上 下
8 / 24

8・更に前の話の続きの続きの続き、目的。

しおりを挟む

 僕は元来あまりよくない頭を振り絞って必死に考えた。
 ミュリニエ嬢とラシェは、おそらく相性がまったくよくない。
 なにせミュリニエ嬢は僕を一切敬わない。それは忠誠心の厚いラシェにとっては大変に腹立たしいことだろう。
 また、生まれながらに高位貴族であり、厳しい王配教育を受けてきたラシェだ。
 庶民だとかの態度など、理解できないのではないかと思いわれた。
 ちなみに教育は半ばまで僕も一緒に受けていたのだけれど、途中から理解できなくなって悔しい思いをしたものである。
 同時にラシェはやはり大変に素晴らしい人物であるのだと再認識もしたけれど。
 ラシェが、いつぞや教えてもらった大衆小説の登場人物のように、明確によくない企みを持ってミュリニエ嬢に接するとは欠片も思わなかった。
 しかしそれは重要ではないのではないかとも考えた。
 どういった理由にせ、ラシェがミュリニエ嬢に対して、他の人にそうするよりも、大変厳しい態度であることは間違いがない。
 それで充分なのではないだろうか。
 そもそも、僕本来の目的からすると、理由などは何でもよいのだ。
 それというのも僕が目指していたのは、ラシェを断罪する『ざまぁ』ではなくて、ラシェからの『逆ざまぁ』だったからである。
 僕が愚かになればいいのだと思った。
 それこそ、見兼ねた父上から廃嫡されるぐらいに。
 『ざまぁ』宜しく、僕がラシェを断罪する。そしてその後、潔白であるラシェが、逆に僕に仕返しをするのだ。規律正しい生真面目なラシェのことだ、きっと自分の正義感に基づいて、僕を断罪し返してくれることだろう。
 そうなればいい。
 問題になるとすればラシェの高い忠誠心。
 ラシェは正しく僕を大切にしてくれているので。それを覆さなければならない。
 その為に僕は、大変に愚かである必要があった。
 それから僕は頑張った。
 とりあえず態度を出来る限り悪くして、愚かさを演出する。
 例えば、

「お前、なぜ俺様の前に立っているのだ? 脇に避けてこうべを垂れるのが筋というものだろうが」

 なんて、廊下で行き会っただけの男子生徒にものすごーく偉そうに告げてみたり。
 何度目か、

「ラシェ様がひどいんです~!」

 などとよくわからない告げ口をしてくるミュリニエ嬢を腕に抱いて、

「ラシェ。貴様、彼女を罵ったらしいな? そのような嫉妬など見苦しいぞ」

 だとか、言いがかりも甚だしいことをラシェに言い放ってみたり。
 思ってもみないことを言うのは大変だったけれど、おかげで僕は物凄く愚かで傲慢、えらそうなばかりのろくでもない王子だという噂になっていたと思う。
 勉強だって思いっきりサボった。
 落ち着かなくてたまらなかった。

「殿下……」

 などと、いつも支えてくれるお友達たちからは気遣わしげな眼差しを寄越されたが、彼ら彼女らもきっと、僕に、否、俺様に呆れていたに違いない。
 ミュリニエ嬢も何故だか知らないが大変に協力的で、よく俺様の愚かしさの演出の手助けをしてくれたのも有難かった。
 大部分がただ単に俺様の側に侍って、腕に絡みついてくるだけではあったのだが。
 平民の無礼な女を目にかける愚か者になれたと思う。
 その集大成とも言えるのが、あの、成人祝いのパーティーなのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺は勇者のお友だち

むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。 2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

婚約破棄されたのに二度目の召喚ってどういうこと?

相沢京
BL
ストーカーに追われて歩道橋から転落したら違う世界にいた。 それによく見れば見覚えのある顔がそろっていた。 マジかよ・・ 二度目ってありなのか?

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

処理中です...