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8・更に前の話の続きの続きの続き、目的。
しおりを挟む僕は元来あまりよくない頭を振り絞って必死に考えた。
ミュリニエ嬢とラシェは、おそらく相性がまったくよくない。
なにせミュリニエ嬢は僕を一切敬わない。それは忠誠心の厚いラシェにとっては大変に腹立たしいことだろう。
また、生まれながらに高位貴族であり、厳しい王配教育を受けてきたラシェだ。
庶民だとかの態度など、理解できないのではないかと思いわれた。
ちなみに教育は半ばまで僕も一緒に受けていたのだけれど、途中から理解できなくなって悔しい思いをしたものである。
同時にラシェはやはり大変に素晴らしい人物であるのだと再認識もしたけれど。
ラシェが、いつぞや教えてもらった大衆小説の登場人物のように、明確によくない企みを持ってミュリニエ嬢に接するとは欠片も思わなかった。
しかしそれは重要ではないのではないかとも考えた。
どういった理由にせ、ラシェがミュリニエ嬢に対して、他の人にそうするよりも、大変厳しい態度であることは間違いがない。
それで充分なのではないだろうか。
そもそも、僕本来の目的からすると、理由などは何でもよいのだ。
それというのも僕が目指していたのは、ラシェを断罪する『ざまぁ』ではなくて、ラシェからの『逆ざまぁ』だったからである。
僕が愚かになればいいのだと思った。
それこそ、見兼ねた父上から廃嫡されるぐらいに。
『ざまぁ』宜しく、僕がラシェを断罪する。そしてその後、潔白であるラシェが、逆に僕に仕返しをするのだ。規律正しい生真面目なラシェのことだ、きっと自分の正義感に基づいて、僕を断罪し返してくれることだろう。
そうなればいい。
問題になるとすればラシェの高い忠誠心。
ラシェは正しく僕を大切にしてくれているので。それを覆さなければならない。
その為に僕は、大変に愚かである必要があった。
それから僕は頑張った。
とりあえず態度を出来る限り悪くして、愚かさを演出する。
例えば、
「お前、なぜ俺様の前に立っているのだ? 脇に避けて首を垂れるのが筋というものだろうが」
なんて、廊下で行き会っただけの男子生徒にものすごーく偉そうに告げてみたり。
何度目か、
「ラシェ様がひどいんです~!」
などとよくわからない告げ口をしてくるミュリニエ嬢を腕に抱いて、
「ラシェ。貴様、彼女を罵ったらしいな? そのような嫉妬など見苦しいぞ」
だとか、言いがかりも甚だしいことをラシェに言い放ってみたり。
思ってもみないことを言うのは大変だったけれど、おかげで僕は物凄く愚かで傲慢、えらそうなばかりのろくでもない王子だという噂になっていたと思う。
勉強だって思いっきりサボった。
落ち着かなくてたまらなかった。
「殿下……」
などと、いつも支えてくれるお友達たちからは気遣わしげな眼差しを寄越されたが、彼ら彼女らもきっと、僕に、否、俺様に呆れていたに違いない。
ミュリニエ嬢も何故だか知らないが大変に協力的で、よく俺様の愚かしさの演出の手助けをしてくれたのも有難かった。
大部分がただ単に俺様の側に侍って、腕に絡みついてくるだけではあったのだが。
平民の無礼な女を目にかける愚か者になれたと思う。
その集大成とも言えるのが、あの、成人祝いのパーティーなのだった。
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