、物凄く不本意そうな顔をした、あの、然乎さんの双子の妹だと名乗る少女だった。
彼女は彼女で、自分の傘を差していて、もう一つの傘をわざわざ広げて、俺に差し掛けてくれている。
少女の肩が、ほんの僅か、雨が跳ねたのだろう濡れていた。
あの、初めて会った時以来の少女の姿に、俺は泣きたい気持ちで微笑んだ。
「然乎さん……」
口から滑り出たのは彼女の名であって、彼女のことではなく。
それが分かったのだろう少女が、これでもかと顔を歪める。
そんな少女の様子が、なんだかひどく、おかしかった。
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