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序・一
しおりを挟む「貴女は正三品、濡嬪の位を頂くこととなります」
しかつめらしい顔で、女官らしい女性から厳かに告げられた言葉に、俺はついに覚悟を決めた。
大帝国華。
大陸でも五指に入る大国の後宮。
ここが今日からの俺の住処となる――……本来の性別を隠して。
+++
「濡嬪様。お早くお目覚めになられませ」
瞼を指す、さわやかであるはずの朝の光。聞こえてきた耳慣れた年若い宮人の声に俺は覚醒を促された。
「ああ……わかっている」
声を偽らず半ば呻きながら、気怠い体をずるりと起こす。
さっと宮人の差し出してきた手桶で、促されるまま顔を洗い、水の冷たさにぶるり、小さく身を震えさせながら、緩慢な動作で身支度を整えていった。
寝間着を肩から落とし、宮人の差し出した衣装を手にし、慣れない手つきで着付けて行く。
この国特有の華服などと呼ばれている他国ではあまり見ない装束は、しかし存外に、一人で着付けるのが難しい衣装では決してなかった。
それでも着慣れることは無いのだろうと溜め息を吐く。
「濡嬪様」
何とか見苦しくない程度に服装を整えた俺に、宮人が仕上げとばかり薄い布を差し出してきた。
俺はそれを緩く首に巻いて、喉元が見えにくいよう柔く襟元へと差し入れる。
そんな俺を宮人がさっと確認して頷くのへ、俺は小さく溜め息を吐いた。
毎朝のこととは言え、ああ、なんて煩わしいのだろうと。
「お支度が整いましたら、早急に向かわれますよう。玄貴妃様がお待ちです」
にこともしない宮人にそう告げられ、気を重くしながら朝食も摂らずに与えられている宮を後にした。
向かうのは玄貴妃の住まう栗北宮。
場合によっては、朝食はそちらで、玄貴妃と共に摂ることとなるのだろう。
否、今日はどうだろうか。昨日を思い返しながら、俺は、今日こそ玄貴妃の機嫌が悪くなければいいと願わずにはいられなかった。
いつも通りの朝である。
すでに慣習となった玄貴妃の元への訪い。
俺がここで課されている重要な役目の一つだった。
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