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第二幕
2-6・あの日々は夢か幻か
しおりを挟む初めの駅が見つからなかった時点で、その先など、勿論見つかるはずはなく。
続けて休日だった翌日も、同じように実際に電車に乗って、今度は逆側も探してみたけれど、そちらにはいつも出勤で通い慣れた風景しかなく、やはり何も見つかりはしなかった。
いったいあそこは何処だったのか。
わけのわからない焦燥が俺を襲う。
あの日。確かに俺は然乎さんと電車に乗った。見慣れない駅で降りて、のどかな田園風景の中を歩き、見知らぬ神社から緑豊かな景色を見下ろした。
他にも滝や、大木などの元を巡って。あの休日は確かに現実だったはずなのに、今となっては行く道々の記憶が、まるで幻のように朧気で。
然乎さんに任せっきりだった弊害だろうか。
揺れる豊かな彼女の黒髪の残影しか俺の中には残っていなかった。
「然乎さん」
彼女が俺の元へと訪れなくなってから数週間。
その前の数か月など、全く存在しなかったかのように彼女の痕跡は何もなく、俺はまるであの日々が、幻だったのではないかとまで思い始めていた。
そもそもいろいろとおかしかったのだ。
神様、だなんて。
そんな、いるはずもないものを自称する女子高生。
キレイで、かわいくて、だけど気味が悪かった。
しっかりと施錠して外出したはずの俺の部屋に、いつの間にか入り込み、かと思えば、キッチンを使用し、自分の分の夕飯を用意してはそれを自分で平らげて。
それだけ。たったそれだけの存在だった。
願い事、なんて曖昧なものを求められ、たった一度きり向かったおでかけさえ、やはり、幻のように俺の記憶の中にしかない。
然乎さんと共に過ごしている時に、他の誰かに会ったことはなく、あのおでかけの時でさえ、そう言えば周囲に人影が存在しなかった。
どうして今まで不審に思わなかったのだろうか。
俺はいったい誰と会って、いったいどこへ行ったというのか。
わからない。わからなかった。でも。
「違う、ココじゃない」
どうしても彼女を忘れられない俺は、ネットや雑誌で、まるで唯一の手掛かりかとでもいうかのように、あのおでかけの日に巡った場所のうちの何処かを、必死で探すようになっていた。
でも見つからない。どれだけ探しても見つからない。
何処にでもありそうな田園風景だった。
何処にでもありそうな、神社だった。
緑豊かな田舎の風景。何度地図を見返したって、俺の住んでいる場所の近く、電車で十数分で行ける場所にそんな所はない。
ならいっそ遠くだろうか。
どこかにあるはずなのだ。だって俺は確かに、そこに足を運んだのだから。
「然乎さん」
彼女の面影は、気付けばまるで霞のように、俺の手をすり抜けていくばかりだった。
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