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第一幕
1-1・戸締り①
しおりを挟む今日も今日とて疲れ切って家に帰る。
仕事は相変わらずくそだ。
俺の仕事は小さな繊維会社の営業事務で、部長である上司の下、社内の書類仕事などを作成するのが主な仕事だ。
仕事そのものはそれほど難しいものではなく、敢えて言うならば会社独自のシステムだとかいう社長自慢それが、案件の検索一つかけられない前時代的な物であることが不満な程度。それだって、紙の書類をめくれば済む話で、多少の慣れは必要だとは言え、仕事内容そのものに難しいものなど何もなかった。
問題は上司や職場環境にこそある。
全社員合わせても50人もいないような小さな会社だからだろうか、社長や会長からその下の専務や部長まで。とにかく古い考え方の人間が多いのだ。
幸いにして俺の上司の部長は飲み会などが好きではないらしく、そういった強要をされないのだけが救いと言えば救いだが、これはパワハラでは? と思えるぐらいに詰られることなんて日常茶飯事で。
おかげで一部の人間以外の入れ替わりが非常に激しい職場でもあった。
新卒で入って以降、五年以上勤めている俺なんて古参の部類に入るほど。
それだけ人が入れ替わっているにもかかわらず、上司は会社の何がいけないのかがさっぱりわかっていないような会社だった。
つまり結局くそということだ。
正直とっととやめたいと思っている。給料だってそれほど良くもない。残業代と休日手当はしっかり出るが、そんなの当たり前の話。仕事内容は簡単ゆえに、本来なら残業など必要ない程度の物なのに、上司の無茶振りにより、しばしば深夜近くまで会社に居座る羽目になることがあった。
今日はそれでもまだ20時で、そこまで遅くなってはいない。
疲れ切っていることに変わりはないのだけれど。
いつも通りのルーティンでコンビニによって夕飯を調達する。
通い慣れた自宅マンション、誰も待っている人間なんていないはずの部屋は。しかし、鍵が開いていた。
「おかえりなさい、咲真さん」
エプロンをかけて出迎えてくれた、ここ最近見慣れ始めた女子高生の姿に、俺は思わず脱力する。
「また来ていたんですか、然乎さん」
「ええ。私はあなたの神様ですから」
この自称神様である女子高生との出会いは、少し前にさかのぼる。
今からどれぐらい前だっただろうか。確か2か月は経っていない。暑さの残る、秋だった。
いきなり俺を部屋の前で待っていた、神様だとかいう女子高生は、それ以来こうして度々俺の部屋に勝手に上がりこむようになった。
ちなみに俺は合鍵など渡しておらず、初めは驚いて部屋中を確かめてみたけれど、何かを盗られている様子もなく、そもそも盗られて困るような物もなし、戸締りだけしっかりするのなら、構わないかと開き直った。
なので今日のような場合は注意する。
「何度も言いますけど、然乎さん。家にいる時は鍵を閉めて下さい。俺は鍵を持っていますし、開けっ放しは不用心です」
勝手に入られることに関してはもう諦めているので何も言わない。
だけど彼女の返事はいつも同じで。
「心配下さっているんですね。ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。私、神様ですから」
にっこりとそう笑うだけ。
俺にはやっぱりわけがわからなかった。
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