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第二幕
2-2・嬉しそう
しおりを挟む俺は早速、次に然乎さんと会った時にその話をしてみた。
「健康、ですか」
いつも通り、帰宅したら何故か俺の部屋に上がり込んでいた然乎さんと向かい合わせに座って、やはりいつも通り、それぞれに別な夕飯を摂っているさなか。
忘れないうちにと、それについて口に出した俺に、然乎さんはきょとと首を傾げる。
そろそろ見慣れてきた、艶やかな彼女の黒い髪が、肩の辺りでさらと揺れた。
然乎さんはしばらく考える。
「難しいんですか?」
条件に、そういったものもあっただろうか。
全部は覚えきれていない俺は自信がない。
不安そうな顔をしてしまっていたのかもしれない俺に気付いた然乎さんは笑って首を横に振った。
「ああ、いえ、難しいというわけじゃないんですけど……うーん、でも、そうですね。いいと思いますよ、健康」
そう、肯定するような言葉を紡ぎながらも、でもと続ける。
「健康、っていうのは、別にいいんですけど、でももうちょっと具体的である必要はありますね」
それそのものが難しいだとかそういう話ではないらしい。
「具体的?」
「ええ、そうです、具体的。漠然と、健康でありたい、だけだとどうしても難しくて、ならいつまで、とか、それはどういう意味で、とか、やっぱり補足は必要になってきちゃいます」
言われて確かに俺も納得した。健康、と一口に言ってしまうと、意味が広すぎるのだろう。
漠然とした願い事だと、いくらでも拡大解釈が出来てしまう。
噂に聞く悪魔の契約と同じだ。その点、具体的に、なんてリテイクを要求してくる然乎さんは、神様だけあって誠実なのかもしれない。
「私たちは曖昧な願い事だと叶えられないんです。健康、ってのは別にいいんですけど、もう少し具体性は必須ですね」
もしかしたらそれは、俺の覚えきれていない条件の一つだったのかもしれない。
俺は少し考えてみたけれど、具体的に、と言われてもやはりすぐには願い事を固めきれなかった
「うーん、具体的にかぁ……それってつまり、死ぬまで大病にかからない、とかでも曖昧過ぎるってことですよね」
「そうですね、今度は大病に指定が必要になります」
なかなか難しい。
悩む俺を見て然乎さんは笑った。
「ふふ。でもいい傾向ですね。やっぱりおでかけしてよかった」
今まで何も答えられなかった俺が、たとえ固めきれていないようなものだとしても、願い事を口に出したのは然乎さんにとっては一歩前進したようなものらしく。
嬉しそうにしている然乎さんを見て。俺は、これは本当に早く、願い事を決めてあげなければいけないなと、少しばかりの焦りを覚えたのだった。
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