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13・こんな色々を経て今の話、幸福。

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 そんな風に邪魔な僕が、とても頑張って、ラシェに『逆ざまぁ』されようとしたはずだったのに、どうしてこんなことになったのだろうか。
 きっと、僕がとてもよくないことをしたら、いくら僕を溺愛している父だって呆れて、僕よりラシェを選ぶと思った。
 否、それはある意味で間違ってはいなかったのだろう。
 いったいいつ終わったのかすらわからないぐらい、長い長い間ラシェに揺さぶられ続けた後、泥のように眠って、いったい今がいつのなのかさえ分からないまま起き上がった僕からは、あれほど感じていた不調が嘘のように消えていた。
 そうして目の前には穏やかに微笑むラシェ。

「ユリィ様、どうですか? 今、何かお体でおかしな所はございませんか」

 僕は呆然と目を見開きながら、ただぼんやりと首を横に振る。

「おかしな所なんて、ない……」

 否、おかしなところだらけと言うべきか。
 嘘のように体が軽い。頭なんて嫌にすっきりしていた。
 まるで世界が違ってしまったみたいだ。
 ラシェが心底ほっとしたとでも言うかのように息を吐く。

「よかった……どうやら上手くいったみたいですね。流石に私も、こんなにもたくさんの魔力を、ユリィ様の魔力へと変換しながら注ぐ・・・・・・・・のは初めてでしたので、少し不安だったのですが、問題なかったようで安心いたしました。すみません、ユリィ様。ユリィ様のご負担も考えず、途中からは私も夢中になってしまって……ただ、今は子供も成しておられますから、今後も魔力を注ぎ続けなければ、今の状態を保つことはできないでしょう」

 むしろ限界は、おそらく早くに訪れる。
 申し訳なさそうにそう告げるラシェに、僕はどう反応すればいいのかわからない。
 つまりそれは、今後もラシェに魔力を注いでもらい続ける限り、僕は今の状態のまま居られるということなのだろうか。
 こんな風に、頭痛や吐き気、倦怠感や眩暈など、そのような不調が何もない状態で過ごせる?
 それはなんて素晴らしいことだろう。
 今の僕は少し前、ラシェ自身がそう言っていた通り、これまで僕を苛んでいた全て・・が取り除かれた状態だった。
 代わりにもたらされたのは健全な心身と子供。
 今の僕の状態を保つために必要なのは、今後もラシェと体を繋ぎ続けること。
 それはいったいなんて、僕にとってだけ都合がいいことなのだろう!
 これ・・では僕だけが幸せだ。
 僕の負担などそんなもの、確かに、これまでとは違う体の軋みなどを今の僕は感じていたが、そんなもの、割れそうな頭の痛みや、上手く立ち上がれもしない眩暈なんかより何倍も良い。
 何よりそんな体の痛みでさえ、気付いたらラシェがさっと取り除いてくれている。
 これで何故、ラシェはそんな風に申し訳なさそうな顔などする必要があるというのだろう。
 僕は戸惑っていた。
 意味が解らないし、理解できない。だけど、体の軽さを自覚していくにつれ、気が付けば自然に笑っていた。
 たったそれだけだってふわふわと心が浮き立って。

「何故、そんな顔をしている? 僕はこんなにも体を軽く感じるのは初めてだ。ラシェは凄いな、ああ、本当に素晴らしい……!」

 胸がいっぱいになって涙があふれた。
 それは幸福ゆえの涙だった。
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