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続編的番外編
x-35・意外な反応とその後①
しおりを挟むところで、危惧していたディルのことなのだが、いったい何を思っているのか、それとも何も思っていないのか、何故かそれから数日間、ディルは大人しいままだった。
その上、ディルの代わりにと大公が寄越した人物を見て、思いっきり不機嫌も露わに眉を潜めはしたものの、暴言を吐いたり抵抗したりするわけでもなく、どこか諦めたように溜め息を吐いて、それだけで、なんとすんなり受け入れてしまったのである。
「あー……あのコクオーサマもビショーネンも、なんか企んでるって風ではねぇしなぁ。二人ともそんなことを考えられなさそうな小者だってぇことだ」
などと、最後まで、代わりに来た者の眉さえ顰めさせる、微妙な悪意をまき散らしていったけれどそれだけ。剰え誰に向けてなのか、
「しばらくは近くにいるから、なんかあったら呼べよ」
などと親切と言えなくもないようなことを言い置いて、どこかへ歩き去っていったのだった。
俺たちの間には何処か拍子抜けしたような空気が漂って、でもラルもディーウィもオーシュも、皆が僅かなりほっと安堵したのが伝わってくる。
余程、彼の相手を厭っていたということなのだろう。
俺はあまり何も思っていなかったのでよくわからないが、これからはディルの所為で、彼らの機嫌が悪くならないのなら何よりだなと、そうは思った。
ディルの代わりにと大公に命じられたとやってきたのは、大人しそうな青年だった。
ごくごく普通の青年で、特に無礼ということもなく、また、すでにこちらが把握しているが故か、監視の役目を担っていることも隠さない。
「申し訳ございません、フィリス様とそのお父君の今後の動向は、こちらでも把握しておく必要がございまして……」
それが今後も父を、この国に匿い続ける条件のようなものだということなのだろう。
むしろ、当然のことだろうと頷いた。そもそも、これまでそういった者が父の近くにいなかったことの方がおかしいのだ。
聞くとその青年曰く、母の元を訪れる存在はあまりにも様々で、逐一把握しきれていないというだけの話なのだそうだけれど。
始めは父のことも、その内の一人としかとらえていなかったのだそうだ。
だが事情が変わり、父は長くここに留まることになってしまった。
一応様子を見ていたのだが、父と共にいた者が、ごくごく単純に働きに出るぐらいで、何かをしている様子もない。
それでいったい今後どうしようかと扱いあぐねている間に、俺が父の今後の相談に乗りに来るという話を聞きつけ、ならばと、護衛兼監視を同行させようという話になったのだと教えてくれた。
ちょうど国に戻ってきていた、普段は冒険者をしている異母兄がおり、庶子とは言え兄、他よりは信頼がおけるし、何より腕が経つのは間違いない、どんな理由で大公はディルに俺達への動向を申し渡しただけなのだという。
冒険者をしているから、多少、態度が粗野だったりするかもしれないが、まさかあそこまで俺に敵意を向けるだなんて、大公は全く考えてもいなかったそうだ。
信頼していただけに裏切られたと怒ってもいると青年は云った。
要は大公に他意はなかったのだと主張したいのだろう。
嘘だとも思わないので、それについては何か責に問うようなことはしないと青年からも大公に伝えてもらう。
ディルに対してはこちらもそれ相応の対応を取っていたというのもある。
無礼だなんだに関してはお互い様というものだろう。
ラルが少しばかり不満そうだったが、俺はそれで押し切った。
青年はそれでほっとしたようで、その後はこちらの護衛に混じって、俺たちに着いていてくれることになった。
職務上、父に関して何かをする場合は、必ず彼を同行させなければならないが、他との違いなどそれぐらいだ。
ラルたちも、信用するとまではいかないまでも、特に拒絶するつもりもないらしく、特に問題なく過ごせている。
父の方は流石に順調とはいかず、はじめに危惧したとおり、父が変わることを良しとしないものが父の近くにいたようで、そちらの対応に少し、手を取られることとなってしまった。
とは言え、その者は二人いた侍女のうちの一人、俺が初めて父の屋敷を訪れた時に出迎えてくれたのとは違う方の、父よりも年が上の侍女で、父のことは出来の悪い弟か何かのように捉えていたらしく、
「現状でもすでに陛下を、このような質素な状況でいさせてしまっておりますのに、それ以上などあまりに忍びなくて……」
などと泣かれてしまっては、責めることなど出来るはずがない。
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