君の花となる為に

愛早さくら

文字の大きさ
上 下
1 / 6

序・一

しおりを挟む

貴女・・は正三品、濡嬪じゅひんの位を頂くこととなります」

 しかつめらしい顔で、女官らしい女性から厳かに告げられた言葉に、俺はついに覚悟を決めた。
 大帝国華。
 大陸でも五指に入る大国の後宮。
 ここが今日からの俺の住処となる――……本来の性別を隠して。




+++





「濡嬪様。お早くお目覚めになられませ」

 瞼を指す、さわやかであるはずの朝の光。聞こえてきた耳慣れた年若い宮人の声に俺は覚醒を促された。

「ああ……わかっている」

 声を偽らず半ば呻きながら、気怠い体をずるりと起こす。
 さっと宮人の差し出してきた手桶で、促されるまま顔を洗い、水の冷たさにぶるり、小さく身を震えさせながら、緩慢な動作で身支度を整えていった。
 寝間着を肩から落とし、宮人の差し出した衣装を手にし、慣れない手つきで着付けて行く。
 この国特有の華服などと呼ばれている他国ではあまり見ない装束は、しかし存外に、一人で着付けるのが難しい衣装では決してなかった。
 それでも着慣れることは無いのだろうと溜め息を吐く。

「濡嬪様」

 何とか見苦しくない程度に服装を整えた俺に、宮人が仕上げとばかり薄い布を差し出してきた。
 俺はそれを緩く首に巻いて、喉元が見えにくいよう柔く襟元へと差し入れる。
 そんな俺を宮人がさっと確認して頷くのへ、俺は小さく溜め息を吐いた。
 毎朝のこととは言え、ああ、なんて煩わしいのだろうと。

「お支度が整いましたら、早急に向かわれますよう。玄貴妃様がお待ちです」

 にこともしない宮人にそう告げられ、気を重くしながら朝食も摂らずに与えられている宮を後にした。
 向かうのは玄貴妃の住まう栗北宮。
 場合によっては、朝食はそちらで、玄貴妃と共に摂ることとなるのだろう。
 否、今日はどうだろうか。昨日を思い返しながら、俺は、今日こそ玄貴妃の機嫌が悪くなければいいと願わずにはいられなかった。

 いつも通りの朝である。
 すでに慣習となった玄貴妃の元への訪い。
 俺がここで課されている重要な役目の一つだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

処理中です...